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ノーパンスタイリスト

 そんなこんなで、ちんたらちんたらピュリアさんと与えずの森までフラフラ歩いている訳だけど。


「なんやっけ、アンタ確かイスタの生まれやったか」

「そうなんですよ、だから折角なんでついでに里帰りでも、と思いましてね」


 来るときに一応寄れたけど、きちんとお墓参りは出来てなかったからね。


「んで、なんや、まだ森まで着かんのかいな。人間の足は遅いなあ、ウチやったら三時間もあればイスタにつくで」

「歩きながらどうするか考えてるんですよ。それに、多分早くても後二日は掛かります」

「はー……もう歩くのも疲れたわ。肩借りるで」


 そう言って、ピュリアさんが肩に飛び乗った。

 両肩に足を乗せた際に爪が食い込んで痛かったので文句を言おうとしたが、すぐにバランスが取れたのか軽く掴む程度の力加減になった。


「元々ウチらの種族は長く歩ける様に出来とらんからな、しゃーないねん」

「……それにしても軽いですねー、ほんと、羽みたいじゃないですか」

「ウチらは生まれつき軽量化の魔法が掛かっとるからなぁ、掴んだものにも自動的に掛かるから、どうね、体が軽いやろ」

「ええ、これなら少しは早く着きそうです」

「せやろー? 褒めてもええんやでー?」


 自慢げに言う彼女のドヤ顔っぷりを拝んでやろうと、ついでに短いスカートで人の肩に乗っかる無防備さをたしなめてやろうと思って上を向いた。


 噴出した。


 こいつ下着履いてねえ。


「なんやいきなり! 脚に唾かかったやろが!」

「アホかおのれは! なんでパンツ履いとらんねん、痴女か!」

「その喋りやめえ言うたやろが! あんな鬱陶しいもん履くか!」

「なんなんだよもう……恥ずかしくないの……? 眼福だよ畜生……」

「別に見たけりゃ見たってもええでー、人間なんぞに見られても気にならんし」

「恥じらいが無い……文化が違う……」


 アホだアホだと思っていたが、ここまでとは思わなかった。

 それともハーピーはみんなこんなもんなんだろうか。

 痴女の集まりなの?


 魔族は違うのかもしれないけど、人間は年中発情期なんだよ。


 こんなもの見せられたら僕のフランクフルトが立ち技を披露しちゃうよ。

 寝技に持ち込めないのが問題だけど。

 持ち込もうとしたら多分そこでゲームオーバーになっちゃうしさ。


 いいやもう。

 ご褒美だと思って精々覗いてやろう。


 君のその破廉恥っぷりも愛してやるさ。

 僕は懐が広いからね。


「ところでお腹減ってきたんやけど、食いもんどうすんの? ウチ、なんも持って来とらんで」

「アロマさんの話聞いてなかったんですか? 僕だってなんにも持ってないですよ」

「じゃあどないすんねん」

「ようし、ピュリア。君に決めた。ご飯探してきてくださいな」

「アホウ、逆やろ。アンタがウチのために探して来いや、パシリが」

「ではジャンケンで決めましょうか」

「ウチの体見て言うとるんか? ええから早よ探しといで」


 パーしか出せない劣等種族め、いいや畜生、見てろ、僕の狩猟能力を舐めるなよ!




 ――一時間後。


 ウソ泣きしながら拝み倒して、ピュリアさんに野兎を狩ってきてもらった。


 役立たずの僕は、火おこしの為の薪を集めていた。


「ほんま使えんやっちゃなあ、アンタ」


 グサっと来た。

 言ってはならないことを言いやがった。


「人間ごときにそこまで期待はしとらんかったけどな? まさかここまでトロいとは思わんわ」

「……苦手なんですよ、狩りは昔から」

「素手じゃあ自分の飯も捕まえられん生き物の癖して、なんであないに数が増えたんかなあ」

「…………」

「ん? どしたん、腹でも痛い?」

「……いえ、少しだけ、昔を思い出してまして」


 そう返事をして、火を起こす準備を始めた。

 この位ならなんとか……。


 せこせこ木と木をすり合わせて種火を起こそうとしたら、ピュリアが何かを唱えながら羽根先を一振りした。

 それだけで、集めた枯れ木に火がついてしまう。


「どや、褒めたってもええんやでー? 魔術も使えん奴は不便やなあ」

「……どれ、頭を撫でてあげますよ、こっち来てください」

「ふむん、やってみ……んふぅ、なんや上手いやんか……」


 ピュリアさんの頭を撫でてあげる。


 良い子良い子。

 アダージョ(心地よく)、それからアレグロ(速く)、クレッシェンド(段々強く)、プレスティッシモ(極限まで速く)…………!


「ほうれ、それ、それ! ソイヤ、ソイヤ、ソイヤ!」

「い、いだだ、何すんねん! やめ、こするな、ウチの頭が燃える!」

「ひ、人が一生懸命地道にやろうとしてるのに、アンタって人は……!」

「し、知らんわ! ウチは良かれと思って……」


 魔術とは、使える者と使えない者でこれだけ能力に差が出てしまうものなのだ。

 身分が身分だったから勉強する機会なんか無かったけど、少し位は身に付けておきたかった。


 結局、ピュリアさんに頭を叩かれて正気に戻った。


「何すんねん、ダアホ! ウチはそもそも肉なんか生で食えるっちゅーのに、態々弱っちい人間のアンタの為に火ぃ着けたったんやぞ!」

「……た、確かに。すみません、錯乱しました」

「全く……ハゲたらどないすんねん……」

「そうしたら、僕がお嫁に貰ってあげますよ」

「寝言もそこまで行ったら大概やな。願い下げや」

「ありゃま残念」

「まあ、精々気張りや。気に入ったらペットくらいには格上げしたるから」


 パシリからペットって格上げなんだろうか。

 ともあれそう言って、ニシシ、と屈託無く笑う目の前の気の良い鳥少女は、掛け値なしに可愛らしかった。


 それでもやはり魔族なのだ。

 人間の敵である。


 人間を食らい、人間を滅ぼすのを良しとする、怪物である。





 ……考えてはいけない、思い出してもいけない。


 僕は、ナイン。


 僕の名前は、ナイン。


 もう、正気ではいられないのだから。




――――――――――



「なんや、もう食わんでええの?」

「……ええ、ご馳走様です。有難うございました」

「ええねん。こんな所で野垂れ死なれてもつまらんしな」


 そう言って、彼女は最後の肉を齧る。


 掴む手のない彼女の為に、僕があーんしてあげている。


 ……二人してしゃがんで食べてるから、ほら、ああもう、僕だって一応健康な男な訳で。


 丸見えな訳ですよ。

 こっちが恥ずかしいんですけど。


 翼とか脚とか、確かにちょっと人間とつくりは違うけど、ああもう!


「あー、食った食った、ごっそさん」


 そう言ってゴロンと寝っ転がり……股を開くな!

 痴女いんだよ!


 くそう、アロマさんめ、こいつを付けたのはハニートラップか!


 手を出したら死んでしまうデストラップだけど!


 これだけ無防備でいられると、なんか逆に罪悪感が湧いてきてしまう。


 必死で目を逸らす僕の苦労も知らずに、ニヤニヤしながらこっちに顔を近づけて、目を覗き込んできた。


「どないしたん?」


 わざとだ!

 駄目だこいつ、チョロいようでチョロくない!

 ガロンさんより難易度高い!


 ……これからの旅路に、本来とは別の意味でちょっとした不安を感じながらも、前屈みになりつつ食事の片付けを済ませた。

「ところで、あんたの故郷ってイスタのどの辺りなん?」

「ファースト・ロストです。ご存知でしょ?」

「あー、あそこ……って、ほんまに?」

「ほんまほんま」

「あそこって、生き残りなんかおったんか………なんか尚更アンタおかしいな、ウチらに恨み骨髄やないの?」

「恨んでなんかないですよ」


 嘘だけど。


 でも、愛するって決めましたから。


 魔族を。


 僕の村の皆を、両親を殺した魔族を愛することで、僕は必ず自分の欲しいものを手に入れるのだ。


 だから、ピュリアさん。愛してますよ。


 貴女も、貴女の仲間も。


 愛していますから。


           ひひひ。



「変なやっちゃなあ。しかもこれから同族を餌にする為に旅する訳やろ? ご馳走部屋で働いてたのは知っとるけど、抵抗とかなかったの?」

「僕の仲間は貴女達です。人間なんか、精々苦しんで死ねばいいんです。貴女達の餌に出来るんだったら万々歳ですよ」


 嘘だけど。


「……こないな奴も居るんか、人間ってのはよう分からんなぁ……」




 ――――昨夜の、ガロンさんとの会話の中で、似たような話題が出たのを思い出す。


「……躊躇いとか、後悔とかはねえのか」

「躊躇いって……なんのですか?」

「仲間を売っ払うことにだよ。そもそも、なんで奴隷商になんかなったんだ」

「それ以外に、働く場所が見つからなかったもので。身寄りも、教養もありませんし。魔術も学べませんでしたしね……別に、他人がどうなろうが知ったことでもありませんし」

「……なんにせよ、オレはお前が人間をそこまで嫌ってるのが理解できねぇんだよ。何がお前をそうしたんだ? 人間ってのは、同族を大事にしないのか?」


 大事にしますよ。

 大事だった人はいました。


 でも、もういません。


「場合によりけり、ですかね。どうもガロンさんの種族は、身内意識が強いみたいですけれど」

「同じ人間から虐待を受けたってのは聞いたがよ………それでも仲間だろうが。少なくとも、お前に直接手を上げたわけでもない人間が食われるのを許容するのが、オレにはやっぱり理解できねえよ」

「人間は、自分が一番大切なんです。少なくとも僕みたいに、帰る所すらない、余裕のない人間はね」


 それに、人間が人間を食べることだってある。


 必要があれば。否が応にも。


 ガロンさんには言わないけれど。

 昔、僕が自覚もなく獣以下になったことを、少しだけ思い出してしまった。


「……分かったよ、これ以上は言わねえ。その代わりきっちり仕事をこなして、無事に帰ってこい。そうしたら、お前の居場所が………」


 そこで言葉を切って、あぐらの姿勢から彼女は立ち上がった。


「どっかにあるかもしんねえからな」


 そう言って、ガロンさんは立ち去った。


 薄暗い牢屋でも、彼女の耳が真っ赤になっていたのが分かった。



 ……可愛いなあ。お母さん。

 愛してるよ、ガロン母さん――――






「まあ、つまらない話はそこまでにして。折角だから、アグスタのことについて色々教えてくださいよ。ガロンさんは、何だかんだで箱入りだったみたいだし、結構話が保守的だったんですよね」

「あー、ガロン隊長はなー、ああ見えてお嬢様やからなあ」


 そんな感じで、世間話をしながら、僕は後ろの気配を辿る。



 ちゃんと着いて来ている。


 ピュリアさんは気付いていないみたいだけど、可愛い可愛い子狐が、こっちの後を追ってきているのがわかった。


 ……ああ、ティア様。


 まずは、この子狐さんで試してみますからね。


 貴女に教えてもらった愛を、僕が、魔族のみんなに分け与えられるように、まずはこの子から。

 まずはガロンさんからの予定だったんですけれど、予定変更です。


 予定は未定って言うでしょ?


 代わりにもう一人つけますから、ね?


「何ボソボソ言うとんねん、キモいわ!」


 ピュリアさんに引っぱたかれた。

 相変わらず、こいつの翼は痛気持ちよかった。


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