アリスのメモ3
――アリス・クラックス諜報員による報告書作成メモより抜粋。
『渉外担当者がインディラと接触。
とりあえず、フォルクス西部への食糧供給を抑えることに了解を得た。
見返りは大きいものとなってしまったが、無理な額ではない。歳出担当も許容範囲との判断を下していたので、後は彼女らに任せることにしよう。
ただ気になるのは、ティアマリアへは既にその処置が済んでいるとのことだけど……いささか動きが早すぎる。
話が上手すぎる気がするが、陛下はご存知なのだろうか……?』
『アロマ様がティアマリア攻略準備を進めている。ナインの望みのようであるし、きちんと役目は果たそう。
とりあえず、ボルトに連絡。
ティアマリアに常駐している使徒(現在は第九位が任務に当たっているとのこと。油断できる相手ではないが、機動性に欠く。都合が良い)をおびき寄せるため、部隊編成をさせてイスタの生き残りの敗残兵共を潰しておくよう内々に通知。
罠にかかれば、目標である一ヶ月以内の攻略は可能だろう。
忌々しいかの女は聖祭の準備で(滑稽だ!)老人達の相手をすることとなるだろうから、きっと成功する。
ナイン様のおかげで、話が通じやすかったとボルトも言っていた。良かった!』
『ヴェーダにも協力要請。ガネーシャを失ったかの領地は、イスタ陥落後のリール・マール開発と通行利権をちらつかせて懐柔済み』
『シャイターンはいつもどおり協力的だが、ヘブライカはあいも変わらず沈黙。あの秘密主義者どもは気に入らない。あそこはどちらかといえばインディラよりな気質があるから、要警戒』
『アロマ様を小娘呼ばわりしているヴァーミリオン卿は正直許しがたいが、今回に限っては感謝しておこう。あの方のにらみがあれば、他の領地のトップも口出しできまい。
流石ナイン。あの難物をどう誑かしたのかしら』
『エヴァ・カルマ女史に接触。
ナインの身の安全に関して協力を求めたが、保留との回答。使えない女だ。
ただ、机上にあった資料で気になったのは……ナインが精霊について語った(らしい)覚え書き。
精霊たちではないのか? ナインの言葉ではまるで……』
『最近の様子を見るに、エレクトラ殿下がいれば、ナインを守ってくれるかも。
たぶん、殿下も半分侵されている。なかま、なかま。
なにより、セルフィ・マーキュリーの様子も合わせて観察できる。都合がいい。仕事はシンプルであるほど良質だ』
『第二位が動くとの情報入手。未確定ではあるのだが、いくらなんでもアレは危険。
万が一ではあるけれど、時期が一致しているし……陛下の肝いりの、なんといったか、内海の某に関わるのだったらナインが危ない。
エヴァ女史に再度依頼。アロマ様の許可をいただいたので、宰相権限であると伝える。
見返りをいくらか求められたが、とりあえず前払いとしてエレクトラ殿下をナインに同行させるよう計らってくれる、とのこと。
ナインを気に入ってくれてる殿下がいれば、死ぬことはないと思うけど……。
陛下はやっぱり、アロマ様の評価だと視野が少々(ここから先は塗りつぶされていた)だし……』
『――ピュリアの様子がおかしい。ナインに色目を使ったのかな。やだな。
あの子はまだ、私の手元においておきたいのにな』
――ねえナイン、あんまり危ないことしないで欲しいなあ。
お姉ちゃんは心配だよ。
走り書きは、その言葉で締められていた。




