エヴァ・カルマ
蘇芳様にキャラクターのイメージイラストを描いていただきました。
誠にありがとうございました。
エヴァ・カルマ(作:蘇芳様)
――あなた方は、いつも一滴のうっすらとした期待だけを残して、そして離れていきます。
数種類の、知る限りの、そして実行可能な努力は……先ほど期待と表現した、真に己が望む何らかの不確定な、そう、何らかを。結局この小さな掌の上に置くことをよしとしませんでした。
自分はもう疲れました。
馬鹿のように期待して、裏切られて、そして学習もせず犬のように下品に舌を出し、欲を隠すことなく恥さえ捨てて『欲しい』と望み、やはり得られることもなく。
もう、疲れました。疲れ果てたのです。
許してくださいと、言葉だけが宙に溶けます。
滑稽な己を省みる事に、飽いたのです。
目に映る全てが胡乱です。
身の回りのもの全てが、いつ自分を裏切ろうかと、今か今かと楽しみにしているようにも思えます。
生きる事が辛いのです。
……ただ息をして、瞬きをし、在る。
そんな風な、必死という言葉に値しないような、されどどこまでも切実なやり方で生をやり過ごすのは、苦痛そのものでした。
何故我々はこの世にあらわれたのでしょうか。
――他人の幸福は、腹が立つものでした。軽蔑すべき考えである事は承知の上です。
幸とはそれ即ち能天気と、蔑みを持ってそれを表現するには、この身は少々小賢しすぎ、これが妬みだと気付いてしまう程度には、この内心に自覚的であるのです。
そこまで鈍くはない、と。いくら己の愚かさに気付こうとも、そこまでは。
……この感覚は、それ以外を欺瞞とみるほどに直覚的で、暴力的で、断罪的でもありました。
そうした事に無神経でいるために必要な条件を、自分は既に失っていました。
どうやらおそらく、自己に埋没する時間を取り過ぎたようです。
長く生きられるだけ。その他に何も齎さなかったこの体が、ただ呪わしい。
気付いてしまえば気付かなかった事になどできず、そのふりもできず。
気付かぬことに、知らないままである事に、迷いを覚える必要がない時点こそが。
あの幼かった時分こそが、幸福の在処だったのだと理解して。
……かつて彼と子狐の姉弟ごっこを冷ややかに眺めていながら、そのくせ羨ましくも思っていた。
自分はただ、ひたすらに無様でした。
……全てを知ろうだなんて、何の意味もなかった。
結局、そんなものに意味などなかった。
なんて惨めなものでしょう。
自分のこの有様は。
……自分が本当に欲しかったのは。
――悪魔の詩編『原初の魔女』より。
※なお、こちらは書籍化のお話をいただく前に、同氏に自分なりのイメージをお伝えした上で描いていただいたものなので、書籍版とデザインが異なる場合があります。何卒ご了承くださいませ。