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ナイスキャプチャー

 ……アリスさんが落ち着くのを待って、三人で作戦会議を開始。


「この街の全体図、人口、主要産業。首長の評判、経歴、汚職の有無。街道の整備状況、港の配置図。船の発着時間。その他諸々……ようもまあこんだけ調べられたなあ」

「わ、私、頑張った。頑張ったもん。当然じゃない!」

「ありがとうございます。アリスさんは、頑張り屋ですねえ」


 そう言って、彼女の頭を撫でると、一瞬体を強張らせて、僕の手から逃げてしまった。


 ちょっとショックを受けていると、哀れを誘う目でこっちを見てくるものだからめげずにもう一度撫でてみたら、目を細めて受け入れてくれた。


 可愛いなあこの子も。


 でもこんな子を誑かしちゃったんだよなあ、僕が。


 こんなに素直な女の子を、僕が、こんな場所に、引きずり込んだんだ。


 仕方ないね。


 アビスさんとかと違って、僕には力が無いから。


 うん、仕方ないや。


 分かってはいたことだけど、父さんみたいな英雄にはもうなれないや。

 ごめんよ、父さん。


 僕は外道だ。


「ほらほら、またボーっとして。アンタがやらなあかん仕事やろが」

「はいな。申し訳ない」


 ピュリアさんは厳しいなあ。


 でも、こんな感じで、昔母さんにも怒られたっけ。


 ピュリアさんにも僕のお母さんになって貰おうかなあ。


「えっと、ええと、も、もし船を使うんだったら、ここ。この港」


 そう言って、アリスさんが地図を指差してくれたので、覗いてみる。


「どれどれ……ああ、成程。不法な奴隷船、こんな所からも出てるんですねえ。よく見つけましたねこんなの」

「なんや、アンタも元同業者やろが。知らんかったんかい」

「ウチは万年貧乏でしたから、馬車しか使えませんでしたよ。船なんて高いもん使ったことほとんど無いです」

「先立つモンがないとどこも辛いなあ」

「儲かりまっかー?」

「ぼちぼちで……その喋りやめえ言うたやろ」


 ビタン、と引っぱたかれる。

 ノッて来たくせに。


「あ、あの」


 先ほどのやり取りから、妙に挙動不審になってしまったアリスさんが、必死な表情で声をかけてきた。


 多分、この情緒不安定も契約の副作用だから、その内収まると思うけど。


「どうしました?」

「この船使うなら、あの、チャンスは一回だけ。ちょうど半月後」

「ありゃま、素晴らしい。アグスタに戻るのにぴったりのタイミングじゃないですか」

「えへ、えへへ」


 かいぐりかいぐりしてあげて、耳裏もさすって上げると、ぴくぴく動く耳がまた可愛らしい。


 良い子を捕まえたなあ。

 ナイスキャプチャー。


「じゃあ、決行はその船の出港日でええの?」

「そーですね。出港が深夜だから、その日の日没にしましょう」

「……うん。それで、いいと思う。私も」

「それじゃ、決まりですね。よーし、寝ましょうか。ファーマーさんも居ませんし。二人とも、好きな部屋使っていいですよ」

「ウチはアンタの部屋でええ」

「わ、わた、私、は……あの……」

「ああ、無理しなくてもいいですよアリスさん。今まで大変だったでしょうから、今日は一人でゆっくり休んでください」

「……うん」


 そうして、僕とピュリアさんはあの血肉の臭いの溢れた部屋に、アリスさんはファーマーさんが使っていた部屋に、それぞれ分かれた。


 アリスさんを宥めてくれたお礼に、今日は存分に、ピュリアさんを撫で撫でしてあげよう。



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