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屈託のない笑顔はどこへ

作者: 鳥藍
掲載日:2026/03/17


 はじめまして、鳥藍ちょうあいです。


 初投稿の短編になります。


 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


 罪を犯した。ただそれだけだった。人間的にはよくないらしいが、個人的にはどうでもよかった。

 ……そう、思っていたかった。しかし、それを許せない自分が存在していることも……わかっていた。


「どうせ君は僕を許さない。でも僕にはもう、君がわからない」


 後悔することはない。ストレスに感じることもない。僕を離さないように努力している様だけは評価できる。それ以外はどうでもいい。そう思っていないと、心が押しつぶされてしまう。

 振り向きもせず外を目指す。普段通り、呼び止められる。それがどれだけ悔しいことであっても、表情に出ることはない。

 

「どこいくの?」

「どうでもいいだろ。自首でもしてほしいか?」


 罪を犯した。ただそれだけが心に突き刺さる。僕は知らないんだろうけれど、僕はまだ、それなりに人らしい。罪悪感が起こる程度には。人には知られていないんだろうけれど、僕はわかりたくなかっただけなんだろうけれど。

 呼び止める声が、僕を引き留めようとする。振り返りたい。でも、振り返ってはいけない。


「どうして、私を無視するの?」

「はっ、逆に、反応してもらえると思ってるの?」


 鼻で笑っていい。自分を嘲笑うくらいなら、罪にはならない。もともと上にいたとは思っていない。息が苦しい。救われるべきなのは……罪人ではないことだけ、断言できる。純粋な者が堕ちるくらいなら、罪人が堕ちるべきだとも。

 幻想に手を伸ばしても、手繰り寄せるのは黒い影だけ。今笑っているあれも、つぎの瞬間には消えているのだろう。


「やっぱり高慢だね。君は。できれば、表現はしないでほしいかな」

「なんの、話をしているの?」

「大丈夫、僕は……」


 ただ生きているだけの、罪人だ。


 

 * * *


 

 僕は、君……いや、彼から暗い未来を奪い、彼を救う、そんな存在だ。そう信じていないと、そう希望を持っていないと、僕はもう、僕の存在を許せなくなってしまいそうだ。


「大丈夫、僕は……」


 あの後に続けたかった言葉が、今も胸の中でつっかえている。あははは、と自嘲して、吹き飛ばしてしまえばいいのに。それができない。絶望したはずの僕にも、やっぱりまだ人が残っているようだ。


「君の未来を引き受けるから」


 そう言えばよかったのだろうか。ためらわずに、そういうべきだったのだろうか。そうとも言い切れないと、諦めの速い僕の心が主張する。

 結局、彼はあの頃の、純粋に夢を追っていたころの僕なのだから、と。彼は僕で、たどる道も同じだ、と。

 だんだん消えていった、夢を追いかける熱。それでもあきらめきれないと嘘をついて、なにもかもを簡単に突き放した、あの時。挙句の果てには、自業自得をすべて背負って、そんな自分が正義だと信じ込む。それが、僕という人間なのだと、心のどこかが声をあげる。

 どうせそうなる、どうせ、そうなってしまう。突き放したはずだったのに、当時の僕は、彼は、突き放されたとは全く思わなかったじゃないか。挑発されたと受け取って、純粋な夢を神格化したではないか。


「僕は罪を犯した。そして今、生きているだけで、この罪は増え続ける」


 過去の自分を裏切った、そしてその事実にとらわれ続ける。大罪だ。純粋な夢をあきらめて、否定して。もう一生、僕の、彼の、屈託のない笑顔を、見ることはないのだから。



 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 少しでも、貴方の心を動かせていれば……うれしいです。


 また何か書けたら、投稿するかもしれません。


 それでは、また会う日まで。

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