10. 恋
数日後、アンナはエリオットの招待で、彼が通うグリフォネス魔法学校へ遊びに行くことになっていた。
寮を出て、学校の門へ向かって歩いていると、遠くから楽しげな声が聞こえた。
ふと目を向けると、そこにはエヴァンと編入生のミアが腕を組んで歩いていた。
(やっぱりいろんな女の子と……)
アンナはため息をついたが、すぐに顔を振り、気持ちを切り替えて駅へ向かった。
グリフォネス魔法学校は、ルミエール・アカデミーから列車で15分ほどの距離にある。
駅のホームに着くと、そこにはエリオットが待っていた。
「エリオット? どうしてここに?」
「学校が早く終わったから、迎えに来たんだ」
「えっ、わざわざ!? 嬉しい! ありがとう!」
「行こうか」
「うん!」
二人は列車に乗り込んだ。
「着いたら、友人たちも紹介するよ」
「名家の人ばかりなんでしょ? なんか緊張するな……」
「みんな同じ学生だよ」
「そういうことにしとく」
「なにそれ?」
笑いながら窓の外を見つめる二人の間に、心地よい沈黙が流れた。
グリフォネス魔法学校に着くと、そこはルミエールとは異なる、荘厳で華やかな建物が立ち並んでいた。
エリオットの案内で寮の共有ラウンジに入ると、彼の友人のクリス、ルーカス、ヘンリーが談笑していた。
「エリオットが女の子連れてくるなんて、超珍しいじゃん!」
最初に口を開いたのはクリスだ。
「もしかして、本気の恋ってやつか?」
ルーカスがニヤリと笑った。
「余計なこと言うな」
エリオットが不機嫌そうに言う。
「こいつ、意外と恋愛初心者だから、優しくリードしてやってください」
ヘンリーがアンナにウィンクした。
「おい……!」
エリオットの顔がほんのり赤く染まった。
「まだ付き合ってないのか。悪い!」
クリスは悪びれもせず笑う。
(からかわれてる……でも、仲が良いんだな)
アンナもつい笑みを漏らす。
「そうだ、最新の魔法ボードゲーム手に入れたんだ。みんなでやろうぜ!」
クリスがテーブルにゲームを広げた。
「魔法のボードゲーム!? 初めて見た! 面白そう!」
「飲み物はあそこのキッチンにあるやつ、自由に取っていいよ」
ルーカスが親切に言う。
「ありがとう!」
アンナはグリフォネスの友人たちと楽しい時間を過ごし、すっかり時の経つのを忘れていた。
「あっ、もうこんな時間……!」
時計を見て驚くアンナに、クリスがさらりと言う。
「泊まってけば? エリオットの部屋、広いし」
「泊まってく?」
エリオットが視線を向ける。
「きょ、今日は遠慮しとくよ」
「じゃあ、寮まで送る」
「ありがとう」
友人たちに別れを告げ、エリオットとアンナはルミエール・アカデミーへ向かった。
寮の近くまで来ると、エリオットが立ち止まり、静かに言葉を継いだ。
「アンナは、俺のことどう思ってる?」
「ど、どうって?」
心臓が跳ねる。
「俺は――アンナが好きだ」
「……っ」
思わず息を飲む。
「そんなに驚く?」
「私、何の取り柄もないし……」
「そんなこと、ない」
二人の間に再び沈黙が訪れる。けれど、それは重いものではなく――
「また、会いに来ていい?」
「……もちろん!」
返事を聞いた瞬間、エリオットはそっとアンナを抱きしめた。
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」