第1話:目覚めた朝にはたくさんの美女
第1話:目覚めた朝にはたくさんの美女
「……ん、うう……」
カーテンの隙間から差し込む柔らかな陽光が、僕――佐藤健太の瞼を刺激する。
いつもの狭いワンルームマンション、使い古した煎餅布団、そして鳴り止まないスマートフォンのアラーム。
そんな日常の風景を予想しながら、僕は重い目を開けた。
「……え?」
視界に飛び込んできたのは、見慣れた安っぽい天井ではなかった。
高く、開放感のある天井には、精緻な彫刻が施された豪華なシャンデリアが吊るされている。
僕が寝ているのは、王様が使うような天蓋付きのキングサイズベッド。肌に触れるシーツの質感は、驚くほど滑らかで高級感に溢れていた。
「ここ、どこだ……? 夢、か?」
混乱する頭を抱えて起き上がろうとした、その時だった。
「――お目覚めですか、ご主人様」
鈴を転がすような、透き通った声が部屋に響く。
反射的に声のした方へ顔を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「おはようございます、健太様」
「よく眠れましたか? 私たちの愛しいご主人様」
ベッドの脇に、ずらりと並んだ美女たち。
その数、10人。
全員が、フリルとレースのあしらわれた清楚かつ可憐なメイド服に身を包んでいる。
モデル顔負けの美貌を持つ彼女たちは、一斉に僕に向かって深く頭を下げた。
「な、ななな……何!? 誰!? メイド!? え、コスプレ……じゃなくて本物!?」
あまりの異常事態に、僕はベッドの上で無様に後ずさる。
すると、列の先頭にいた、ひときわ落ち着いた雰囲気の黒髪メイドが、一歩前に歩み寄ってきた。
「ふふ、そんなに驚かないでくださいませ。私はメイド長の**結衣**と申します。今日から私たちが、この館の主である健太様のお世話をさせていただきます」
「いやいや、待ってくれ! 僕はただの大学生だぞ? 昨日の夜までは、駅前のコンビニで買った半額弁当を食べて寝たはずなんだ!」
「左様でございますか。ですが、今この瞬間から、健太様はこの広大な洋館の主であり、私たちの唯一絶対の主君なのです」
結衣は優雅に微笑むと、隣に控えていた小柄で活発そうな金髪のメイドを促した。
「ほら、莉奈。ご主人様が喉を乾かしておいでですよ」
「はーい! 任せて結衣姉さま! 健太様、特製のフレッシュオレンジジュースですっ! はい、あーんして!」
「あ、あーん……!? いや、自分で飲めるから!」
「ダメですよぉ。ご主人様の手を煩わせるなんて、メイドの恥ですから! さあ、遠慮しないで飲んでくださいっ」
莉奈はキラキラとした瞳で僕を見つめ、ストローを僕の口元へ運んでくる。
抗えないほどの可愛らしさに気圧され、僕は言われるがままにジュースを口にした。
「……っ、美味しい……」
「えへへ、よかったぁ! 健太様のために、朝一番に搾りたてを用意したんですよ!」
莉奈が嬉しそうに飛び跳ねる。その拍子に、メイド服の短いスカートがふわふわと揺れ、僕の心臓はさらに激しく鼓動を刻んだ。
「……次は、お着替えの時間ですわね」
次に現れたのは、眼鏡をかけた知的でクールな印象のメイド、**志保**だった。
彼女は銀のトレイに乗せられた、上質なシルクのパジャマと外出着を手にしている。
「健太様、失礼いたします。パジャマをお脱ぎください」
「え、ちょっ……! 脱ぐって、ここで!? 自分でやるよ!」
「お戯れを。ご主人様の身なりを整えるのは、私たちの至福の喜び。さあ、腕を上げてください」
志保は淡々とした口調ながらも、その瞳には熱い期待が宿っている。
彼女が僕のパジャマのボタンに手をかけた瞬間、周りのメイドたちからも「私もお手伝いします!」「私はズボンを!」と声が上がり、一斉に手が伸びてきた。
「ちょ、待って! みんな一度に触らないで! ああっ、そこは恥ずかしいって!」
「いいではないですか、健太様。私たちは健太様の所有物。そして、健太様も私たちのものですから……」
誰かが僕の耳元で甘く囁く。
10人の美女たちに囲まれ、あちこちから柔らかい感触が伝わってくる。
香水の良い香りと、彼女たちの体温。
普通の大学生だった僕にとって、これはあまりにも過剰な、そしてあまりにも贅沢な拷問だった。
「……あ、あの、みんな。一旦落ち着いてくれないかな?」
僕が精一杯の声を出すと、メイドたちはピタリと動きを止めた。
そして、申し訳なさそうに、けれど慈しむような表情で僕を見つめる。
「申し訳ございません、健太様。皆様、健太様を愛しすぎるあまり、つい我を忘れてしまいましたわ」
メイド長の結衣が、僕の頬をそっと撫でる。
「愛しすぎる……って、今日会ったばかりだろ?」
「いいえ。私たちは、ずっとこの時を待っていたのです。健太様という優しく、素晴らしいお方を、心の底から溺愛し、尽くし抜くこの日を」
結衣の言葉に、他のメイドたちも深く頷く。
その瞳には、嘘偽りのない深い愛情が満ち溢れていた。
「……本当に、僕が主人でいいの?」
「もちろんです。健太様以外のご主人様なんて、考えられません」
志保が僕のネクタイを整えながら、真剣な眼差しで答える。
「そうだよ! 健太様は、私たちの王子様なんだからっ!」
莉奈も隣でニコニコと笑っている。
「……わかった。まだ状況は飲み込めてないけど……今日からよろしく、みんな」
僕がそう告げると、部屋の中に歓声が上がった。
10人の美女メイドたちが、一斉に僕に抱きついてくる。
「嬉しいです、健太様!」
「一生、お側に置いてくださいね」
「朝食も、お風呂も、夜のお供も……全部、私たちが完璧にこなしますから!」
天国とは、きっとこの場所のことを言うのだろう。
戸惑いはある。けれど、彼女たちの真っ直ぐな想いに、僕の胸はいつの間にか温かな幸福感で満たされていた。
こうして、普通の大学生だった僕の日常は終わりを告げた。
10人のメイドたちに溺愛され、至れり尽くせりの奉仕を受ける。
夢のような、けれど確かな現実の幕が上がったのだ。
「さあ、ご主人様。まずは最高級の朝食をご用意しております。ダイニングへ参りましょう」
結衣に手を引かれ、僕は豪華な洋館の廊下を歩き出す。
背後では、他のメイドたちが楽しげに僕の噂話をしながら付いてくる。
これから、どんな毎日が待っているのか。
不安なんて、彼女たちの笑顔を見ているだけでどこかへ吹き飛んでしまった。
――僕専用のメイド全員に溺愛される生活。
それは、僕の想像を遥かに超える、甘く刺激的な日々のはじまりだった。
第1話 完




