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悪役ですが、ゲームの世界でラスボスを倒すため強くなったら、王太子から告白されました  作者: あいら


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4 婚約者辞退の試みと失敗

翌朝、リディアはほとんど眠れぬまま、王城へ向かう馬車に揺られていた。


 胸の奥がざわついている。

 手袋の中の指先が冷えるほど緊張しているのに、同時に熱がこもるような焦燥もあった。


(――行かなきゃ。今辞退しなきゃ、私は“悪役令嬢”として物語を進めてしまう)


 王太子クラウスの婚約者候補という立場。

 ゲーム中のリディアは、その立場に縛られ、傲慢にふるまい、最終的に失脚し、王妃選定パーティで妖魔に喰われかけた――そんな最悪のバッドルートの象徴的存在だった。


 だからこそ、ここで辞退するのが最善だ。

 クラウスに迷惑をかける前に。

 メリルを追い詰める未来を回避するために。

 そして何よりも、国を滅ぼす妖魔を倒すため、“ヒロインの成長を阻まない”ために。


「……大丈夫。言うだけ言ってみるのよ、リディア」


 そう自分を励ましつつ、王城に到着した。



 応接間には、既にクラウスと側近のカイン、そして王太子付きの侍従が控えていた。


 銀の髪のクラウスは振り返ると、穏やかな瞳を向けた。


「朝早くから呼び立ててすまない、リディア嬢。体調は?」


「問題ありません、殿下」


 声が震えないように必死に抑えながら、リディアは深呼吸し、正面から告げた。


「本日は……婚約者候補の辞退をお願いに参りました」


 空気が静まり返った。


 ほんの一拍遅れて、侍従が目を見開く。

 カインが息を呑む。

 クラウスの瞳がかすかに揺れた。


「……辞退、だと?」


「はい。わたくしは殿下の婚約者候補にふさわしくありません。どうか、お許しくださいませ」


 丁寧に頭を下げる。

 けれど。


 返ってきた答えは、ひどく冷静だった。


「王家は、婚約者候補をそう簡単には減らさない」


「……っ」


「君は妖精フィーア=フレアの加護を得た。火の攻撃魔法は貴重だ。

 国の未来のためにも、婚約者候補として残ってもらう必要がある」


 まるで拒否する隙がない。

 この展開は、ゲームにはなかった。


(どうして……!?)


 たしかにゲームでは、リディアは“辞退しようとしなかった”。

 だからこうして固く拒否される場面は存在しなかったのだろう。

 選択肢すらない一本道ゲームだからこそ、今の状況は完全に未知領域だった。


「で、ですが……!」


「もし理由が“柄ではないから”程度であれば、受理できない」


 クラウスは机に手を添え、静かに一歩リディアへ近づいた。


 近くで見る銀の瞳は、ひどく澄んでいる。

 威厳だけでなく、どこか人柄の優しさを含んだ色だった。


「君は昨日、入学式で私の話を真剣に聞いていた。

 多くの者は緊張し、視線を合わせることすらできなかったのに、君は逃げずに見ていた」


「……それは」


 ただ見惚れていただけです……とは言えない。


 クラウスは小さく笑みを浮かべた。


「君が肩書きで私を見ていないと、そう感じた。……気のせいだろうか?」


 リディアの息が止まった。


(まさか、辞退しようとしたことが……逆に好感度を上げてる!?)


 ゲームでは、クラウスの好感度はほぼ“言動選択でのみ”変化した。

 だが今は違う。

 現実の彼は“人間”で、“予想外の行動”に反応する。


「理由があるのなら、聞こう。

 ただし――婚約者候補から外れるという選択肢は、王家としては出せない」


 優しい口調なのに、逃げ道がどこにもなかった。


 リディアは歯を噛む。


(……ダメだ。これ以上は言っても無駄……!)


 もはや“辞退”という道は完全に閉ざされた。


「……承知いたしました、殿下」


 深く頭を下げて言うと、胸の奥がぎゅっと痛んだ。


 これで私は、婚約者候補争いに巻き込まれる。

 アニエスも、セレナも、メリルも……みんなが王太子を巡って競い合う未来に。


(でも……逃げない。逃げたら、ゲーム通りのバッドエンドになる)


 顔を上げたリディアを見つめながら、クラウスは言った。


「君の努力を、私は見ている。妖精フィーアの力が伸びるのを楽しみにしている」


 その温かい声音に、少しだけ胸が軽くなった。


 ゲームのクラウスは、「無表情の攻略対象」だった。

 でも今目の前にいるクラウスは――“人として接してくれる”。


 その違いが、否応なく心を揺らす。





 王城を出た後。


 馬車に乗った途端、リディアは大きく息をついた。


「はぁぁぁぁぁぁ……無理だった……!」


 座席に背を預け、天井を見上げる。

 目の奥が少しだけ熱くなった。


「どうしてよりによって、“辞退不可”なのよ……!」


 けれど泣いている時間はない。


(――もう、悪役令嬢だとか気にしている場合じゃない)


 国を守るために必要な魔法訓練。

 妖魔攻略の知識。

 メリルの成長の支援。


 すべきことは山ほどある。


 リディアは拳を握った。


(やるしかない。……絶対にグッドエンドに辿り着いてみせる)

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