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はじまり


ーーなぜ、私はこんなにも小さくなっているのだろう。


足元に広がるコンクリートの感触、、空気は乾いて少し肌が痛い、窓もないせまい空間。


「倉庫みたい。」


不意に出た声はやけに甲高く、まるで子供の声のようだ。

のどに手を当て、息を吸い、もう一度声を出そうと息を吸う。


「、、、な、なに、これ、、。」


震えるその音が、決定打だった。


さっきまで私は実家に帰っていたはずなんだけど、、なんでこんな地下みたいなところにいるんだろう。




ーーープルルルル、、、、ガチャ


「、、、、もしもし、槙です。」


携帯の向こうからずっしりと重い声が耳に響く。


父「もしもし、久しぶりだな。急だがこっちに帰ってこい。いいな?」

ガチャ。ツーツーツー


一方的に伝えられた言葉は私に重くのしかかり、過去のトラウマを思い出させる。



ーー11年前


父の態度が変わったのは、私が中学受験に失敗した日からだった。


母は私が幼い頃に亡くなり、父は男手ひとつで私を育ててくれた。

兄弟はいない。だからこそ、父の期待は真っ直ぐ私に向いていた。


いや、向いていたーーと思っていた。


合格発表の日。

掲示板の前で、私は何度も自分の受験番号を探した。


ーーーない。


何度見ても、ない。


ガチャ


玄関の扉が開き、父が帰宅した。いつも通りカバンをリビングのテーブルにおき、椅子に腰かける。


「どうだった。」


重く、低い声がリビングに響く。


冷汗が背筋を伝う。

のどに声がつっかえる。


「あ、あり、ありませんでした。」


父は何も言わなかった。

攻めることも、慰めることもなく。


ただーー


それ以降、私を見ることがなくなった。


私がどれだけ勉強しても、成績をあげても、父の視線は、いつの私の向こう側を見ていた。


ーー数年後

高校受験の前日。


珍しく父が口を開いた。


「おい。次は失敗するなよ。」


低く、抑揚のない声だった。


その一言が、胸の奥に沈んだまま、今も抜けない。


まるで足枷のように。


ーー合格発表当日


掲示板の前は、人であふれていた。


指でなぞるように番号を追う。


ーーあの日も、こうして探していた。


中学受験の掲示板。

冷たい風。

父の声。


「、、、失敗するなよ。」


あの低い声が、耳の奥でよみがえる。


指先が震える。


目線が掲示板の番号をおっていく。


ない。

ない。


冷汗が止まらない。


目線がとまる。


、、、、、あ、あった。


一瞬、世界の音が消えた。

胸の奥が、じんわりと熱くなる。


やっと。


やっと、認めてもらえるかもしれない。


帰り道、何度も言葉を練習する。


「受かったよ」

「よくやった」って言われたらどう返そう。


玄関をあける。


父の靴がある、胸がなる。


リビングからテレビの音が聞こえる。

テレビの前の椅子座っていた父に、私は言う。


「、、、う、受かった。」


父の視線はテレビ画面のまま。


「、、、、、そうか。」


数秒の沈黙。


「当たり前のことだ。」


それだけだった。

たった、その一言だった。


胸の奥の熱が消えていく。なにもない、なくなった。


私は合格した。


何も変わらなかった。


ーー高校。


放課後、美術室。


絵を描いている間だけ父の声が消える。


高校時代の私を救ってくれたのは、絵だけだった。


進路希望調査の紙が私を現実に引き戻す。


家に帰ると父が言う

「大学は私が決めるからな。」


何も言い返すことができない。

ただ従うしかない。


大学の願書が机の上に置かれている。

父が言った

「締め切りは今週だ。出し忘れるなよ」


それだけ。


彼女はペンをもつ。

でも、名前を書く瞬間手が止まる。


頬から流れる雫が願書に落ちる。


もう、無理だ。


声が、こぼれた。

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