悪徳領主、街へ向かう
「アラエル様?」
朝7時 いつものようにニナージャがアラエルの寝室のドアをノックしても反応がないことに違和感を覚えた。
いつもであれば………
『ちょっと、待ってくれ』
『あと5分』
『もうすけしだけ』
『あと10分』
『今日もうやだ………グゥーふーグゥーふー』
と馬鹿みたいな会話を一通りして、ニナージャが部屋に突撃して布団の中で芋虫のようにくるまっているアラエルに添い寝しようとして追い出される。
ほんと、他人が見たら何してんだこのメイド? と思われるかもしれないが、シシリー公認でこんな事をしている。だから皆諦めている。
「入りますよ〜」
無垢材に焼きが入った製作者の独特の感性を感じる、扉を開くとすぐにアラエルとの愛の巣であるキングサイズの虚しいベットが広がるが、そこにはいつもある温もりがない。
「アラエル様?」
恐る恐るベットに近づく。
天井付近からゾンビとなったアラエルが降ってくるかもしれない。
ベットの下の隙間から手が生えて、引き摺り込まれるかもしれない。
ニナージャは恐怖と戦う。
この無駄に硬い人型に膨らんだ布団の下に一体埋まっているのか。
「アラエル様?」
ゴクリと喉を鳴らし覚悟を決めたニナージャは一気にアラエルの布団捲り上げる!
布団が剥がれシーツが見えるとニナージャは目を見開く……
「ま、枕……やられた! 悪徳領主!」
ニナージャは急いで走り出す。
化けの皮が剥がれようと気にしないで向かった先は、アラエルの妻、シシリーの寝室であった。
この夫婦、共に1人の時間が好きすぎて別々の部屋を持っているのである。
もちろん部下たちは反対した「世継ぎも仕事です!」とだが部下は上司に意見してはならない。
結局部下たちの反論は揉み消され、別々の寝室をゲットしたのであった。
「シシリー様!」
ニナージャは寝室のドアをノックすることせず。開け放ち、オレンジの際どい下着姿でモーニングのコーヒーを飲んでいるシシリーと目が合う。
シシリーは急いでベットのシーツを剥ぎとり、そのあらわとなった白い肌に被せたが、シーツも白、体も真っ白、オレンジの下着が透けてる。溢れたコーヒーがシーツに茶色いシミを作る。
「ニナージャ? なぜこちらへ?……キャ!」
シシリーは今自分が何を着て何をしているのかを思い出すと可愛い悲鳴をあげた。
「そんな場合ではありませんシシリー様……旦那様が行方不明です。」
息を切らしたニナージャの発言を聞いても顔色ひとつ変えずに、アラエルがどこに逃げたか考える。
「アラエルが? なんだ………多分ですけど、中庭のテラスで居眠りしているのでは?」
「中庭? テラス?」
は? なんでそんなところにといった疑問の表情である。
そこまで酷い顔で見なくても良いと思うわね、私可哀想。
「夜眠れなくて、外歩いてて、座り込んだら寝てしまった、そんなところでしょう、二代目セバスに頼んで朝食でも持って行けば帰ってきますよ」
「は、はあ?」
ニナージャは納得したのかしてないのかわからんな異様な声を出しシシリーの部屋を後にした。
「子供か?」
「レディの下着姿見て反応なし、可愛くないの、」
シシリーは胸をもう少し寄せるように押し上げた。
『大きいと思うけど……アラエルなら一撃で沈むのに』
その後。中庭を見に行ったらニナージャはお休み中のアラエルを発見しぐっすり寝ているアラエルの頬にキスした。わざと口紅がベットリ付着するように。
そのまた数分がニナージャに指示されて朝食を持ってきたセバスがその頬に気づき『お楽しみでしたね』とアラエルに言ったが本人は何が何だか気づかなかった。
「アラエル様、こちらが今日のお仕事です」
無事、アラエルは確保された。
自室に連れ戻されたアラエルは頬の口紅をシシリーに見られた、全てを搾り取られ、ふらふらっと廊下を歩いていたら二代目セバスチャンに発見され、急いで逃走したが行って及ばす、捕まり、執務室に監禁されていた。
セバスは今日の仕事だと言いセバスの身長の半分ぐらいの高さがある紙束をデスクの上に置いた。
「おい、今、ドンって言ったぞ、それ一体何キロあるんだ?」
「さあ? 私は知りません、私は運び屋ですので」
「ブツか? それともヤクか? ふーん。はぁやらばいいんだろ、ハンコどこ?」
「知りませんよ」
「あっそうだ、ここだ」
どう言う原理なのかわからないが、アラエルはデスクの一部分を押し込むとデスクの別の場所が水に浮かべた桶のように浮き上がり、そこに収められていた白い箱を開けると四角い領主印と呼ばれるハンコが出てきた。
「無駄に警備が厳重ですね」
「誰にも言うな、これ盗まれたらお前さんが真っ先に疑われるぞ」
「わかりました」
「で、帰らないのか?」
1番上の書類を取り出し、ハンコを押したアラエルは目の前で動かないセバスに声をかけた。
「宰相殿から逃げないように監視してくれと指示されてますので、逃げたら奥様にバラしますので」
「うちの力関係を弄ぶな……」
「あっ! 奥様」
「すいませんッ!……誰もいねぇーじゃん」
この短い40年以上の人生の中でこれほど人を殺したいと思ったのは2回目だ。
1回目はあの屑たち、文字通りスクラップにしてやったが、セバスめ! 人の心を弄んで!。
「チッ、……
『トン スッ ザッ トン スッ ザッ 』
「口ではなく手を動かしてください」
バレないと思ったけど……先代セバスなら笑って見逃してくれたのに、セバス……戻ってきてくれ!
「チッやりますよ」
一体何時間が経ったのだろう、計り知れないほどの時が立ったと思う。
「なぁ、そろそろ休憩しよ」
「まだ、30分も経っておりません」
えっ? 嘘だろまだ……たったの30分? 嘘だろもう24時間はって思ったけど? 嘘だろ、
「アラエル様そんな『嘘だろ』と言う視線で見てもらっても時間は進みません。」
山のようにおかれた書類の束は半分程度にまで減って、今日分のノルマは達成しているのか、セバスの言葉はいつもより多少優しい。が『まだ終わってない』とその目が語る。
一応、処理済みの箱に置かれた書類のほとんどがほぼどうでもいいものであった。
女性更衣室の利便性向上はやりようがないので先送り
宰相の交代は悩んだ末に、破棄するとこにした。前回罷免させようとしたら猛反発を喰らった
悪徳領主の減給は拒否した。俺の給料は下げさせない絶対にな! あははっあははは 残念だったな!
メイド部隊の賃金アップは会計が渋っているので無視した。
セバス交代の書類を挟もうとしたがセバス本人にバレ阻止された。
衛兵の質向上は即答で許可した
アラエルが構築した上水道と下水道の設備更新はもれなく許可。
「わかりました。一応目標量は達成しましたので休憩にしましょう」
セバスの甘い言葉にアラエルはヒャッホウ!と飛び跳ねた。
そのせいで一枚の紙が舞い上がった。
それを空中でナイスキャッチしたアラエルは目を輝かせた
「定期城下視察」
「はい? っ!」