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転生


ーーーいつの間にか、街灯のオレンジが消えて代わりに空が明るくなってくる。


眠れなかったはずなのに、朝はちゃんとやってくる。


車内のカーテンの隙間から、白い光が差し込む。

それは、優しいというより、容赦がなかった。


エンジンの振動が、やけに現実的に感じられる。


もうすぐ着く。


そう思った瞬間、胸のおくが酷く静かになった。

覚悟とも、諦めともつかない感情がゆっくりと沈んでいく。


バスがゆっくりと減速する。


停車の衝撃で、体がわずかに前に揺れた。


「終点です」

アナウンスが、やけにあっさりとしている。


カーテンをあけると、窓の外はもうすっかり朝だった。

夜の色はどこにもなく、薄い水色の空が広がっている。


外には見慣れた駅前のロータリーと、シャッターの下りた商店街と、誰もいない横断歩道。


リュックを背負い、バスを降りる。

少し冷たい空気が頬に触れた。


帰ってきたのだと空気が教えてくる。


何も考えないように、少しずつ歩き出す。

アスファルトを踏むたびに乾いた音が小さく響く。


一年という短くも長い月日が見慣れたはずの道がどこか懐かしく感じさせる。


錆びたガードレール。

色あせた電柱の番号。

変わってない。


変わってないのに、自分だけが場違いな気がした。

やっぱりここには私の居場所が無い。


ーーあの家が、みえた。


朝の光に照らされて、家の輪郭だけがはっきりしている。


足を止めることはなかった。

止まったら動けない、そんな気がした。


玄関の目に立つ。


見慣れたドア。

変わらない表札。


ポケットの中で、鍵を探る。

指先が、少しかじかんでいる。


差し込む。

回す。


金属の擦れる音が鈍く響く。


扉を開けた瞬間。家のにおいが肺に流れ込んでくる。

懐かしいはずなのに、胸が詰まる。


「........ただいま。」

声は思ったよりも小さく、玄関に吸い込まれていった。


返事はまだない。


靴を脱ぐ音がやけに響く。


その時。


奥の方から、低い咳払いが聞こえた。


先に体が反応していた。

背筋が伸びる。

視線が自然としたに行く。


廊下の向こう、影が揺れた。

ゆっくりと足音が近づく。


姿が見える前に気配だけでわかった。


一年ぶりの父。

何も言わず出てきてしまった。

怒られるだろうか。


顔を上げることができない。

足元しか見れない。

怖い、怖い、怖い。

何か言わなければ。

何を言えばいい、誤ってすむのか。


しばらくの沈黙が続き。

はっきりと父が息を吸うのが聞こえた。


一気に汗が出る、鼓動が外まで聞こえてしまうのではないかと、余計に焦る。


「........荷物、そこ置いとけ。」


声は低く、平坦だった。


何もない。

また、何もない。

必要最低限。

いや、今となってはそれ以下だろう。


自分にはその価値しかないと、思い出させる。


震えていたのがバカみたいだった。

ここまで来たのが、眠れなかったのが、なんて言われるのだろうと考えたのが。

全てが自分のつけあがり、本当にバカだ。

この人が、自分に対して何かあるわけない。


一年間。

私にとっては、長い一年だった。

でも、きっと父にとっては自分がいた一年だろうといない一年だろうと、

何も変わらないのだろう。


父はそれ以上何も言わず、

背を向ける。


廊下の奥へ消えていく足音。


家の中は、また静かになった。


玄関に立ちすくんだまま、自分の指先を見つめる。


なぜ、帰ってきてしまったのだろう。

きっと、また、期待をしていたからだろう。

そんなこと、無駄なのに。


「あぁ、何してるんだろう。」

笑い交じりの声が出た。


足が自由に動く。


一年前と同じ、静かに家を出た。


後ろから、声がする。

聞き覚えのある声、聞きたくない声、体が反応する声。


逃げたい、逃げたい、聞きたくない。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。



ーーもう。もう、どうでもいい。


「........またか。」


どうせ、そんなことを言っていたと思う。

よく、聞こえなかった。


いや。聞こうとしなかった。


聞く前に、自由に動くようになったこの足で、走り出していた。


自由だ。

きっと、これが自由なんだ。

そうだ、私には関係ない。



無我夢中で、走った。

自分の呼吸で何も聞こえなかった。


乗用車が、突っ込んでくることに気づいたのは、

誰かかが「危ない」と頭に響くほどの大声が聞こえたからだ。


間一髪でよけたその先には川があった。

よけた衝撃で、足をひねっていた。


うまく泳ぐことができない。

あぁ、ここで終わるんだ。

あっけない。

なんてあっけないんだ。


こんなんだったら、言いたいこと。

言わなきゃいけなかったこと。

言えば、、よかった。

いや、無理だな。

自分には、無理だ。


父は今頃、何をしているだろう。


意識が遠のいていく。


ーーー痛い。体が。

何日も、床で寝たような痛さ。


今までのは全部夢だったのか。

バイトで疲れ切って、床で寝ちゃったのかな、、、。


暗い、目を開けているのか、閉じているのか、混乱する。

電気がつかない。


ドンドンドンッ


重い足音。

誰かが来る。


動けない、怖い。


壊れる勢いで開いたドアの先には....。




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