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12. 友情の予感

 今日もアンナは授業を終え、バイト先へ向かうため校舎を出た。そのとき、背後から声をかけられる。


「すみません」


 振り返ると、そこにはコル寮の代表、セリナ・アストラが立っていた。


 セリナは小柄で愛らしく、まるで絵本から飛び出した人形のような美少女だ。


「こんにちは、どうしましたか?」

「少しお話したいことがあって……今、少し時間ありますか?」

「少しだけなら大丈夫ですよ」

「ありがとう。じゃあ、そこの中庭のベンチで話しましょう」


 アンナは誘われるままにベンチへ腰掛け、セリナに向き直った。

 彼女は大きな瞳に涙を浮かべ、唇をきゅっと噛んでいる。


「実は……あなたを襲撃するよう仕向けたのは、私なの」

「えっ……」


 セリナの声は震えていた。


「エヴァン命令だと言って、あんなことをして……ずっと謝りたかったの。本当にごめんなさい」


 アンナは一瞬息を飲んだが、すぐに微笑み返した。


「もう終わったことですし、大丈夫ですよ」

「許してくれるの?」

「もちろんです」


 安堵の笑みがセリナの顔に広がる。


「……でも、どうしてそんなことを?」


 アンナが質問すると、セリナの表情が少し照れくさそうに変わる。


「私……昔、すごい太ってたの」

「……はい?」

「好きな人ができて、ダイエットを頑張ったの。でも……まだ全然振り向いてもらえなくて」

「え、もしかして……」

「うん。私、エヴァンのことが好きなの」

「そうだったんですね!」

「それで、あなたと仲良くしているのが許せなかったの……」


 セリナはうつむいて呟く。


「だからあなたのことを調べたら、すごい貧乏な家だってわかって、それを……」

「えっ!?」

「あ、でも心配しないで。みんなには言ってないわ。ただ、嫌がらせしたって思われてるだけだから」


 アンナは驚きつつも、ふっと肩の力を抜いた。


「……嬉しいです」

「え?」

「貧乏なこと、ずっと隠してコソコソしてたから、こうやって話せて嬉しいんです」


 セリナの頬が少し赤くなる。


「そっか……じゃあ、私が昔太ってたこと、誰にも言わないでね!」

「はい!」


 二人は笑い合い、どこか友情の予感が漂った。


「アンナが嫌でなければ、今度一緒に遊ばない?」

「もちろん!」


 アンナは笑顔で手を振った。


 そして、翌日――。


 アンナはリリアとカミラと一緒にランチを終えたあと、選択科目の教室へ向かっていた。必修科目とは別に、自分の興味で履修できる自由な科目だ。


「アンナ!」


 後ろから元気な声が聞こえた。振り返ると、セリナが駆け寄ってくる。


「セリナ! どうしたの?」

「今から授業?」

「うん、もうすぐ始まるよ」

「そっか、じゃあ、終わったらちょっと公園に行かない?」

「いいよ!」


 授業を終え、待ち合わせたアンナとセリナは、ルミエールの近くに広がる緑豊かな公園へと足を運んだ。


「ここ、すごく好きなんだ」  


 セリナが微笑みながら言う。


「わかるよ。広いし、いつ来ても綺麗だもの」


 アンナも柔らかく笑みを返した。


「お気に入りの場所があるの。一緒に行こ?」


 セリナはアンナの手を引き、奥の方へと進んでいく。


 道の先には、背の高い木々がまばらに立ち並び、絨毯のように咲き誇る色とりどりの花々が一面に広がっていた。


「うわぁ……すごい……!」


 アンナの口から感嘆の声がこぼれる。


「綺麗でしょ?」


 セリナは得意げに笑みを浮かべた。


 その瞬間――。


「リガティオ・ネモリス!」


 セリナが突如、響き渡るような声で呪文を唱えた。


「えっ――!?」


 驚く間もなく、アンナの体はふわりと宙に浮き、目の前の巨大な木の幹へと引き寄せられる。  


 見る間に木の中に吸い込まれ、視界が暗闇に包まれた。


 狭く、息苦しい。アンナは手を突き出しても、指先に何かが触れることもない。まるで、無限の牢獄だ。


「助けて……誰か……!」


 しかし、声はどこにも届かなかった。

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本作は、「エマと魔法使いのレオン 〜魔力を与えられた少女〜」のスピンオフ作品です。
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