05_巡礼者1
パチパチと算盤をはじく音が響く。
「はい、銀貨3枚と銅貨5枚です。」
ハーレン大陸において、都市以外での街や村の会計は神聖帝国通貨で払う。
それ以外の通貨は一切通用しない。
レナ・カサルではマーデの通貨が基準となりそちらしか持っていないものが多く巡礼の街では両替所がある。
今も何人かが両替所に走っていった。
「ここに来るまで何度も説明を受けている筈なんだがなあ。」
会計を済ませて店を出たムードがぼやく。
それを受けてレノンが吐き捨てた。
「まともに聞いてないんだろ。」
レナ・カサルの人間はハーレン大陸を下に見る傾向にある。
確かにレナ・カサルの人間の方が体格が良い。
が、実際の体力その他は小柄なハーレン大陸の人間の方が上だ。
身体強化を使えばその差は天と地程に開く。
寿命もそうだ。
最近のレナ・カサルの平均寿命は60歳前後、ハーレンに近いデ・カサルは80歳に近く、
ハーレンの都市の住人は90歳、辺境民に至っては100歳を軽く超える。
寿命だけ見ても1.5倍から倍以上の差があるのだ。
大災害前のアナ・ハルナの住人は200歳というのも珍しくなかったらしい。
そして大災害前のレナ・カサルの住人の平均寿命は80歳前後、
大災害から半世紀で3割近く短くなっている。
逆に東ハーレンの住人の寿命は大災害前は80歳だったから逆に伸びている。
巡礼者で賑わう村を見渡すと、ハーレンなら70歳以上という巡礼者の大半は40歳前後だ。
「そう言えば、あの食事処の女将さん、元巡礼者だったって言っていたな。」
女将が食事処を開いたのは20年前、その当時を知るガイ曰く、逆に10歳位若返っているそうだ。
先程の夫婦がこちらに定住したいと言っているのもそれを見てのことだろう。
「レナ・カサルの人間って25歳を過ぎると一気に老けるって聞いたな。」
ハーレンではやっと若造扱いが終わり一人前と認められる年齢でである。
「何かあるのかね?」
そう言って村の外でバイクを出す。
視線が集まるのを無視して3人は巡礼路を走り出した。
少し走った先の巡礼者達の野営地で騒ぎが起きている。
ここを利用するのは主に歩きなれていない高齢者や富裕層で野営地としては初心者向けに整っている場所だ。
「おい、どうした?」
3人はバイクを止め、収納に仕舞って騒ぎの起こっている場所に近付いた。
「済まない、毒消しを持ってないか?」
苦しむ男を吐かせて世話をしている男がこちらに気が付いて声を掛けてくる。
「何を食った?茸のようだが。」
話を聞くと激しい下痢や嘔吐と伴うが毒性としては低い茸だった。
手持ちの薬を飲ませ、患者に手を触れて脈を整えていく。
患者の容体が落ち着いたところで世話役をしていた男に声を掛けた。
「なんでこの人は、花笠茸なんて食べたんだ?
ヤーレや村で巡礼道沿いにある茸は大抵毒があるから食べるなと言われている筈だが。」
「ああ。私もそう伝えている。大体、食べられる茸なら人通りの多いところにある訳が無い。」
食事処で出される茸は全て毒を持たない様に専用施設で育てさらに毒抜きしたものだ。
野生の茸は辺境民でも毒抜きしたものしか食べない。
視線で先を促すと
「地元民から貰ったんだそうだ。」
「はい?」
詳しく聞くと何でも屋らしき一団から煙草と交換して手に入れたらしい。
旅慣れない巡礼者の為に、巡礼団は小まめに休息を取る。
そうした休息の時にそこにいた者達と会話して手に入れたと言う。
食事処で食べて美味しかったし、地元民から貰ったものだから大丈夫だろうと思ったとのこと。
次の野営地まで一休みしている最中、小腹を満たそうと焚火で茸を炙って食べたそうだ。
村で買ったものなら問題ないだろうと思って周りは止めなかった。
「怪しいな・・・」
「そうだね。」
地元民なら巡礼者に免疫がないのは知っているから食べ物を渡す時にきちんと毒抜きしたものにする。
その上、交換したのが煙草、煙草を嗜むのはレナ・カサルの人間だ。
臭いを嫌い、ハーレンの住人で煙草を吸うものは殆ど居ない。
「ここに金目の物を持ち歩いている奴はいるか?」
ムードの言葉に患者を案じて集まっていた巡礼者達が見合わせる。
少しして世話役が口を開いた。
「ああ、居るというか居た。彼が体調を崩したのを見て次の野営地に先に行くと言って出て行った。」
野営地はキャンプ場のようなもの。
患者を隔離する建物が有るわけでもトイレが有るわけでもない。
今は処理されて殆ど臭わなくなったが騒ぎになった時はかなりきつい臭いがしたことだろう。
他人の汚物の臭いなど嗅ぎたくないし、そんな場所で休息など取りたくないという気持ちは理解出来なくはない。
ただし・・・これからの巡礼の旅を続けられるかと言うと怪しくなる。
ヤーレから法王国まで、旅慣れた何でも屋なら10日程度、バイクを使うジーン達なら4日位。
平均的な巡礼者なら1ヶ月から2ヵ月
その間まともな宿は数か所しかなく大半は野営地でテントを使う。
そうなると風呂も入れず、着替えも出来ず埃に塗れてひたすら歩くことになる。
そんな中で自身や他人の臭いを気にしていたら旅は出来ない。
話を聞くと法王国からの帰路についた巡礼者達とすれ違う際、目を背け、鼻を摘まんでいたそうだ。
「・・・そいつら巡礼の旅を何だと思っているんだか・・・」
「話を聞いただけで実態を想像できなかったんだろうね。」
閲覧、有難うございます。
都市にはシャワーもトイレも完備され清潔です。
そういう暮らしをしていた人達が風呂無し、トイレ無し、洗面所等のまともな水場無し
食事は水と携帯食料だけ、ベットも無く屋外で寝袋なんて生活、余程の覚悟が無いと耐えられません。
特にレナ・カサルの人達は収納持ちが殆ど居ないので着替えも最低限
洗濯が出来るのは巡礼宿にいる時だけなんていう生活の想像できなかったんでしょうね。




