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悪役ですが、ゲームの世界でラスボスを倒すため強くなったら、王太子から告白されました  作者: あいら


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20/30

20チャリティイベント当日

チャリティイベント当日の朝、王立アストレイア学園の講堂は、いつになく華やかな空気に包まれていた。


 いくつもの花束が飾られ、魔法の光で淡く照らされた天井には、音符の形をしたイルミナ・ランプがふわりと漂っている。リディアは、準備の最終確認をしながら、そっと深呼吸した。


 ――こんなに大きなイベントを、自分が主催する日が来るなんて。


 胸の奥がじんわりと温かく、そしてくすぐったい。


 孤児院で見た、薄い布団。寒さに耐えながら眠る子どもたちの姿。"助けてあげたい"

そして今、その思いが形になりつつある。


「リディア様、椅子の並び、整いました!」


「照明魔法の調整、終わりました!」


「客席前方に王妃陛下のお席を――」


「えっ? 王妃陛下!?」


 思わず声が大きくなる。

 振り返ると、生徒たちが慌ただしく礼をする方向から、ゆったりとした足取りで王妃・エレオノーラが現れた。淡い青のドレスが光を反射し、まるで宝石のようだった。


「まあ、今日は本当に楽しそうな催しね。噂を聞いて、どうしても様子を見たくなってしまったの」


 王妃は微笑み、まっすぐリディアを見つめる。


 優しい眼差しだが、それだけではない。

 ――王家を支える者としての眼。

 人の真価を見抜く、揺るぎない光。


「リディア・フォン・アルセリア。今日の主催はあなたなのね?」


「は、はい……未熟でございますが、精一杯務めさせていただきます」


「未熟? いいえ、あなたは大したものよ」


 王妃の言葉は淡々としているのに、さりげなく重い。


 胸の奥がじんと熱くなり、自然と背筋が伸びた。


 開場時間が近づくにつれ、客の波は途切れることなく続いた。


 噴水広場から伸びる石畳の道は、学園講堂へ向かう来場者で溢れかえり、入口スタッフが慌てて列を整理している。


「リディア様、予想の……倍以上です!」


「あらまあ、三倍はいるんじゃないかしら」


「ぜ、全員入れますでしょうか……!」


「立ち見になってしまうが大丈夫だろう」


 そう言ってクラウスが近づいてきた。

 彼の後ろにはヴェイル=ウィンドが風を揺らしながら漂っている。


「クラウス殿下……」


「君のやろうとしていることの価値を、皆が理解している証だよ」


 その一言だけで、胸がいっぱいになった。


「それにしても――」


 クラウスは講堂を一望し、目を細める。


「君は本当にすごい。短期間でこれだけの出演者を集めて、孤児院のために動けるなんて。僕は誇りに思うよ、リディア」


 軽やかに言うその声は、いつもの穏やかさのままだ。それでも、彼の深い信頼が込められていることを、リディアは痛いほど感じた。


 ――こんなふうに言ってもらえるなんて。

 胸が熱くなり、息が少し震える。


「……殿下にそう言っていただけるなんて、光栄です」


 やっとそれだけ言うと、クラウスは柔らかく微笑んだ。


 リハーサルが始まると、さらに忙しさは増した。

 リディアは走り回り、汗が額に滲んできた。


「リディア様! 出演者五組、全員スタンバイできています!」


「良かった……。では順番を――」


 最後の調整を終えたそのとき、クラウスが声をかけてきた。


「少しだけ座って。休憩しないと倒れるよ」


「でも、まだ――」


「大丈夫。後は僕とカインがやっておく」


 強制的に手を取られ、休憩用の椅子に座らされた。

 フィーアがひらりと姿を現し、くすくす笑う。


『あなた、頑張りすぎ。倒れたらイベントどころじゃないわよ〜?』


「フィーアまで……」


 でも、心の中はやけに満たされていた。


 自分のしたいことを、誰かが本気で支えてくれる。

 それが、こんなにも力になるなんて――。


 そしてついに、開演の時間。


 始まりの鐘が鳴ると、客席から大きな拍手が起こった。


 王妃が最前列で優雅に微笑み、貴族も平民も一緒に座っている。

 音楽家たちは緊張しながらも、誇らしげにステージへ向かった。


 一組目の若いバイオリニストが弦を引くと、魔法の音響が講堂全体に広がり、観客席に鳥肌が立つ。


 演奏が終わるたびに拍手が湧き、次の演奏家が高揚した顔で舞台に上がる。


 二組目、三組目――

 その中には、路上でひっそりと演奏していた青年の姿もあった。


(上手……!)


 観客たちがざわつく。

 中には「どこかの宮廷楽団か?」と呟く者もいたほどだ。


 演奏後、ひとりの老貴族が立ち上がり、その青年に近づいていった。


「き、来た……!」


 スタッフが小声でつぶやき、リディアは手を合わせる。


 青年は震える声で礼を言い、貴族は力強く頷いた。


「これからは、うちの楽団で弾きなさい」


 その瞬間、青年の肩が震え、目に涙が滲んだ。


 ――無名演奏家にもパトロンが付く。


 リディアの胸が熱くなる。

 イベントが、誰かの人生を変える瞬間を見た。


 やがてすべての演奏が終わり、ステージ中央に募金魔法箱が浮かび上がった。

 金貨や銀貨が次々と吸い込まれ、光が溢れる。


 観客の中から歓声が上がった。


「こんなに……!」


「孤児院の子どもたち、喜ぶわ」


 王妃もその光景に目を細め、


「素晴らしいわね……リディア。あなたの真心が、皆を動かしたのよ」


 その声は優しく、どこか母のようだった。


「恐れ多いお言葉です、陛下……」


 胸がじんじんと熱くなる。

 涙がこぼれそうになるのを、ぎゅっとこらえた。


 イベントが終わると、リディアとクラウスは孤児院へ向かった。

 馬車には、新品の分厚い布団と毛布がぎっしり積まれている。


 到着すると、院長と子どもたちが笑顔で迎えた。


「まぁ……こんなに沢山! あたたかそう……!」


「これで、もう寒くないね!」


「リディアお姉ちゃん、ありがとう!」


 リディアは膝をつき、子どもたちの手をそっと握った。


「こちらこそ……。みんなが笑ってくれるのが、一番嬉しいわ」


 その横で、クラウスが温かな眼差しを向けていた。


 ――この国を、強く優しい国にしたい。

 その思いが、ふたりの間で確かに重なっていく。


 帰りの馬車で、クラウスは小さく呟いた。


「リディア。君を見て……ますます確信したよ」


「確信、ですか?」


「君は……王妃にふさわしい女性だ」


 胸が大きく跳ねた。


 真剣な瞳に射抜かれ、リディアは言葉を失った。


 ――イベントを成功させた喜びと、

 クラウスの信頼の重さが重なって、胸がいっぱいになった。

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