第1章 第1話
帝都を出て東に進みむとアスラ山という木々が生い茂った山がある。その山の中腹に今は使われてない、錆びれた砦がある。
今回の任務はその砦に潜む反帝国組織、言わばレジスタンスの殲滅である。
その砦から30m離れ茂みに2人の青年少女が潜んでいた。
1人は真っ黒のローブに身を包んでいながらも分かる細身の青年、もう1人は赤黒いローブに身を包みフードを深く被った少女。
彼等は動かずじっと砦の門番を茂みから見ていた。
「3人か……どうするよアゲハ」
「馴れ馴れしく呼び捨てしないでくれますか?」
アゲハと呼ばれた少女はフードを取り青年を睨みつける。呼び捨てにされたのが余程腹立たしく感じたらしく、その不機嫌さを醸し出す表情を青年に叩き込ませようとしていた。
青年もその不機嫌さに少し怖じ気付く。
「わ、悪かった。で、どうしま……」
「元素は風。疾風の如く斬り刻む無音の刃……」
青年が話し終えるより先にアゲハは詠唱を始め、そのまま手を門兵がいる方に突き出す。
「えっ……ちょっ……」
「《ウィンドカッター》」
アゲハが術名を放つと同時にヒュンッという風切り音と共に門兵3人は悲鳴を上げることなく、首は胴体から離れ、血を噴水の様に噴出しながら倒れた。
《ウィンドカッター》、名の通り“風の刃”であり術者の手から無数に放たれる初級魔法。
本来は相手の足止めや、無数の刃により身体に切り傷を刻むくらいの殺傷能力が低い魔法として世間では認知されてるが、それはあくまで一般論。
魔法は使う魔力の量に比例して威力を上げる。
それと同時に才能の有無で魔法は威力を変える。
アゲハは人の首を刎ねる程の魔力を注ぎ込んだのか、初級魔法で人を殺めることが出来る程の才能があるのか。
それをこちらが知る術はない。
「はぁ……」
「……なにか?」
青年は眉間に皺を寄せため息をつく。その姿に不満を感じたアゲハは青年を睨む。
「いやぁ……チームワーク的なさ……」
「この任務はスピードを要求されます。そんなのいちいち構ってられませんよ」
アゲハは表情を変えずに淡々と言う。
そんなアゲハの態度に青年はまた溜息をついてしまう。
「……門兵はいなくなりました。早いとこ殲滅してしまいましょう、クリアさん」
答えを聞く間を与えず、アゲハは立ち上がり砦に向かって歩く。
「はぁ……」
青年クリアはまた溜息を吐き出し、重い腰を上げ、楚々くさと歩いてしまうアゲハを追いかけた。