屈託のない笑顔はどこへ
はじめまして、鳥藍です。
初投稿の短編になります。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
罪を犯した。ただそれだけだった。人間的にはよくないらしいが、個人的にはどうでもよかった。
……そう、思っていたかった。しかし、それを許せない自分が存在していることも……わかっていた。
「どうせ君は僕を許さない。でも僕にはもう、君がわからない」
後悔することはない。ストレスに感じることもない。僕を離さないように努力している様だけは評価できる。それ以外はどうでもいい。そう思っていないと、心が押しつぶされてしまう。
振り向きもせず外を目指す。普段通り、呼び止められる。それがどれだけ悔しいことであっても、表情に出ることはない。
「どこいくの?」
「どうでもいいだろ。自首でもしてほしいか?」
罪を犯した。ただそれだけが心に突き刺さる。僕は知らないんだろうけれど、僕はまだ、それなりに人らしい。罪悪感が起こる程度には。人には知られていないんだろうけれど、僕はわかりたくなかっただけなんだろうけれど。
呼び止める声が、僕を引き留めようとする。振り返りたい。でも、振り返ってはいけない。
「どうして、私を無視するの?」
「はっ、逆に、反応してもらえると思ってるの?」
鼻で笑っていい。自分を嘲笑うくらいなら、罪にはならない。もともと上にいたとは思っていない。息が苦しい。救われるべきなのは……罪人ではないことだけ、断言できる。純粋な者が堕ちるくらいなら、罪人が堕ちるべきだとも。
幻想に手を伸ばしても、手繰り寄せるのは黒い影だけ。今笑っているあれも、つぎの瞬間には消えているのだろう。
「やっぱり高慢だね。君は。できれば、表現はしないでほしいかな」
「なんの、話をしているの?」
「大丈夫、僕は……」
ただ生きているだけの、罪人だ。
* * *
僕は、君……いや、彼から暗い未来を奪い、彼を救う、そんな存在だ。そう信じていないと、そう希望を持っていないと、僕はもう、僕の存在を許せなくなってしまいそうだ。
「大丈夫、僕は……」
あの後に続けたかった言葉が、今も胸の中でつっかえている。あははは、と自嘲して、吹き飛ばしてしまえばいいのに。それができない。絶望したはずの僕にも、やっぱりまだ人が残っているようだ。
「君の未来を引き受けるから」
そう言えばよかったのだろうか。ためらわずに、そういうべきだったのだろうか。そうとも言い切れないと、諦めの速い僕の心が主張する。
結局、彼はあの頃の、純粋に夢を追っていたころの僕なのだから、と。彼は僕で、たどる道も同じだ、と。
だんだん消えていった、夢を追いかける熱。それでもあきらめきれないと嘘をついて、なにもかもを簡単に突き放した、あの時。挙句の果てには、自業自得をすべて背負って、そんな自分が正義だと信じ込む。それが、僕という人間なのだと、心のどこかが声をあげる。
どうせそうなる、どうせ、そうなってしまう。突き放したはずだったのに、当時の僕は、彼は、突き放されたとは全く思わなかったじゃないか。挑発されたと受け取って、純粋な夢を神格化したではないか。
「僕は罪を犯した。そして今、生きているだけで、この罪は増え続ける」
過去の自分を裏切った、そしてその事実にとらわれ続ける。大罪だ。純粋な夢をあきらめて、否定して。もう一生、僕の、彼の、屈託のない笑顔を、見ることはないのだから。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
少しでも、貴方の心を動かせていれば……うれしいです。
また何か書けたら、投稿するかもしれません。
それでは、また会う日まで。




