第一章 過去
暗い部屋。明かりは数本の蝋燭による灯火だけ。
少年を取り囲む様にして黒いローブを着た老人が8人。黒いローブを着た老人達の足元から線を伸ばし描かれた魔法陣の中心に少年は座らされており、膝を抱え、耳を塞ぎ怯えている。
老人達はそんな姿の少年を気にも留めず詠唱を続ける。少年に詠唱の意味は分からない。それよりも自分が何故この様な暗い部屋で怪しい老人に囲まれ、意味不明な詠唱を聞かされているのかがこの少年には分からないのだ。
詠唱が終盤に近付くにつれて魔法陣は赤く輝き、より気味の悪さをます。
少年からすれば、今まで自分が見ていた怪しくて怖い視界を遮断する為に俯き、視界を地面一面にしたのだが、その視界の逃げ場すら怪しくなり、絶望し、泣き叫び、助けを請いた。
だが誰も悲痛な叫びを気に留めなく、詠唱が続く。
そんな状態のまま数分……
少年は泣き叫び疲れ、ぐったりと横たわっていた。その顔から絶望は抜け、感情が抜け、生きるのを諦めた抜け殻に等しかった。
そんな彼に1人の老人が近付き、しゃがみ込み、少年の手を取り、ローブからナイフを取り出し、少年の手の平を軽く切る。少年は切られた痛みを感じてないのかビクとも動かない。
その手の平から血が垂れ、一滴魔法陣に落ちる。
ピチャン……
狭く暗い部屋に血の垂れた音がやけに響く。
更に一滴、二滴、三滴、と地面に、魔法陣に落ちて行く。
ピチャン……
五滴目が魔法陣に落ちた瞬間魔法陣に変化が現れた。
赤く輝いていた魔法陣から赤黒い細い触手の様な腕が無数に生え、少年の身体に巻き付き蝕んでいく。
それでも少年の身体は抵抗どころかビクとも動かない。皮膚を赤黒い指の様なものが無理矢理ねじ込む様に浸透していても動かない。
抵抗が無かった故に数分で赤黒い触手は少年の身体を包み込んでいた。
その数刻後、この暗い部屋は一面真っ赤に染まり鉄の臭いを一面から発していた。
8人の老人達は皆、胴体から首が離され、腸は抉り取られ、腕や脚は肉を削がれ骨だけになっていた。
そしてその部屋の中心に少年は佇んでいた。
片方の手には老人から引き抜いた心臓、もう片方の手には元々の色なのか、血の色なのか。赤黒い刀を握っていた。
これが『血の魔術師』を誕生させる儀式であり、『血の魔術師』、『狂戦士』が誕生する瞬間だった。
ただ今回の儀式は異例であり、本来ならこの8人の老人達が死ぬことはないのだ。