シーチキンよ帰ろうか私たちの町へ
私たちは草原を抜け、丘を2つ越え、大河を1つ渡り、森を横切って、荒野に辿り着いた。頭上を仰ぐと、星の十字架がある。だいぶ長い間歩いたと思ったのに、星の位置はほとんど変わっていない。空の色はかなり薄く、明るくなりつつあった。
それに伴うように、私たちの記憶も少しずつ薄れていった。会話が途絶えると危険だった。記憶の確認を忘れて無言で歩き、歩いている理由すら忘れていたことに気付いた時は、心底ぞっとした。私が裸足で歩いていることを、彼が疑問に思ってくれたおかげで思い出せた。「死ぬところだったね・・・。」「そうだね・・・。」と苦笑い。
荒涼とした大地は懐を広々と開いて、私たちを迎えた。冷たい風が髪を煽る。私は、どこか恐怖に似た寂しさを覚えて、口を開いた。
「ここかな? それとも、まだ歩くのかな?」
「いや・・・・・・ここで、良いみたいだ。ほら、あれだよ、たぶん。」
彼が前方を指さした。目を細めて見つめると、遠くで何かがキラキラと光っている。私たちは引き寄せられるようにして、そのキラキラに近づいた。
キラキラは十字架だった。南十字星の下の十字架。昔読んだ本に、同じようなものが出てきた気がする。
「・・・・・・でかいね。」
「ああ・・・・・・そうだね。」
十字架は近付くとかなり大きくて、目を細めなければ直視できないほど目映く輝いていた。
「すごいな・・・。でもこれで、帰れるんだ。」
そう呟いて、彼は私を見た。
「助けてくれて、本当にありがとう。――――向こうでも、また、会えないかな。」
「縁があれば。」
私はわざと素っ気なく返して、彼を見遣った。意識して悪戯っぽくにやりと笑う。
「会えたら、呑みにでも行かない? きっと、この世界について語り合えるのは、私たち2人だけだからさ。」
「そうだな。――――じゃあ、縁があれば。」
「うん、縁があれば。・・・またね。」
「おう、またな。」
私たちを拒絶するように光は強く輝いている。それに逆らって前に進み続けると、視界が真っ白になって、次いで意識も薄らいできて、やがて何もかも分からなくなった。