2. 自由?
半年後――。
アルヴァンはすっかり貧乏になっていた。
アンナが魔法界に現れたあの日から、アルヴァンは毎日のように彼女を励ましていた。
「ほれ、運気の高まるパワーストーンじゃ!」
「願いが叶うかもしれないリストバンドじゃ!」
胡散臭い魔法具を次々と贈りながら。
彼は魔法具の商人で、アンナと出会った当初は成功を収めており、裕福だった。しかし、時が経つにつれて商売は衰退し、今では生活も困窮するありさまだ。
アンナが魔法学校に行きたいと言うと、名門魔法学校「ルミエール・アカデミー」への編入手続きをしてくれた。だが――。
(インチキ占い師め……自由だとか言っておきながら、自分の娘を庶民の学校に通わせるのはプライドが許さないなんて! しかも、学費以外の生活費は自分で稼げだなんて……)
アンナは豪奢な校舎を見上げながら、反発心を燃やしていた。
ルミエール・アカデミーの学生たちは資産家や貴族の出身が多く、特に力を持つ4人の名家の学生たちが学校を牛耳っていた。
エヴァン・ドレイク、リオ・ヴァルデ、セリナ・アストラ、フィリップ・カヴァリオ。
彼らは各寮の代表であり、学校の権力構造そのものだ。
庶民出身の学生たちは、そんな彼らによるいじめや排除に苦しめられていた。
アンナは放課後、生活費を稼ぐためバイトに明け暮れていた。しかし、その事実を周囲に知られることを恐れていた。
(自由って何……?)
アンナが心の中でそう呟いていると、同じ寮で同級生のリリアとカミラが声をかけてきた。
「アンナ、今日学校の近くに新しくできたカフェにカミラと行くんだけど、一緒に行かない?」
「ごめん、行きたいけど、用事があって……」
「また用事ー?」
「うん、また今度一緒に行かせて」
そう言ってアンナはその場から去り、急いでバイト先へと向かった。心の中で、友達との時間を大切にしたいと思いつつも、家計が厳しい現実に引き戻される自分がいた。
廊下を曲がったところで、誰かとぶつかった。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
顔を見あげると、それはエヴァンだった。彼の冷たい視線が刺さるように感じる。
「ああ。気をつけろよ」とエヴァンは一言だけ言い放った。アンナはまた謝罪し、急いでその場を後にした。
(びっくりした……)
アンナは学校から少し離れた、古びた魔法具を売る小さなショップでバイトをしている。店内にはパワーストーンや魔法の小道具が並んでいるが、その多くはインチキ臭いものばかりだ。ここなら、ルミエール・アカデミーの学生が来ることもない。
(そもそも人間ってバレたらいじめられるのかな……)
魔法界で暮らす人間は少ない。魔力を持たない人間たちは、本来ならこの世界で劣勢だ。
しかし、天然石のような石のついたネックレス『ソルヴィール』を首にかけると人間でも魔法が使えるようになる。アンナもアルヴァンからもらったソルヴィールを常に身につけていた。
ソルヴィールはこの世界における身分証やお金のやり取りの役割も果たしており、人々にとって欠かせない存在だ。そのため、誰もが必ず身につけている。
(ソルヴィールさえ外さなければ大丈夫。目立たないように、勉強だけはしっかり頑張ろう……)
そう思っていると、レジに客が現れた。
「これ、ください」
「あ、はい――」
アンナが対応するため、笑顔でお客さんに顔を向けると、見覚えのある顔に驚く。真っ黒のローブでフードを深くかぶり、眼鏡をしているが――間違いなくエヴァン・ドレイクだ。
「あっ」と二人とも同時に思わず声が出る。
(やばい、終わった――)