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アリスの日記3

 魔王様が、許せない。


 後々これを読み返して、きっと私は顔を真っ青にするに違いない。

 最初の一文からして不敬の極みであり、そして下にも同様の趣旨の内容を書き連ねる気が満々なのだ。


 だけど先のことは未来の私に任せるとする。

 今書かねば、この感情は消化されずにじんじんと私の腹底にたまってしまい、たまりかねることの方がよほど恐ろしいから。


 お酒の勢いもあるうちに。そして深夜のテンションが後押ししてくれているうちに書ききってしまおう。

 今の私を慰めてくれるのは本心から来る素直な悪罵だけだ。私の鬱憤を黙って受け止めてくれるから日記は好きだ。


 よし書こう。


 ええと。

 そう。

 こんな手の迷いも思考の散漫も書ききってしまうのだ。勢いを止めたくない。


 そうそう。ほら。

 ナイン。

 昨日からあの子を独り占めしているのだ、魔王様は。これがまず許せない。

 私の弟に何勝手に手を出しているのか。売女ばいたか。

 王であるなら慎みを持つのが相当でないのか。

 尊敬していたのに。なんでなんで。なんでよりによって私の身内に手を出すの。あの子はまだ幼いのに。よりによって私ごとき木っ端の手から大事なものを奪うことないじゃん。


 聞けば、当分寝食を共にするようにとの命があったらしい。

 ふざけんな!

 皆知ってんだから、アンタが熊のぬいぐるみ抱いてないと寝れないのなんて! まさかなななナイン抱いて寝てんじゃないよね? ね? 許さないよそんなの。

 あー飲み足りない。


(水滴で滲んでいる)


 ピュリアだって、ナインはべらした魔王見たときにもなんか余裕ぶってたけど、キレてるよアイツ。実はキレてるよ。鉤爪カチカチいわせてたもん。

 最近の魔王はロクなもんじゃないよ。

 あたしら下っ端が何徹してんのか分かってないよ。いきなりイスタ潰すとか言い出して何考えてんだよ。自分は色ボケしてるクセしてさ。


 アロマ様が申し訳なさそうに頼むから仕事やってるよ? するよそりゃ。クビになりたくないしさ。でも急すぎじゃん。今までの慎重戦術はどこいったんだよ。その皺寄せはこっちに来てんだよ。

 金だって無限にあるんじゃねえんだよ。総務にキレられんのはこっちなんだよ。アロマ様が手回ししてくれてなきゃ今頃あたしゃ窓際だよ。

 そう、アロマ様にだってどんだけ負担かけてんのか分かってんのアイツ?

 そりゃあんだけ面倒かけられたらお美しいアロマ様だって悲しげな顔するよ。

 あの方に「苦労かけますわね」なんて言われちゃやらざるをえないじゃん? でもあの方に命令してんの魔王じゃん。悪いの魔王じゃん。


 それであれかしら。夜になったらナインを部屋に呼んで「余の無聊を慰めよ」とか言って「ああ、そこだ、いいぞ」とか言ってそれこそ文字にするも憚られるようなことを! うら……いやらしい! 信じられない!


 つーかお酒が足りない。

 持ってこよ。


(数枚に渡って濡れて皺くちゃになったページが続く)


 てーかさ、ナインもナインだよね。

 最近あたしのことないがしろにしてんだよ。

 狐は寂しいと死ぬんだよ。兎じゃねえよ狐でもそうだよ。分かってんのかなアイツ。お姉ちゃんさみしいよ。


 それに引き換えガロン隊長は最近なんか上機嫌だけどさ。

 前から思ってたけどアイツなんか贔屓されてるよねナインに。お姉ちゃんないがしろにして犬っころに構ってんじゃねえよ。あたしだってイヌ科だぞ分かってんの? 舐めまわすぞ。下も上もしゃぶるぞこらあ。


 ……でもさアロマ様もさ、なんか怪しいんだよなあ。大好きだけどナインはあげないよ。あげませんよ? アロマ様分かってるの? あげないよ?

 たまに目つきがいやらしいんですよ。雌の顔してません? あげないよ? こっそり二人きりになってるの知ってるんですよ?

 お姉ちゃんそれ認めないよ?


 あたしとおんなじ不憫な扱い受けてるエヴァ女史は飄々としてるし。ってーか最近使徒の資料漁ってるみたいだけど何してんだろ。いいけどさ別に。あたしとピュリアの依頼は受けてくれたし。

 ナインは絶対人間側に渡さないもん。それが出来れば取りあえずは良いし。精々働いてもらおう。邪魔になりゃ消そう。無理か。無理かなー、強いもんなあの年増ダークエルフ。あたしらごときじゃ無理なー。

 ならナインと  様に早く喰らってもらおう。


 あれ誰だっけそれ。

 まあいいやお酒おいしいし。


 あとあれだ。業務日誌にかけないしどうせあれだ、ほらなんだ、そもそもなんでアロマ様、セルフィさんのこと監視してろなんて言ってたんだろ。折角だからここで愚痴書こう。正直な話面倒くさかったんだよね。あの人隙がないんだよ。大変だったし、結局収穫もなかったし。

 昔っからの言いつけだったけどアロマ様ももう手を引いて良いって言ってたからこっちに書いちゃう。むしろ誰にも読まれずにすむからいーや。


 ……んー、あの吸血鬼は何者なんだろ。胡散臭いっちゃそうだけどさ。


 なんかディアボロに来たときの記録が残ってないんだよね。怪しいといえば怪しいけど、エヴァ女史も似たようなもんだし、古株はそんなもんじゃないのかなあ。


 でもなんか吸血鬼ってのが気になるなあ。伝説上の種族って言われてたから、よく考えたら今のディアボロでセルフィさん以外に見たことある人いるかなあ。いないんじゃないかなあ。


 本当に吸血鬼なのかなあの人。そもそも吸血鬼なんて本当にいたのかな。

 どうでもいいけど。

 ナインに手出ししなきゃなんでもいいよ。


 ……誰も彼もが、ナインの側に寄ってくるから。

 お姉ちゃん、心配なんだよう。

 

 ナインー、お姉ちゃんさみしいよー。

 構ってよお。

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