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インスタント・メサイア  作者: 田山 翔太
頂戴したイメージイラスト/ファンアート
3/201

エヴァ・カルマ

蘇芳様にキャラクターのイメージイラストを描いていただきました。

誠にありがとうございました。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


エヴァ・カルマ(作:蘇芳様)



 

 ――あなた方は、いつも一滴ひとしずくのうっすらとした期待だけを残して、そして離れていきます。


 数種類の、知る限りの、そして実行可能な努力は……先ほど期待と表現した、真に己が望む何らかの不確定な、そう、何らかを。結局この小さな掌の上に置くことをよしとしませんでした。


 自分はもう疲れました。


 馬鹿のように期待して、裏切られて、そして学習もせず犬のように下品に舌を出し、欲を隠すことなく恥さえ捨てて『欲しい』と望み、やはり得られることもなく。

 もう、疲れました。疲れ果てたのです。

 許してくださいと、言葉だけが宙に溶けます。

 滑稽な己を省みる事に、飽いたのです。

 目に映る全てが胡乱です。

 身の回りのもの全てが、いつ自分を裏切ろうかと、今か今かと楽しみにしているようにも思えます。


 生きる事が辛いのです。


 ……ただ息をして、瞬きをし、在る。


 そんな風な、必死という言葉に値しないような、されどどこまでも切実なやり方で生をやり過ごすのは、苦痛そのものでした。


 何故我々はこの世にあらわれたのでしょうか。



 ――他人の幸福は、腹が立つものでした。軽蔑すべき考えである事は承知の上です。



 幸とはそれ即ち能天気と、蔑みを持ってそれを表現するには、この身は少々小賢しすぎ、これが妬みだと気付いてしまう程度には、この内心に自覚的であるのです。

 そこまで鈍くはない、と。いくら己の愚かさに気付こうとも、そこまでは。


 ……この感覚は、それ以外を欺瞞とみるほどに直覚的で、暴力的で、断罪的でもありました。

 そうした事に無神経でいるために必要な条件を、自分は既に失っていました。

 どうやらおそらく、自己に埋没する時間を取り過ぎたようです。


 長く生きられるだけ。その他に何も齎さなかったこの体が、ただ呪わしい。


 気付いてしまえば気付かなかった事になどできず、そのふりもできず。

 気付かぬことに、知らないままである事に、迷いを覚える必要がない時点こそが。

 あの幼かった時分こそが、幸福の在処だったのだと理解して。


 ……かつて彼と子狐の姉弟ごっこを冷ややかに眺めていながら、そのくせ羨ましくも思っていた。

 自分はただ、ひたすらに無様でした。



 ……全てを知ろうだなんて、何の意味もなかった。

 結局、そんなものに意味などなかった。



 なんて惨めなものでしょう。

 自分のこの有様は。



 ……自分が本当に欲しかったのは。




 ――悪魔の詩編『原初の魔女』より。



※なお、こちらは書籍化のお話をいただく前に、同氏に自分なりのイメージをお伝えした上で描いていただいたものなので、書籍版とデザインが異なる場合があります。何卒ご了承くださいませ。

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