15. 強力な魔法薬
アンナは今日もグリフォネス魔法学校を訪れていた。
寮の共有ラウンジで、エリオット、クリス、ルーカス、ヘンリーと談笑している。
そこへ一人の学生が現れた。
「アンナ、彼は学生委員会のジェイムズだ」
「はじめまして。エリオットさんの彼女にお会いできて光栄です」
「はじめまして、こちらこそお会いできて嬉しいです」
「ジェイムズも座れよ」とエリオットが勧めたが、ジェイムズは「次の委員会会議の準備があるので」と微笑み、去っていった。
しばらくして、クリスが思い出したように言う。
「そうだ、あの魔法のトランプどこにある?」
「俺の部屋にある。取ってくるよ」
エリオットが立ち上がり、ラウンジを後にすると、アンナは他の3人と談笑を続けた。しかし、喉の渇きを感じ、キッチンへと向かう。
「あ、冷蔵庫の一番左上のやつだけは飲むなよ!」とルーカスが慌てて声を掛ける。
「え? ちょっと飲んじゃった……ごめん!」
その瞬間、ルーカス、クリス、ヘンリーの表情が凍りついた。
「……すごい貴重な飲み物?」とアンナが尋ねる。
クリスは頭を抱え、「だから早くラベル貼っとけって言っただろ!」
ルーカスも肩をすくめ、「それよりエリオットが――」
ちょうどその時、エリオットが魔法のトランプを手に戻ってきた。
「みんな、何を騒いでるんだ?」
「アンナが……ルーカスの買った魔法の媚薬入りジュースを飲んだらしい!」
その一言で状況を察したエリオットは、すかさず杖を抜き、アンナの手を取った。
次の瞬間、二人はエリオットの部屋に転送されていた。
「媚薬って……!?」
「の、飲んでから効果が出るまで5分だ。魔力が強いなら影響を抑えられるが……俺が魔力を込めれば何とかなるかもしれない」
アンナはベッドにちょこんと腰掛け、エリオットは額に汗を浮かべながら、手をかざして魔力を流し込む。しかし――
頰がほんのり赤くなり始めるアンナの様子に、エリオットは深く息を吸い込んだ。
「……ダメか」
エリオットは眉を寄せ、小さく呟いた。だが、すぐに自らを律し、杖を掲げて呪文を唱える。
「オブスキュラ・ソムニア」
アンナは静かに横たわり、深い眠りに落ちていった。
「ここでしばらく休んでくれ」
彼女にそう告げ、エリオットは共有ラウンジへと戻る。
クリスがからかうように目を細めた。
「あれ? 戻ってきたの? 彼女なら、そばにいてやればいいのに」
「眠らせたから大丈夫だ」とエリオットは静かに答えた。
しかしソファに座ると、片手で顔を覆い、沈黙する。
「おい……顔、赤いぞ」
ルーカスが小声で呟いた。
そして、翌朝――。
アンナは目を覚ました。視界に広がるのは見慣れない広い部屋。柔らかいベッドの隣には、まだ静かに眠っているエリオットの姿があった。
「ね、寝てた……!?」
瞬時に跳ね起きたアンナは、頭を抱える。
「ルミエールに戻らなきゃ!」
彼女が小声で慌てていると、隣のエリオットも目を開けた。
「おはよう、アンナ。気分はどう?」
「う、うん……大丈夫……」
言葉とは裏腹に、アンナの顔は真っ赤だ。両手で頰を覆い、そっと尋ねた。
「ねえ……昨日、私……変な顔してなかった?」
エリオットは少し驚いたように眉を上げ、すぐに柔らかい笑みを浮かべる。
「変というより……すごく可愛かったけど」
その言葉に、今度はエリオットの顔まで赤く染まる。
「まあ、全部ルーカスのせいだな」
「そうだね……もうあんなジュース絶対飲まない……」
エリオットも苦笑する。
「俺も知らなかった。ごめん、怖い思いさせたな」
「ううん、大丈夫。あ……もう授業の時間だ! ルミエールに戻らなきゃ」
「送っていくよ」
「ありがとう。でも平気!」
アンナは慌てて部屋を飛び出した。
扉を閉めた瞬間――
(は、恥ずかしすぎる……!)
彼女は胸元を押さえながら廊下を駆け抜けていった。