夜 2
「どっちにですか?胸ですか?舌ですか?それとも……」
それともーーーわたし?
シシリーの艶やかな唇が僅かに動いた。
顔を紅潮させ、臍の少しした下腹部を隠すように両手で押さえた。それに釣られ視線が少し動いたが持ち前の精神力で無理やり止めた。
「どちらをご覧に?」
「外だ。今日は満月みたいだな」
一方的に情勢が悪くなったアラエルは話を変えようと画策したが、その話もシシリーにとってはあまりいい話ではなかった。
「ニナージャが俺にこう言ってきたんだ『私のスリーサイズ知りたいですか?』っな、だからこう言い返してやったんだ『おう、なら全部教えてくれってな、体の隅々まで』っなそう言ったら『死ね』そう言われて終わったよ。それ以上でもそれ以下でもない」
妻を前にそんな言い訳をして命の一個で済めばまだ優しい処分だろう。だが当のシシリーは
「死ねですか……」
流石のシシリーもニナージャの口の悪さに吐き気でも催したのか下を向いてしまった。
「だろ、もっと言葉の選びようがあるだろう。もっとなんて言うか……あれ、あれ、そうあれだよ」
今朝のニナージャの言い草はかなり悪意が込められたものであったが、たがニナージャの心境としてはそのぐらい言ってもまだ優しいものである。
「……生優しい」
「は?」
「死ねで済んだんですか……私ならその場で殺すや地獄に落とすでもまだ優しい方だと思いますが、ニナージャの清らかさが伺えますね。」
「そっちかよ! おい! 俺の味方はいねぇのかよ、なあ?」
「大丈夫ですよ旦那様、旦那様の体は私がいなければ生きていけないように改良中ですので」
結婚生活は躾
誰が言ったかわからないが、言い得て妙であるのかもしれない。
いかに旦那を躾けられるかによってその後の結婚生活の満足度が変わる。
オズワルド家な場合、今のところ絶賛躾中と言ったところである。
「さらっと怖いこと言うな……」
「もうほら、こことか、あそことか既にタテナイノデハ?」
「3人目か?」
シシリーのその言葉がどこを指しているのかわからないが、なぜか体の中心少し下側に違和感を感じた。
長女リナに次ぐ息子か娘……いいかもしれないと言う思いが心を巡る。
「ウフフ、なんの話ですか?旦那様?」
「ふーん、だから俺がニナージャに寄っていくのか?」
「まぁ旦那様酷いわ、私を捨ててメイドに目移りですか?」
貴族ならよくある例かもしれない。
日々顔を合わせるのに飽きた妻をティッシュのように使い捨てにして、スカート丈の短い可愛いメイドに腰振って、飽きたらまた捨てる。
これがアラエルが悪徳領主と呼ばれる所以なのかもしれない。
「良いかもなってお前も元メイドだろ」
「ええ、その通りです、その昔から旦那様の身体を任されたメイドです」
夜のお供、日々ベットで一夜を共にし身体をわ合わせた関係の2人。
夜が明けて明るくなって2人の身体が鮮明に見えるようになってからも2人は夜を楽しみ、朝、ベットメイクをしに来たメイド長に『昨夜はお楽しみでしたね』と毒突かれる。
「言葉の綾だな、もっと言い方あるだろう」
実際のところそんな事はしてない。
シシリーが寝入ったらアラエルはベットからそっと出て、月明かりのみの外庭を散歩して、太陽が登り始めるとシシリーの隣に戻る生活をしていた。
そのおかげで目の下のクマは酷い事になり。さらにシシリー以外の女性との不倫が疑われた。
「下も上もお世話しました」
「自分のことは自分でやってた」
「そうですか? 洗濯は? お食事は? 着替えは? おトイレは?」
「最後違うぞ」
「3番目は否定なさらないのですね」
ウフフと笑みをこぼした。
アラエルは着替えの世話をしてもらったことはないが領主用の無駄に高い服を着させてもらった記憶があるために強くは否定できない。
「何もできなかったあの坊ちゃんが今では悪徳領主。そのように裏で呼ばれる存在へ……ですか」
「好きで呼ばれてるわけじゃない」
「あら、そうでしたの? 私てっきり旦那様が皆様にそう呼ばせる、悲しい男だと思ってました」
「俺のことをどう思ってるか、今の発言でよくわかったよ、そんな馬鹿貴族と同類に扱ってたんだな、」
夜も深まり、アラエルは立ち上がる。
「……貴方、まさか」
シシリーは身を固める。
「もう夜も遅い、寝るとするか」
「意気地なし、このまま一夜を共に明かしましょうよ、一夜限りの過ちを肌で感じましょう………あなーー」
シシリーの艶やかな唇を人差し指を優しく押し当てるようにして閉じる。
「特別は、取っておかないと」
「わかりました。そう言うことにしときましょう、ではまた明日」
「あぁ、おやすみシシリー」
「おやすみなさい。貴方」
シシリーの寝室にまでついて行ったアラエルは、やっぱり眠れないのか、月明かりが照らす外庭へ歩いて行った。
「眠れない……」
「夜の空気は違うな……」