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ペチンペチン

 酒場から教会に戻ると、ファーマーさんが迎えてくれた。


 とりあえず、今日はもう寝るとだけ告げて、与えられた部屋に向かう。


 流石に何も手伝いしないで居座るわけにもいかないから、明日から何かお手伝いをしないといけないな。


 ちょっと埃っぽいけど、十分な広さのある寝室の中で、ようやく一息つけた。


 森を抜け、ナイル村で墓参りをした後はピュリアさんに運んできてもらったとは言え、体に疲れはたまっていたらしい。


 眠気が段々襲ってきたが、コンコン、と窓を叩く音に気が付き、そちらに目をやると、鳥の姿のピュリアさんが嘴で窓ガラスを叩いていた。


 そして、彼女の姿を見て思い出したことがある。

 僕は、彼女を部屋に入れてやった。


「やあ、いらっしゃい」

「外は寒いからなあ、失礼するわ」


 そう言って、彼女はもぞもぞとベッドの上の毛布に潜り込んで暖を取り始めた。

 暖かいか? なあに、直ぐに血の気が引くさ。


「ピュリアさん、ちょっと元の姿に戻ってくれません?」

「ええ? 嫌やわ、面倒くさいし」

「お願いですから」

「なあに……あ、ひょっとして、ウチの裸見たいん?」

「それもありますけど、それとは別に。大事なことを忘れるところでした」


 ふうん、と息を一つ吐いて、彼女は更に深く毛布に潜り込み。

 完全に姿が見えなくなったところで、いきなりモコモコとその中身が体積を増していった。


「ほれ、これでええやろ? そう簡単にウチの裸体を拝めると思わんことやな! スケベな奴には、もうタダ見させたらんで?」


 そんなことを、毛布をくるんだお馬鹿ハーピーがぬかしている。


 こいつは酒場で自分がやったことをすっかり忘れているらしい。

 反省のかけらも見えやしない。


 ……やっちゃって良いよね?

 ついでに、この姿はある意味全裸よりそそることを教えてあげても良いよね?


「ピュリアさん、ちょっと、四つん這いになってください」


「へ? 嫌よ、何言うとるん」


「嫌じゃない、早くしろ」


「な、何怒ってるん……?」


「ほう、何を? 今、何を怒っているのかと! そう言いましたか!」


「ひいぃっ」


「僕は! 言ったよね! 酒場で喋るなって!」


「は、はひぃ」


「でもピュリアさん! 喋ったよね! 声高らかに!」


「だだ、だって」


「だってじゃないよ! しかも僕をペット扱いしてさ! いや、それは良い。それはそれで良いんだ。ちょっと興奮したし!」


「へへへ、へ、変態! 異常性欲者!」


「うるさい、男はみんな変態なんだよ! おら、黙ってケツを出せ!」


「やあ、いやあぁ!」


 無理やりピュリアさんの首根っこを捕まえ、ベッドに座っている僕の膝の上にお腹を乗せる体勢を取らせた。


 下半身にかかっている毛布をまくりあげ、彼女の頭の上にまで被せ直す。


「やあ、何するん、このスケベ! エッチ!」


 バタバタと足を出鱈目に動かすピュリアを尻目に、僕はそのちょっと小さめで、それでいて弾力に富み、羞恥からかほんのり赤く色づいている、尾羽があってそれもまた可愛らしい、思わず顔を埋めたくなるような、と言うか、見えちゃいけない部分がチラチラ見えていてなんだろう、ああ、とにかく、そんな彼女のお尻を撫でまわす。


「人間の文化ではね、悪い子へのお仕置きとして、伝統的な技法があるんですよ」


 その名も、お尻ペンペン。

 いやあ、良い響きですね。


 右手を振りかぶり、パチイン、と一撃。


 やっべ、何これ。柔らかくて、それでいてこちらの衝撃を少しでも跳ね返そうとするようなこの張り。


 たまんないやないか。癖になりそう。


「い、痛いやん、やめてぇや!」

「あかんわこれ、最高の感触ですわ。やめられない止まらない!」


 パチン、ペチン、パチン。


 ああ、何だこれ。この充実感。


 そうか分かった。僕はピュリアさんのお尻を叩くために生まれてきたんだ。



 ――ナイン、正気に戻りなさい――!



 大丈夫ですよティア様。


 後でちゃんと貴女もペチンペチンしてあげますからね!

 牢屋で何一つ役に立たなかったし!


 ――や、八つ当たりされる!? この痴れ者、私を誰だと心得ますか――!


 ヘたれラミアでしょ?

 知ってますとも。お尻の範囲が分かんないから、代わりにおっぱいペチペチしてやる。


 ――な、何てこと。そんな、私は契約者の選択を間違えた――!?





 十五分後。


 濃厚なペチンペチンタイムを終えて、僕はかつてない充足感を覚えていた。


 いやあ、生まれてきて良かった。母さん、生んでくれて有難う。


 ええと、母さんの名前は……なんだっけ。


 あれ? ああ、そうそう、ガロンだ、ガロン母さん。

 嫌だなあ、親の名前をど忘れしちゃうなんて、お爺ちゃんじゃあるまいし。


 気を取り直して周りを見ると、ベッドの上ではピュリアさんがシクシク泣いていて、頭にはティア様のすすり泣きが響いていた。


 やりすぎたかもしれない。でも後悔はしていない。


 それはそれとして、アリスさんからの連絡が無いな。

 まあいいか、まだ街に着いて初日だし。


 急ぐようなタイミングじゃないしね。



 ……アリスさんと言えば、どうもアロマさんのこと大好きみたいだけど。


 悪いことしちゃったかな。


 まあいいか。存分に、これからアロマさんの代わりに愛してあげれば。


 だからアリスさんも、存分に僕のことを  してくれていいんですからねー?


 ……アロマさん、アロマさんね。


 彼女を愛するには、どうすれば良いだろうか、な。


 折角仲がよさそうだから、アリスさんにお手伝いお願いしちゃおうか、な。



 ……そういや、今頃アグスタの皆は何してるんだろうね。    


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