31. 決意
列車が到着し、アンナとエヴァンはアルカナ魔法学校の入り口へ向かった。
アンナは、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
目の前には巨大な鉄柵の門がそびえ、その奥には荘厳なゴシック建築の建物がいくつも並んでいた。
空を見上げると、上空には建物がいくつも浮かび、その中でも一際大きく荘厳な建物が、天空に輝く王冠のように目を引いた。
「ひ、広い……街全体が学校なの?」と、アンナは驚きの声を上げる。
「そうだ、すごいだろ? 俺も初めて来たけど圧倒されるよ」とエヴァンが答える。
すると、遠くで誰かが手を振る姿が見えた。アルカナ魔法学校のローブを着たエリオットだった。
「アンナ! エヴァン!」
「エリオット! 久しぶり!」
「招待してくれてありがとな」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ。さあ、案内するね」
エリオットは微笑みながら、学内を案内してくれた。
しばらく歩いた後、「ちょっと休憩しよう」と言い、エリオットは歴史的なパブ「リバーサイド・ターヴァン」に連れて行ってくれた。
「アルカナ魔法学校って本当にすごいね! こんな場所があるなんて夢みたい!」
アンナは目を輝かせながら感嘆の声を漏らす。
少しして、アンナが席を外したとき、不意に誰かに声をかけられた。
「ねえ、あなた、人間でしょ!」
驚いて振り返ると、アルカナ魔法学校のローブを着た女の子が立っていた。
「えっと……」
「やっぱり人間だよね!? 私、初めて会った! 嬉しい!」
「ど、どうして私が人間だって分かったんですか?」
「え……あれ? なんでだろう? 勘?」
その言葉に、アンナは思わず笑みをこぼした。
「あ、ごめんね! 私も人間なの!」
「ええっ!?」
「そうそう、アルカナ学校に通う人間は私しかいないの。でも、あなたももしかして受験生?」
「違います。ただ友人に会いに来ただけで……」
「ガーン……」
女の子はあからさまに肩を落としたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「あ、私、エマ! エマ・ブラウン!」
「私はアンナです」
「あなたに会えて本当に嬉しい! ……でも邪魔しちゃったね。楽しんでってね!」
そう言いかけて立ち去ろうとするエマを、アンナが呼び止めた。
「待って! 一つだけ聞きたいんです」
「なに?」
「不安とかないんですか? 魔法界で人間として生きていくこととか……」
「不安? うーん、特にないかな」
「え?」
「だって、ここで学んだことは、どの世界でも役に立つと思うし、何よりこれが私のやりたいことだから」
アンナはその答えに言葉を失った。
「それに、私には大切な人がいるの。この世界で一緒にいたいと思う人がね」
「大切な人……」
「うん、両親には悪いけど、私は私の人生を生きたいの。人間界にも戻りたい時に戻れるし!」
アンナは、その言葉に少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「何がやりたいのか分からないなら、とにかく探し続けるしかないよ。人生は一度きりなんだから!」
エマは軽やかに笑い、手を振ってパブを後にした。
その姿を見送りながら、アンナは自分の中に生まれた新しい思いを抱きしめていた。
アンナはエリオットとエヴァンの元へ戻った。
「何か良いことでもあったのか?」
エヴァンが、アンナの浮かれたような表情に気づいて尋ねる。
「何でもないよ」
アンナは笑顔で答えるが、少し頬が赤く染まっている。
「それより、二人は付き合ってるの?」
唐突なエリオットの問いに、アンナは一瞬言葉を詰まらせたが、少し気まずそうに答えた。
「あ、うん……」
「そっか」
エリオットは穏やかに微笑むと、エヴァンの方に目を向ける。
「アンナのことを傷つけたら、その時は容赦しないから」
その真剣な眼差しに、エヴァンは一瞬驚いたが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「アンナを泣かせるつもりはない。全力で守るから、安心してくれ」
その力強い言葉に、エリオットも軽く頷き、三人は和やかな空気の中で楽しい時間を過ごした。
エリオットと別れた後、アンナとエヴァンはアルカナ魔法学校内の訪問者用宿泊施設へと向かう。
部屋に入ると、アンナは窓の外を見つめながら口を開いた。
「エヴァン、私、このまま魔法界で生きていくよ」
突然の言葉に、エヴァンは驚き、アンナを見つめた。
「アルカナ魔法学校を見て、こっちの世界が気に入ったのか?」
「それもあるけど……それ以上に、今の生活が好きだから。ここでの毎日が、私にとって一番しっくりくるの」
アンナは小さく微笑む。
「でも、両親は?」
エヴァンの問いに、アンナは少し考え込んだ後、強い意志を込めた声で答えた。
「話してみる。ちゃんと説得するよ」
エヴァンは静かに頷き、アンナの髪にそっと手を伸ばす。
「頑張れよ。俺も、ずっとそばにいるから」
「ありがとう」
アンナはエヴァンの手の温もりを感じながら、少し涙ぐんでいた。
エヴァンはアンナの頭を優しく撫でると、彼女の額に軽くキスをした。その瞬間、二人の距離が一層縮まったように感じられる。
エヴァンの指先がアンナの頬に触れ、唇が重なる。いつしか、そのキスは深まっていった。
アンナはエヴァンの胸に手を当て、彼の温かさを感じる。その後、彼女は小さく息を呑みながら囁いた。
「エヴァン……」
エヴァンは優しく彼女を抱きしめた。そして、二人はお互いの想いを確かめ合うように静かに身を重ねた。
部屋の中は柔らかな静寂に包まれ、外の月明かりが窓から差し込む中、二人の影だけが寄り添うように映し出されていた。