依頼確認
前回のあらすじ キリトスの元にやってきたトオルが依頼協力を要請。それから四人が集まり、自己紹介ついでに飲みに行った。
翌日の8時、酒場
「あーぁ、あったま痛ぇー。おいっ、起きろ。起きろって」
「んーん」
トオルが大きなあくびをしながら目を覚ます。
「トイレトイーレっと」
キリトスが目を擦りながら立ち上がり、振り返る。
「うわっ、お前ビビらせんなよ」
キリトスは真後ろに立っていたハスマに驚き、尻もちをつく。
「すみません。起きるのを待っていてぼーっとしていました」
「ふ〜ん」
キリトスはハスマに差し伸べられた手を掴み起き上がる。しばらくするとトオルが起き上がり、ケーキを持ってラプターを起こしに行く。
「ほらラプター、起きてケーキあるよ」
トオルがフォークでお皿を鳴らす。
「...無理。トオル俺のこと騙した」
「ごめんって、これあげるから機嫌直して」
「...20いや、30個なら許す」
「死ぬよ?まぁ、いいや。分かった。買ってくるよ」
トオルが急いで店を出る。
「朝から騒がしいやつだぜ。なぁ、ハスマはなんで依頼に協力するんだ」
「なんでって、あなた方と同じですよ」
「あっ、うん。わあった」
二人の間に沈黙が流れる。そこへ沈黙を破るようにトオルがやってくる。
「ふー疲れた」
トオルがラプターに大量のスイーツを与えると、ラプターはゆっくりと起き上がり、寝ぼけながらスイーツを貪る。
「トオル、結局依頼人はいつ来るんだ。てか、事務所に居なくてもいいのか?」
「ああ、大丈夫。ここに来てくれる予定だから」
「いつだよ?」
「そろそろ」
トオルの発言とほぼ同時にノックする音が聞こえる。
「おっ来た」
「怖っ、未来予知かよ」
トオルが扉を開くとそこには桃色の髪と瞳をした。物腰の柔らかそうな女性が入ってきた。
「失礼します。私はレブルン家、伯爵令嬢マーキュリー・レブルンと申します」
「みんな彼女が依頼人だよ。ほら、ラプターも目覚まして」
皆が起き、彼女と対面で座る。
「トオル。依頼は極秘とか言ってたのにこんな酒場で話していいのか?」
「そこは大丈夫。今日は貸し切りにしてもらったんだ。それにここの店主は信頼できる」
「なら、まぁ大丈夫か」
「では、マーキュリーさん依頼内容の確認をお願いします」
「はい、私は聞いての通り伯爵令嬢です。そして依頼は単刀直入に申しますと、行方不明になった私の両親の捜索です」
マーキュリーの言葉に対し、少し間をおいてキリトスが言う
「それなら、騎士団の詰所に行けばいいんじゃねぇの?」
「はい、その通りです。私もそう思いますしそうしました。ですが、衛兵たちが私の家の検察を初めてからすぐに捜査は取りやめになりました。そこから、私は兄と共にこの領地を二人でなんとかしていました」
「公表はされないんですか?」
ハスマの質問に対し、マーキュリーは質問内容を予想していたかのように素早く答える。
「するつもりはありません。兄であるアルフレッドの民を混乱させてはいけないという意見を優先しました」
それに対し、キリトスが
「公表した方がいんじゃね」
「俺もそう思うよ。領主の死なんて、いつ発表しても多少混乱はするだろうし」
「それは兄と話し合って決めます。それより本題はこの後です。両親が行方不明になった日の夜、不穏な気配というか視線を感じ、目を覚ましました。それは私のベットの周りをうろうろとした後、窓を開けて出て行きました」
「目は開けなかったのか?」
「開けようとしましたが恐怖というか本能的な何かが開けてはいけないという信号を激しく鳴らしたのです」
「はえぇ、それって人じゃない感じ?」
「はい。とても人とは思えぬ人の大きさでした。それと部屋には何かが引きずられた後がたくさんありました。その上それは定期的に来るようになったんです」
「お兄さんには相談しなかったんですか?」
「もちろんしました。それから私は、その何かが来るたびに部屋を移り、兄はそれが来るたびに部屋を調べていましたが結局分からず仕舞いというところにトオルさんが声をかけてくれたんです」
「なるほどね」
マーキュリーが一通り話した後、割り込むようにキリトスが言う。
「じゃ、早速レブルンち行くか」
それに便乗するようにハスマが言う。
「僕も賛成します。証拠が消える前に向かいたいです」
「そうだね。マーキュリーさんこの依頼俺たちが承りました。とりあえずもっと詳しい話は追い追いにして」
皆が立ち上がる中、ハスマがハスマの太ももを枕にしているラプターを起こす。
「ラプターさん、起きてください。早くしないと先に行きますよ」
「...んーん」
こうして五人がレブルン家へと向かい移動する。
「ついたー、昨日と今日でまじ移動三昧で疲れた」
「悪いね、キリトス。マーキュリーさん。両親の部屋と何かが現れたっていう部屋を教えてもらえる」
マーキュリーは申し訳なさそうに四人に開き直る。
「その申し訳ないんですが、兄が探索後念のためにといつも部屋のものや痕跡を処分していて...」
「それは聞いてなかったな」「まぁでも、調べるだけ調べるよ」
「はい、すみません。案内します」
マーキュリーが何度も謝りながら、部屋へと案内する。
「ここが両親の部屋です」
「おお、広いなぁ」
「というか、綺麗すぎませんか?これ」
「そうだよね。さすがにここまでとは予想外。ていうか、何で部屋のもの壊しまくってんの?ハスマ」
「ただの発作です。お構いなく」
キリトスが部屋を一周し、中央で全体を見回しマーキュリーに振り返る。
「なぁ、マーキュリー。この部屋ほんとにあんたの兄貴一人で片付けたのか?」
「はい、一人でやったと言っておりましたが...」
「人を入れた可能性はありってとこかな」
「おっ、キリトス頭回ってきた」
「全然、それどころか、酒でデロデロだ」
「何酒飲んでんだよ」
「お前が飲ませたんだろが」
「ラプター、なんかない?」
「...んーん、変な匂いする」
「どんな匂い?ラプター」
「...いろんな動物の肉集めて、腐らせたみたいな」
「そんな匂いするか?」
「...ラプター鼻利く、間違いない」
「ラプターどこからかわかる?」
ラプターが目を瞑り集中する。ラプターが匂いを辿りながら移動し立ち止まる。
「...ここ」
ラプターが指を指したのはベットだった。
「別に何もねぇけど?あれっ、でも匂うぞ。俺でもはっきりわかる」
「確かにこれはひどい匂いですね」
ハスマが鼻を摘みながらベットに近づく。
「マーキュリーさんこのベットって、壊してもいいですか?」
「えっ、まあ大丈夫だと思います」
「ありがとうございます」
そう言い終えると同時にハスマが拳を振り上げ、ベットに叩きつける。すると、ベットは真ん中から二つに割れる。
「おいおい、どんなフィジカルしてんだよ」
「人間技ではないね」
「皆さん見てください。ベットの下に何か付着してます」
ベットの下には薄い赤色をした気色の悪い粘液のようなものが付着している。
「よし、ジャン負け触るか?」
「これ壊さずひっくり返した方が見やすかったんじゃないか」
「すみません。破壊衝動が抑えられなくて」
「とりあえずキリトス触ってみて」
「えっ、じゃんけんは?」
沈黙が走り、「早くしてくれ」という空気が流れる。
「いやいやいやいや、空気感に飲まれるかよ。触って死んだらシャレに何ないから」
「じゃあ、ジャンケンしましょうキリトスさん」
「じゃあ、行くぞ」
『ジャンケンポン』
(ま、負けた。俺が、あれを触る。いや、無理無理)
「ハスマこれは三回勝負だ。わかったな」
「わかりました」
『ジャンケンポン』
「ふー、みんな今までありがとう。楽しかったよ」
「キリトス。相手が悪かったよ」
キリトスが深く息を吸い、吐く。そして、意を決し左手の小指の指先に粘液をつける。
(よし、これなら毒でも、酸でも最低ダメージだ)
キリトスの指が触れた瞬間、その粘液はキリトスの指に集まり、形を変えながら波打つ。より人らしく、より指らしく。そして、その粘液は薄い赤色のままキリストの左小指と同じ形へと変形した。キリトスは自分の指を確認するが違和感はなくいつも通りだ。しかし、目の前には自分の指と全く同じ形、質感をした薄い赤色の小指がある。まるでさっきまで自分の指にくっついていたような断面そこから漏れ出す血のような液体が恐怖をさらに引き立てる。
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