シーチキンよ貴方は何処へ行く
素敵な三題をくれた親愛なる友人へ、感謝を込めて。
真夏の深夜のことだった。私は不意に、シーチキンが食べたくて食べたくて仕方がなくなった。布団から這い出る。着替えようかと思い、しかし、面倒臭くなって、そのままコンビニに赴いた。
「ありがとうございましたー。」
眠たげな店員の声が私を見送る。手の中にはツナ缶がひとつ。ビニール袋は断った。いらないし。
・・・・・・さて、と。
どうやって食べようか。
ツナマヨにして握るか?それなら最初からツナマヨのおにぎりを買え。
(醤油で和えてそのまま食べるか・・・。)
それが一番、シンプルで良さそうだ。
家まで5分の道のりを、たらたらと歩く。緩やかな登り坂。真夜中1時を過ぎた頃だが、夏だからね。汗がじんわり染み出てくる。ひじょうに蒸し暑い。 がらん、ころんと、最近 衝動買いした下駄が、足元で鳴く。ジャージにTシャツ、それと下駄。なんともだらしのない姿である。・・・・・・って、あぁっ! やばい! Tシャツに『腹が減っては戦は出来ぬ』とか書いてある!
今更ながらそのことに気が付いて、愕然とした。
(やばい・・・・・・絶っっっ対、店員さんに『どんだけ飢えてんだコイツ』とか思われた・・・・・・。)
うあああああっ、恥ずかしい・・・。
思わず立ち止まって身悶えていると、汗の所為か手の中で缶が滑った。
「あっ!!」
不覚にも落としてしまった。坂をころころと転がっていく缶。私は慌てて走り出した。
コンビニを過ぎ、坂はだんだん急になっていく。スピードはどんどん上がっていく。追い付けない。
(ヤバイ! やばいやばいヤバイって!! この先には――――――)
坂の向こうは、川だ。
(くっそーっ!! 間に、合わ、ないぃっ!)
カンッ!
何かに引っ掛かったように、シーチキン缶が大きく跳ね上がった。くるくると回りながら、闇の中に落ちていく。闇の向こうには川が待っている。私はもはや諦めて、急ブレーキを掛けた。
瞬間、
ブチンッ
「っ!!」
聞きなれない音が盛大にして、身体が宙に浮いた。鼻緒が切れたのだ、と分かったのは、落ちながらのことだった。
(こんの、安物ぉ~~~~っ!!)
そうして、シーチキン缶の後を追うように、私も闇の中に消えた。