ユメノハナシ ~玩具の夢~
それは腹立たしいほどに――
ほら、欲しがってたやつだろ。
そう⾔って⽗は、どさどさと私の前に荷物を置いた。
⼿に取ってみるとそれは、テレビに出てくるヒーローのフィギュアだった。
そういえば、随分前に買い逃していて――最早欲しくも無くなっているものだ。
よかったな、⼿に⼊れるのに苦労したんだ。
⽗は上機嫌でそう⾔った。
他にもあるんだ、お前が好きそうな物ばかりだぞ――
⽗から次々と渡されるのは、どれもこれも昔欲しかった玩具ばかりだ。
フリマサイトで⾒かけることがあるが、結構な値がついていた気がする。
いやまあ、それはいいのだが、今欲しいかと問われれば――答えは否だ。
いや、いいよ。
昔は――⼦供のころは欲しかったけど、今はそうでもないんだ。
それに、こういう昔の玩具ってわりと⾼いだろ、いいよ、欲しけりゃ⾃分で買うから――
私はそう⾔いかけたが――
あまりにも⽗が嬉しそうなのを⾒て、なんとなく⾔いそびれた。
ありがとう、⼤切にするよ。
玩具の⼭の前で喜んでいる⽗に、私は礼を⾔った。
そんなことより――
そんなことより、久しぶりに会ったのだから、他にも話さなければならないことが沢⼭あるはずだ。
調⼦はどうだとか――
体の具合はどんなだとか――
この先どうするつもりなのかとか――
でも。
笑顔を。
⽗のこんなに嬉しそうな笑顔を⾒るのは久しぶりだったから――
私はまた話をすることができなかった。
まあ、いいか。
また今度で。
よかったな、よかったなあ――
まるで⼦供のように笑う⽗につられて、私も笑ったところで――
⽬が覚めた。
笑いはすぐに苦笑に変わる。
夢の中でさえ――懲りない奴だ。
また今度、また今度。
うんざりするほどの「また今度」を繰り返して――
それはもう、届かなくなってしまった。
今頃、どうしてるのかな。
久しぶりに、電話でもしてみるか。
そう思いながらベッドから起き上がったが――
それもきっと、また今度になりそうだと思った。
こんな⽇に限って――
窓の外を⾒ると、空は夢のように晴れている。
それは腹⽴たしいほどに――
あの頃のような、良い天気だった。