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愉悦

 アリスさんのお蔭で人員確保計画がまとまったので、アビスさんに挨拶に行く。


 あの人が、今回の計画の鍵なのだ。


 教えてもらった宿の部屋をノックすると、部屋の中でもきっちりした服装のアビスさんが出てきた。


「こんにちは、アビスさん」

「おや、ナイン君か。いらっしゃい」


 少しばかり世間話をして、お互いの近況を交換したところ、やはりアビスさんの評判はこの辺りでは良くないらしい。


 ならば自分が認めてもらえている治安の良い所に拠点を置けば、悪い噂を聞かずに済むだろうに、と思うのだが。


 治安維持の為に、態々ここの周辺を主な活動地域にしているこの人は、拠点を変えるつもりがないらしい。


「でも、正しいことをしてるのに冷たく当たられるのは、辛いんじゃないですか?」

「……うん。まあ、正直に言えばそう感じることもある。けれど、必要なことだと思うし」

「……実は、僕も似たような事で悩んでいましてね。正確には、正しいことをしたいけれど、出来ないというか」

「ふむ? 君がかい?」

「今は教会でお世話になっていたんですが、そこの司祭様が夜逃げしてしまいまして」

「何とまあ……資金難だったのかな……いや、失礼」

「一応僕もサリア教の末席を汚す身ですから。教会が機能しないままだと、ここの住民の方達の心も荒んでしまう一方だと思いまして」

「そうだね……心の寄る辺がなくなるって言うのは、決して看過して良い事じゃない」


 実のところ、ここら辺の人は、別に神様なんて信じちゃいないと思うけどね。


「かと言って、いきなり僕が司祭様の代わりになるなんて大それた事は出来ませんし」

「……うん。それもそうか……難しい問題だな」


 ここで『じゃあ、代わりの者を派遣してもらおう』とか、『代わりに自分がやるよ』なんてもっともな事を言われちゃ困るので、畳み掛けちゃおう。


 使徒って事は、アビスさんも敬虔な信徒なんだろうし。


「これでもそこそこの修行は積んだ身ですから。この街で何か実績があれば、司祭様の代役を務めることも認めてもらえるかな、と愚考しました」

「……成程」


 ほんとにそこそこだけどね。


 聖典とかを丸暗記してるだけだし。


 信仰心もクソもないから法術なんか全く使えないし。


「そこで、あんまり普通の司祭様がやりたがらない、囚人の方への説法を行ってみようかな、と考えているんですが……」

「へえ! それは良い心がけじゃないか!」

「ただ、僕は所詮流れ者ですから。怪しまれてしまって、門前払いを食らっちゃうんじゃないかなと思うんですよ」

「なんだ、そんなことか。ならボクに任せてくれ」

「あらら、良いんですか? いや、お願いしようとしていたのは確かですけれど……ご迷惑じゃありませんか?」

「何を水臭いことを! 神の慈悲の心と威光を広めるのに、協力しない理由は無いさ」

「……本当に、アビスさんにはお世話になってばかりで……ありがとう、ございます」


 そう言って、僕は深く頭を下げた。




 にやけ面が止まらねえよ。

 見られてないよね?




「いいんだ、ほら、頭を上げてくれ」

「いえ、そんな」


 だ、駄目だ、まだ笑うな……しかし……!


「あんまり感謝されてしまうと、こちらが恐縮してしまう。頼むよ」

「わ、分かりました……このご恩は、必ず……」

「な、泣かないでくれ。そんな、君の気持ちは分かったから」




 笑いすぎて涙が出そうになっちまったよ。

 やっべえ、マジうける。



 このご恩は、必ず仇で返しちゃう。


 今の僕、最低だわ。

 自虐ってたーのすぃーい!



 ごめんねぇ、アビスさん。

 キラキラした目のあなたには、ちょっと汚れてもらおうと思うんだ。


 そんな眩しい所にいないで、こっち側においでなさいな。

 自分の力じゃどうにもならない歯痒さを、少しは味わってごらんって。


 つまりは、八つ当たり。

 あっはは、ごめんねー。

 許して頂戴ねー?


 大丈夫さ、問題無い無い。

 案外ここも、居心地はいいからさ。



 うふふふふ。

 

             くひひひひ。


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