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悪役ですが、ゲームの世界でラスボスを倒すため強くなったら、王太子から告白されました  作者: あいら


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23 王妃とのお茶会

王宮の奥深く——春の庭園が窓越しに広がる、陽光の満ちたサロン。

 絹のカーテンが風に揺れ、白磁のティーカップが淡く光を返す。優雅という言葉そのものの空間だった。


 その中央に座るのは、アストレイア王国の象徴とも言える人物。

 王妃・イザベラ=アストレイア。


 凛とした琥珀色の瞳、その内側に深い知性を宿し、微笑むだけで場の空気が整う。

 リディアは緊張しながら、その前に静かに一礼した。


「本日はお招きいただき、光栄でございます、王妃殿下」


「そんなに硬くならなくても宜しいのよ、リディア嬢。

 あなたとは一度、しっかりお話をしてみたいと思っていたの」


 優しい口調にも関わらず、王妃の気配は一切の隙がない。

 そこにいるだけで、自分という存在の全てを見透かされているような感覚。


 ——ここが勝負どころ。


 王妃に認められなければ、未来の王妃候補としての立場は揺らぐ。

 そして何より、クラウスと肩を並べて生きる資格があるかを試される場でもある。


 テーブルには、薔薇の香りを閉じ込めた紅茶と、繊細な焼き菓子。

 王妃が静かに口を開いた。


「まずは……軽い雑談から始めましょうか。あなた、学園では随分と評判が良いそうね」


「い、いえ……皆さまに支えられているだけです」


「謙遜するのね。クラウスもよく話しているわ。

 “リディアは、物事の本質を見る目がある”……と」


 胸が熱くなる。

 クラウスが、そんなふうに——。


 だが王妃はそこで甘い空気を切り裂くように微笑んだ。


「……だからこそ、少し試させていただきますね?」


 来た。


 “王妃選抜ルートの知識試験イベント”——ゲームで見たシーン。

 本来なら、ヒロインであるメリルがここで知識を試される。

 リディアは思い出す。

 ——魔法の系譜、隣国の情勢、妖精に関する基礎知識。


 全部、ゲームで一度は見たものだ。


 王妃は優雅な仕草で、ティーカップを持ち上げながら言った。


 最初に、魔法陣を描いた小さな紙が取り出された。


「では、こちらの魔法陣。

 この配置はどの系統の魔法に多く見られる?」


「——風属性の補助魔法です。

 特に魔力伝達効率を高める際に用いられる、旧アストレイア式の初期陣ですわ」


「ふふ……素晴らしい」


 王妃は満足そうに頷く。


 そしていくつかの質問が続き、全て正解を答えていく。


 しかし次の質問は、さらに鋭く、試すような視線を伴っていた。


「では……妖魔との関係について。

 “妖精との契約者”が増えた理由、あなたはどう考えていますか?」


 リディアは深く息を吸う。

 ——これは、ゲームでも明確な答えが出なかった問いだ。


 だが、今のリディアには、メリル、セレナ、アニエス……そしてクラウスとの経験がある。


「妖精たちは、世の不安定さに敏感です。

 そして……“選ぶ”のではなく“選ばざるを得なかった”のだと思います。

 この国を護る人材が必要だから——妖魔の脅威に備えるために」


 王妃の目が、わずかに見開かれた。


「……その答えに至った理由は?」


「学園地下のダンジョンでも感じました。

 妖魔は確実に強くなっている。

 それに対抗できるのは、妖精の加護を持つ者……

 つまり、私たち契約者です」


 王妃はしばし沈黙し、紅茶を口に運ぶ。

 カップのふちに当てる音が、静かに響く。


「……見事ね、リディア嬢。ここまでの回答——全て満点よ」


 心臓が跳ねる。


「そうね……この紅茶について。

 この茶葉はどこで採れ、どんな品種なのかしら?」


 この問いはゲームにはなかった問だわ・・・・と困惑する。

 ゲームでは知りようもない事だからだ、

 しかし、ここではきちんと答える事にする。


「南部のベルネア丘陵で採れる“サニーブレンド”にございます。

 昼夜の寒暖差が大きく、香りが強くなるのが特徴です。

 薔薇の花びらを乾燥させて混ぜることで、香りに奥行きが出ています」


「まあ……的確だわ」


 王妃の目が、驚きと興味深さを含んだ色に変わる。


 どうやら、このイレギュラーな問題は、

 イレギュラーな存在である私を試す為のものだったのだろうと、

 納得する事にする。


「あなたには“知性”がある。

 そして何より……クラウスの未来を一緒に歩けるだけの“覚悟”も」


 王妃の声が柔らかくなる。


「正直に申し上げると、最初はあなたが怖かったの。

 クラウスが惹かれていると聞いた時、

 一体どんな令嬢なのだろう、と」


 ——クラウスが、王妃に話していた?

 頬が熱くなりそうなのを必死で抑える。


「でも今日、よく分かったわ。

 あなたは、自分の力で道を切り開ける人。

 そして……クラウスをただの“王太子”ではなく

 一人の“青年”として見ている」


 王妃の瞳が、深い愛情に満ちた母のものになる。


「クラウスの人生を共に歩むなら、必要な資質よ」


 胸がじんと温かくなる。

 これまでの努力が、認められた気がした。


 だが——王妃は最後に、意味深に笑う。


「リディア嬢。

 ……あなた、クラウスを愛しているでしょう?」


「っ……!」


 無意識に息が止まる。

 口を開きかけたその瞬間——。


 サロンの扉がノックされ、すぐに開いた。


「失礼いたします、母上」


 銀色の髪が光に染まり、クラウスが姿を見せた。

 その存在だけで空気が変わる。


「クラウス。良いところに来たわ。

 あなたの大切な人と……とても良い時間を過ごしていたの」


「母上……!」


 クラウスはわずかに赤面し、リディアと目が合った。

 お互いに、視線を逸らすことができない。


「クラウス、連れて帰って差し上げて。

 わたくしの考えは、もう決まったわ」


 王妃は微笑み——告げた。


「——リディア嬢を、“未来の王妃候補”として認めます」


 その言葉が、空気を震わせた。


 リディアの胸が、強く締めつけられる。

 信じられない思いと、溢れる喜び。

 そして同時に、責任の重さも。


 クラウスはそっとリディアに歩み寄り、囁いた。


「おめでとう、リディア。

 ……母上が認めたなら、もう誰にも文句は言わせない」


「クラウス様……」


 その瞳は、深い愛と確信に満ちていた。


 王妃のお茶会——

 それはリディアが、一人の令嬢から、

 “王太子の隣に立つ者”へと昇格した瞬間だった。

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