罪
――――そこはとてもとても美しくて、穢れたものなど一つも無い理想郷なんです。
私はそれを目にして、余りの神々しさに……あるいは郷愁すら覚えて、思わず涙をこぼしました。
そこに触れたくて、手を伸ばしました。
すると、私が触れたところから、どんどん、どんどん、およそ考えられないほどの純粋な白色光をまとっていた筈のその場所は、薄暗い黒色に澱んでいくんです。
私は気付きました。
ここは聖域なのだと。
そして私は、その中における異物なのだと。
私は、この美しい世界を眺めていることしか出来ないのだと。
触れ得ざる桃源郷。
私が関わらない限り、ここは、この世で最も尊い場所でいられる。
そういうことなのだと思います。
だけれど、それはこの身にとって、余りに寂しくて、寂しくて、寒くて、孤独な。
弱い私には、耐えることができませんでした。
だから、私は罪を犯しました。
それでも、その罪は私にとって必要なものでもありました。
故に私は罰を受けました。
罰を受けて、また一人になりました。
孤独になりました。
それでも良かった。
私は、この場所を見ているだけで、満足できていました。
ここは、私を受け入れてはくれなかった。
それでも私は、美しいその景色を思い浮かべるだけで心穏やかで居られたんです。
後悔なんて、何一つ無かったのに。
その筈なのに。
……言い訳にしかなりませんが、それでも恥を承知で口にするならば。
あの子が、私の背中を押しました。
それでも、古き世に倣うなら、ルビコンの川への一歩を踏み出したのは私です。
自分はこんなにも弱かったのかと、己の浅はかさを噛み締めました。
あるいは、それすらも喜ばしく感じてしまう己の罪深さを呪いました。
……もう、この世界に、本当の私の名前を呼んでくれる人はいません。
……私の名前は。
…………私の名前は――――




