29. 現実
アンナは今日も寮の自室でくつろいでいた。お気に入りの紅茶を片手に、本を読みながら穏やかな時間を過ごしていると、ドアが軽くノックされた。
(エヴァンかな?)
そう思いながらドアを開けると、そこには焦った様子のアルヴァンが立っていた。
「えっ、アルヴァン!? 何してるの?」
普段落ち着いている義父の突然の訪問に、アンナは驚きを隠せなかった。
「み、見せたいものが……!」
アルヴァンの声はどこか緊迫感があり、アンナは急いで彼を部屋へ招き入れた。
「見せたいものって何?」
アンナの問いに、アルヴァンは深く息を吸い込み、杖を取り出して振った。すると、映像が浮かび上がる。
「これは……?」
画面に映し出された光景を目にした瞬間、アンナは言葉を失った。それは、彼女の実の両親と兄が新しい家で穏やかに生活している様子だった。
「これ、どういうこと……?」
アンナの声は震えていた。
「アンナの家族は、大火事で亡くなったと思っていた。しかし、どうやら避難して無事だったようじゃ」
アルヴァンの説明を聞きながらも、アンナは現実を受け止めきれないようだった。
「そんな……私、ずっと……」
込み上げてくる感情を抑えきれず、アンナは涙ぐんだ。
「会いに行きたいじゃろ?」
アルヴァンは静かに続けた。
「専用の列車を使えば、人間界へ行くことができる。ただ、少し遠い場所じゃがな」
「帰らなきゃ……」
アンナはそう呟くと、立ち上がろうとした。しかしアルヴァンはその言葉を遮るように、厳しい声で言った。
「帰る? ここでの生活はどうするんじゃ?」
「こんなところにいる場合じゃないよ! 私だけずっと行方不明だと思われてる!」
アンナの声はだんだん強くなり、胸の内の焦りが表に出てきた。
「アンナ、落ち着きなさい」
アルヴァンは彼女をじっと見つめ、静かに言った。
「落ち着けないよ!」
アンナはそう叫びながら目を伏せた。アルヴァンの言葉に反発したい気持ちと、冷静にならなければいけないという自分自身の葛藤が入り混じっている。
「アンナ、ここも現実じゃ」
「現実……?」
「ここで出会った仲間も、大切にしなさいと言っておるのじゃ。焦る必要はない。準備ができたら、ご両親に会いに行くといい」
アルヴァンの穏やかな声が部屋に響き、アンナは少しずつ呼吸を整えた。
「……うん」
小さな声でそう答えたアンナの表情には、ほんの少しだが、冷静さが戻っていた。