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とある原稿用紙
『今日はなにもない、素晴らしい一日だった。』
いつだったか、ゲームの中でそんな日記を男の子が書いていた。
私が男の子を動かしてやったことと言えば、部屋の中をうろつくだけ。画面を切り替えれば瞬く間に時間は過ぎていって、気が付いたら夜。そしてまた、日記を書いて、おやすみなさいをする。
『今日はなにもない、素晴らしい一日だった。』
部屋の中を行き来するしかない退屈な毎日でも、男の子は笑顔でそんな日記を書く。
真横にあるラジコンカーの箱に入った昆虫採集セットなんかには目もくれず、ただひたすらに絵日記のページを当たり障りない言葉で埋めていくのだ。
そんな男の子を見て、幼い私は何を思っていたのだろうか。時間が経ちすぎた今ではもう思い出せない。
ただ、今の私に言えることは。
何もしない一日は全く素晴らしくなんかない、ということだけである。
――瑞永 心