第3話:独占欲の嵐! 幼なじみの乱入とメイド隊の甘い鉄壁ガード
第3話:独占欲の嵐! 幼なじみの乱入とメイド隊の甘い鉄壁ガード
陽葵に全身を隅々まで磨き上げられ、心も体もフニャフニャになった僕は、豪華なリビングへと運ばれた。
そう、「歩いた」のではない。湯上がりの火照った体を冷まさないようにと、陽葵と数人のメイドたちに文字通り抱えられ、宙に浮いた状態で移動したのだ。
「ふふ、ご主人様。お肌がとってもツヤツヤですわ」
メイド長の結衣が、ソファに深く沈み込んだ僕に、琥珀色に輝く最高級の紅茶を差し出す。
「ありがとう、結衣。……でも、本当に何から何までやってもらって、なんだか落ち着かないよ。自分でも歩けるし、紅茶くらい淹れられるんだけど……」
「滅相もございません。ご主人様に指一本動かさせないことこそが、私たちの存在意義。さあ、次はティータイムでございます。志保、用意を」
「はい。本日はご主人様の脳の活性化を促し、心身を解きほぐす特製のマカロンとスコーンを用意いたしました」
眼鏡を光らせた志保が、銀のトレイを恭しく捧げ持つ。
平和で、甘くて、少しだけ背徳的な時間。
だが、その平穏は唐突に破られた。
『ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!!』
静寂を切り裂く、親の仇のようなインターホンの連打音。
「な、なんだ!? 誰か来たのか?」
「……。莉奈、確認を」
結衣の指示で、金髪の莉奈がモニターを覗き込む。
「あー……結衣姉さま。なんか、すっごく怒ってる女の子が門の前にいます。ご主人様の名前を呼び捨てにして叫んでますよ?」
「え、僕の名前を……?」
嫌な予感がして、僕もモニターを覗き込んだ。
そこに映っていたのは、顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる、見慣れたポニーテールの少女だった。
「……美波だ。僕の幼なじみの、瀬戸美波」
「幼なじみ、でございますか」
結衣の目が、一瞬で「侵入者を排除する守護者」の鋭いものに変わる。
だが、モニター越しの美波の勢いは止まらない。
「健太ぁ!! 逃げたって無駄よ! あんた、こんな怪しいお屋敷に連れ込まれてるって近所で噂になってるんだから! 今すぐ出てきなさい!」
「あわわ、放っておいたら近所迷惑になる! 結衣、彼女を入れてあげて!」
「……主君の命とあらば。莉奈、解錠なさい」
重厚な玄関の扉が開くと同時に、嵐のような勢いで美波がリビングに飛び込んできた。
「健太! 無事なの!? どっかの怪しい宗教団体に監禁されてるんじゃ……って、何よその格好! その女たちは誰よ!!」
美波は、僕の着ている高級シルクの部屋着と、僕の周りを文字通り**「包囲」**している10人の美女メイドを見て絶句した。
「美波、落ち着けって。ここは僕の家……というか、僕がここの主人なんだ」
「はぁ!? あんたが!? 昨日の夜まで、私の家の隣で半額のおにぎり食べてたあんたが!? 嘘おっしゃい!」
美波がツカツカと僕に歩み寄ろうとした瞬間。
メイド長の結衣が、音もなくその間に割って入った。
「そこまでです、部外者の方。ご主人様との距離は、許可なく詰めて良いものではありません」
「部外者!? あんたこそ誰よ! 私と健太は、幼稚園の砂場から一緒なのよ! 健太がいつおねしょを卒業したかってことまで、全部知ってるんだから!」
「……。過去の些細な情報は不要です。私たちはご主人様の『今』と『未来』の全てを管理し、愛し抜く者。結衣と申します。以後、お見知り置きを」
結衣の冷徹なまでの丁寧さに、美波の額に青筋が浮かぶ。
「管理ですって!? 健太はあんたたちの人形じゃないわよ! 健太、ほら、帰りましょう! あんたの汚い部屋の掃除、私がしてあげるから!」
「えっ、でも美波……」
「ダメですよぉ、美波さん!」
ここで、茶髪ロングの陽葵が僕の腕をぎゅっと抱きしめた。
豊かな胸が僕の腕に深く押し当てられ、美波の目が点になる。
「ご主人様は、陽葵がもう一度お風呂に入れてあげなきゃいけないんです。さっき洗いきれなかった……その、もっとデリケートな部分も……っ」
「な、ななな……何を洗うのよこのムチムチメイド!!」
「ム、ムチムチ……!? 失礼です! これは、ご主人様を抱きしめた時に一番気持ちいいように整えた、至高の奉仕体型なんですっ!」
陽葵も頬を膨らませて真っ向から応戦する。
「そうだよ! ご主人様は私たちの王子様なんだから! 変なポニテ女に渡さないもん!」
莉奈が僕の背中に飛びつき、首に腕を回してくる。
左右と後ろを完全に美女たちに包囲され、僕は物理的に身動きが取れない。
「……。ご主人様の学力向上も、私が担当いたします。幼なじみという甘えの構造は、今の彼にとって毒でしかありません」
志保が冷たく美波を見下ろす。
「あんたたち……集団で健太をたぶらかして……!!」
美波の声が震える。それは悲しみではなく、純粋な**「独占欲」と「対抗心」**の爆発だった。
「いいわよ、わかったわよ! 健太、あんたがどうしてもここに居たいって言うなら……私が毎日ここに来て、あんたが変なことされないように監視してあげるわ!」
「ええっ!? 毎日!?」
「当たり前でしょ! 私、あんたのお母さんに『健太をよろしく』って頼まれてるんだから! 逃がさないわよ!」
その言葉を聞いた結衣が、不敵な笑みを浮かべた。
「ふふ……面白いですね。美波様、とおっしゃいましたか。ならば、私たちが用意する『至高の溺愛』と、貴女の『献身』。どちらが彼をより幸せにするか、競い合いましょうか」
「望むところよ! 豪華なだけのメイドなんかに、私の健太愛が負けるわけないわ!」
美波は力強く宣言し、僕の目の前で指を突きつけた。
「健太! あんた、どっちが心地いいか、その体でしっかり味わいなさいよね!!」
「……あ、あの、二人とも。僕は別に戦ってほしいわけじゃ……」
「「ご主人様(健太)は黙っていてください!」」
見事にハモった五人の美女たちに射抜くような視線で睨まれ、僕はソファのクッションに埋もれて縮こまるしかなかった。
「さあ、ご主人様。アフタヌーンティーの続きをいたしましょう。美波様、貴女には……そうですわね、そこの廊下で立って見ていていただけますか?」
「誰がそんなことするか! 私もその高いマカロン食べるわよ!!」
こうして、僕を巡る**「メイド隊vs幼なじみ」**という、地獄のように甘く、そして騒がしい戦争が幕を開けた。
一歩も引かない結衣たちと、強引に食らいつく美波。
僕は彼女たちの視線のレーザーを全身に浴びながら、震える手で紅茶を口にするのだった。
第3話 完




