08_纏
巡礼宿の一室から二人の男達が町中を眺めている。
「ターゲット確認、医者のところに行くようだ。」
「同行者は一人、邪魔をした何でも屋の子供だ。」
彼らが依頼を受けた暗殺計画は失敗、仲間が捕縛されたのは2日前のことだ。
「奴ら知っているアジトは既に破棄している。」
残してあるのは偽情報だけ。辿り着くのは無関係なアレストリアの酒場だ。
捕縛された仲間の知っている関係者は全員雲隠れして別のアジトに隠れている。
「全く、大口叩いてこれか。使えない奴らだ。」
近い内に口封じをする予定だ。
『そろそろだな。』
ムードは隣にいるジーンに声を掛ける。
『見舞いを終えたら仕掛けるぞ。』
『『了解。』』
村の上空を3羽の鳥が飛び回っている。
医者の家からターゲットと子供が出てきた。
買い物をするのか宿ではなく市場の方に歩いていく。
子供は時折警戒するように視線を周囲に飛ばす。
その視線を避けながら男達は二人を包囲していく。
「見つかったか!」
子供の視線は自分達を捉えた。
子供はすぐさま連れの男の手を取り、裏道に駆け込んでいく。
「馬鹿め。」
追跡者達の包囲網はわざと裏道の方だけ空けてある。
「ターゲットが掛かった。追い込むぞ。」
「ハーレンの連中は勘が良いからな。自ら罠に嵌ってくれる。」
「楽な仕事だぜ。」
男達は人気のない路地裏袋小路にターゲットを追い詰め始めた。
その様子を上空から鳥達が観察している。
農機具を格納した倉庫と倉庫の隙間、雑多な道具が置かれた場所に二人は追い込まれた。
「追い詰めたぜ・・・っていない!?」
袋小路には木箱や樽が無造作に置かれている。
が・・・子供はまだしも大人の隠れる余地はない。
「探せ、どこに隠れた!?」
ハーレンの人間ならまだしもターゲットはレナ・カサルの生まれ。
木箱や樽を使って倉庫の屋根を乗り越えるだけの身体能力は無い筈。
現場責任者の男が木箱に近付いた。
「手間掛けさせやがって。」
ぶつぶつ言いながら周囲の様子を探る。
そして異変に気付いた。
静か過ぎる。
今回の包囲網に20人近い人員を使っている。
全員が全員この場所にいる訳ではないが結構な人数がこの近くにいる筈だ。
なのにそいつらの気配が周囲から感じられない。
「不味いな」
男はそっと木箱から離れ、路地裏から逃げ出そうとする。
男の意識が残っていたのはそこまでだった。
「こいつで最後か。」
ムードは倒れた男に拘束具を付ける。
「全く、25人も拘束することになるとはな。」
包囲に参加していたのは18人
残りの7人は宿や村の外で捕まえた。
一昨日と合わせると40人近くなる。
「保安隊が回収ポイントに到着したって。」
肩に鳥を載せたジーンの言葉にやれやれとムードは肩を回す。
「了解・・・全く大捕り物だな。
お陰で拘束具がすっからかんだぜ。」
そう言って倒れた男を担ぎ上げた。
保安隊の護送車に最後の容疑者を乗せると3人は集まった。
「取り調べはあちらに任せるでいんだよね。」
「ああ、尋問は手に余るからな。」
容疑者の護送先はヤーレ・・・ではなく近くの収容施設だ。
そこにはヤーレと何でも屋ギルドからのその手の要員が詰めている。
「エセルさん、暫くシル・ヤーレで預かるって。」
「親父からか。」
「うん。ヤーレだと人目が多いから。」
「ずっと纏を被せる訳にも行かないもんな。」
昨日一日、レノンとエセルは巡礼村の中をあちこち歩き回っていた。
ジーンは二人の様子を監視、ムードに被せる纏の情報を前後左右360度確認している。
ムードはというと村から呼んだヘルバードの協力を得て、エセルを監視する人物の洗い出しをしていた。
結果、今回の包囲網要員以外の関係者や協力者を何人も見つけ出している。
連中は人の視線には気を付けていたけれど鳥までは注意が回っていなかったので大量の顔写真を集めた。
それらを何でも屋ギルドや情報屋に送ってほぼ1日である程度の容疑者を確定。
そしてムードとエセルは昨日の夕方の段階で纏を使って入れ替わっていた。
ターゲットであるエセルはムードの姿で昨日の内に迎えに来たクランの仲間に預けている。
その時には村の食堂でエセルの姿をしたムードが食事をしていた。
彼等はエセル、レノン、ジーンの3人を監視しているつもりだったが実際は違っていたのだった。
なお袋小路に入ったのはジーン一人。
ムードは途中で離脱し、包囲網の要員の無力化に回っている。
で袋小路ではと言うとジーンは木箱や樽を使わず、倉庫の壁を登って屋根から脱出していた。
追跡者がいくら木箱を調べても痕跡は確認できる筈もない。
「狙われていると分かって手を打たない訳ないのになあ。」
去っていく護送車を見送り、ムードは呟いた。
「これで巡礼道の掃除は終わりだよね。」
ジーンの言葉にレノンが答える。
「連中もアホじゃない。暫くは大人しくしているだろうね。」
「だな。じゃあ行くか。」
3人は再びバイクに乗って走り出した。
閲覧、有難うございます。
ジーンが参考にしたのはVR
追跡者のみムードがエセルの様に見えるようにしています。
ムードとエセルではエセルの方が身長も高く体格も良いです。
ジーンは幻影系も得意なので問題ないですがレノンはそこまで幻影系の異能は得意ではないです。
その為、エセルに対する纏は顔の印象を誤魔化す程度、ムードの持つ少しサイズの大きい外套に、レノン自身がシークレットブーツで身長差を補い違和感を消してます。
追っ手は移動にバイクを使うムードが装甲車に乗ったという点に気が付けば良かったのですがそこまで知らなかったので騙されました。
まあ、食堂に本人が居ると思っているのでそこまで気にしてなかったのでしょうが。




