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悪役ですが、ゲームの世界でラスボスを倒すため強くなったら、王太子から告白されました  作者: あいら


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7/10

7 街へのお忍び視察①

王立アストレイア学園の一日は早い。

 朝の訓練、午前の講義、そして午後の実技授業。

 だがこの日は、午後の授業の一部が“特別任務”として扱われていた。


「――それでは、リディア嬢。準備はよろしいですか?」


 控室で声をかけてきたのは、王太子クラウスの近衛騎士、カイン・リアド=フォルスターだった。銀の髪を後ろで結び、鋭い青の瞳は常に周囲を警戒している。近衛でありながら、学園にも常に同行し、王太子の護衛を務めている青年だ。


「はい。問題ありませんわ」


 リディアは落ち着いて答えた。けれど胸の鼓動は早い。

 今日は“お忍び視察”。

 王族が身分を隠し、街へ出て庶民の生活を視察する――

 乙女ゲーム本編でも重要なイベントの一つである。


 そこにいるのは王太子クラウスとヒロインであるメリル、そして私リディア。


 アニエスとセレナは別の日にすでに視察を終了していて、

 今日はこのメンバーだ


『妖精の加護を持つ者として、そして国を支える未来の候補として、街を正しく見ておくべきだと思う。』


 クラウスの真剣な眼差しに、視察に力が入る。


 視察イベントは、クラウスとメリルの距離がぐっと縮まるイベント。

 そこで得られる“キーアイテムのピアス”が、後の選定パーティで重要な効力を発揮する。


 メリルが無事に受け取ってくれたらいいけど……。


「リディア様、大丈夫……?」


 控室の隅で、そわそわと小さく身を縮めていたメリルが、心配そうに覗き込んできた。


「大丈夫よ、メリル。少し緊張しているだけ」


「私も……とても緊張してます。お忍び視察なんて初めてで……」


 メリルはピンクの髪を揺らし、慣れない私服の裾をぎゅっと握りしめた。

 平民出身である彼女にとって、王太子と街に出るなど――

 想像もできないほどの緊張だろう。


 そこへ、クラウスが控室に姿を現した。


「待たせたね、リディア嬢、メリル嬢」


 薄い金色の髪、涼やかな青の瞳。

 制服ではなく、質素なシャツと黒のコート姿――

 本当に庶民に紛れてしまいそうな姿なのに、隠しきれない気品がある。


「では、行こうか。今日は“市場通り”を中心に回る予定だ」


「心得ております、殿下」


 カインが一礼し、三人は王城裏手の小門へ向かった。






 城下町に下りた途端、空気が変わった。

 屋台から漂う甘い匂い、鍛冶屋の槌の音、子ども達の笑い声。


「わあ……すごい……」


 メリルは目を丸くし、きょろきょろと視線を彷徨わせる。

出身の村と、王都では人口がまったく違う、

 その人の多さに驚いているようだった。


「これが……庶民の生活……」


 リディアも静かに息を吸った。

 豪奢な貴族街とは明らかに違う、人々の生の生活の気配。


(ゲームの背景画でしか見たことがなかったけど……実際にくるとこんなに賑やかなんだ)


 クラウスはそんな二人を見て、ふっと優しく微笑んだ。


「驚いたかい?」


「……ええ。まるで別世界ですわ」


「そうだろうね。この国の土台を支えているのは、ここにいる人々だ。

 だからこそ、実際の声を聞く必要がある」


 王太子としての自覚と責任を背負う横顔に、リディアは思わず見惚れた。





 市場通りを歩く中、クラウスは何人もの店主や通行人に声をかけた。

 身分を隠しているが、その誠実な態度は変わらない。


「税……やっぱり重いんですね」


 野菜屋の主人の話を聞いたメリルが、眉を寄せた。


「ああ。特に冬場は売り上げも落ちるからな」


 クラウスも真剣な表情で頷く。


「最近は盗賊が南側で暴れているらしい。警備の強化も必要だろう」


「兵士の増員を検討すべきかもしれませんわね」


 リディアが静かに意見すると、クラウスは驚いたように目を瞬いた。


「兵士……ではないな。――警備隊の再編だ」


「え?」


「兵士は国境防衛の役目だ。町の治安維持は警備隊……つまり、役割の整理が必要なんだ」


 言いながらクラウスは、リディアに向けて微笑む。


「しかし、最初に“治安強化”を考えたのは素晴らしい。

 君は貴族の視点からだけでなく、国全体を見ようとしている」


 褒められ、リディアは思わず背筋を伸ばした。


(まずい……またクラウス殿下の好感度が上がってしまう……)


 メリルのルートが遠ざかる。

 けれど国のためには必要な意見だ。

 悩むリディアの心は複雑だった。

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