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悪役ですが、ゲームの世界でラスボスを倒すため強くなったら、王太子から告白されました  作者: あいら


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18チャリティイベント計画①

孤児院から帰る馬車の中で、メリルが声をかけてきた。


「リディア様……大丈夫ですか?」


 隣の席でメリルが心配そうに覗き込む。

 ふわりと揺れるピンクの髪。大きな瞳が不安に染まっている。


「ええ、大丈夫よ。ただ、少し考えごとをしていただけよ」


 ――この子は本当に優しい。


 ゲームの中の“ヒロイン”だから、という理由ではなく、彼女自身の心根がそうさせているのだと、

リディアは思う。


 だが、同時に胸をよぎる不安があった。


 ――また、ゲームのイベントを奪ってしまったのではないか。


 孤児院での“ペンダントの紋章発見イベント”は、本来メリルが主人公としてクラウスと共有するはずのもの。

 そのイベントが、今回も自分へと書き換えられた。


 運命が変わってしまっている。


 クラウスから告白されている時点で、分かっていた事だが、改めて感じた。





 そして、それ以上に私の心を占めるのは・・・


 ――布団が、あんなに薄いなんて。


 春とはいえ、夜風の冷たいこの国では、あの布ではきっと寒さを完全にはしのげない。

 眠りにつく子どもたちが震えていないだろうか。

 そう思うと、胸の奥に柔らかい痛みが広がった。


 ――あの子たちを、少しでも温かくしてあげたい。

 そのために……何かできないだろうか。


 馬車が学園に到着すると、リディアはメリルと別れたあと、寮の自室に戻った。

 窓の向こうには夕焼けが染まり始め、橙色が薄いカーテンを通して部屋を暖かく照らしている。


 机に向かった瞬間、その案が形になった。


「……チャリティ、イベント!」


 自分でつぶやいた言葉に、リディアの心臓が跳ねる。


 そうだ。

 学園祭でも王宮の祝典でも、人を集める催しには募金を伴うことが多い。

 それなら――音楽家たちに協力をお願いし、孤児院の子どもたちのためのチャリティコンサートを開けばいい。


 完全にゲームにはない展開だ、

 未来にどう作用するかなんてまったく分からない。

 でも、ここまで話が変わってしまっているのなら、

 自分の心に素直に、できる事を最大限したい。





それから1週間後、図書館で作成した企画書を眺めていた。


「布団は……高品質なものを揃えるとなると、かなりの費用が必要だわ。

 だったら、いろんな人に協力してもらう形にしたほうが……」


 ――孤児院支援チャリティコンサート

 ・目的:冬を越えるための必需品(布団、薪)を支援

 ・開催場所:学園講堂(予定)

 ・内容:音楽家による演奏

 ・目標金額:○○○○ルク


 書類を見てると、胸の奥にじんわりとした熱が灯った。


「……できる。きっとできるわ」


 ――街で演奏していたヴァイオリンの青年


 まず最初に彼に声をかけて、OKをもらっている。

 チャリティは善意だけでなく、貴族の後援を得れる機会だと話すと、喜んで協力してくれる事になった。


 それから、ヴァイオリンの青年が他の仲間に声をかけてくれた。


 ――ハープの女性。

 ――ギターを弾いていた二人組の姉妹。

 ――フルートの少年。

 ――そして、最後に。

 街角で力強い歌声を響かせていた若い男性歌手――。


「五組……揃ったわ」


 アマチュアではあるが、実力と人気がある人に絞っている。この人の演奏なら聞きたいと思わせる人達ばかりだ。胸の奥に期待がふくらむ。


 その時、横から声がした。

 声音で誰だかわかる。

 クラウスだった。


「クラウス様……どうぞ」


 銀色の髪が夕陽を受けてきらりと輝く。

 まるで絵画から抜け出したような姿に、リディアは無意識に背筋を伸ばした。


「孤児院、どうだった」


 クラウスはまっすぐ問う。

 その瞳には、ずっと気にしていたという気持ちが滲んでいた。


「子どもたちは明るかったわ。でも……」


 リディアは言葉に詰まり、机の上の企画書に目を落とす。


 クラウスがそれに気づき、手を伸ばした。


「これは……?」


「孤児院のために……チャリティコンサートを開こうと思っているのです。布団や薪が足りていなかったから」


 クラウスはしばらく黙って紙を読み込んだ。

 やがて顔を上げ、微笑む。


「……すごいな、君は」


「え?」


「普通なら“かわいそうだ”で終わるところだ。

 こうして具体的に動けるのは、君の強さだ」


 リディアの胸がじんわり温かくなる。


「協力するよ。必要な許可は僕が通そう。学園講堂を使うなら学長印が必要だろう」


「本当に……いいのですか?」


「もちろんだ」


 クラウスの声は揺るぎなく、リディアの手がわずかに震えた。


「……ありがとうございます」


「礼なんていらないさ。

 僕は――君がやりたいと思ったことを応援したいだけだ」


クラウスの言葉に、胸が暖かくなる。


 二人はしばらく静かに食後の紅茶を飲むような穏やかな時間に包まれた。


 ――この人となら、怖い未来も乗り越えられるかもしれない。


 そんな思いが自然に湧き上がる。


「リディア」


「はい?」


「……君が先日、孤児院の子どもと一緒に見たペンダントのことだが……」


 クラウスの声色がわずかに変わった。

 その名を出された瞬間、リディアの心臓が跳ねる。


「孤児院の子供は隣国の王女が駆け落ちして産んだ子供の可能性がある」


「はい」


想像していた答えに頷く。


「隣国では大騒ぎになったようだ、隣国は君に感謝していて、大臣の間でも、君の評価は上がっている」


クラウスの思わぬ言葉に、呆然としているうちに、

クラウスが立ち上がった。


「チャリティの件、明日には学園長へ正式に書類を回しておこう。準備が必要なら、何でも言ってくれ」


「はい……ありがとうございます」


 そう言い残してクラウスは去ってしまった。

 リディアの胸はしばらく熱を帯びていた。

 鼓動が収まらず、指先までふるえてしまう。


 ――どうして、この人はこんなにも。


 勇気をくれるのだろう。


 窓を開けると、風がそっと頬を撫でた。

 遠くで学園の鐘が鳴り、静かな夜が訪れようとしている。


 リディアは深く息を吸い、机に広げた企画書を改めて見つめた。


「絶対に……成功させるわ」


 そう強く心に誓った瞬間、再びペンが走り出した。


 ――孤児院のために。

 ――未来を守るために。

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