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悪徳領主になるまでの物語  作者: 雄太
第零章 悪徳領主 街へ向かう
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「そう言えば、そんなこともあったな」


 30も半ばを過ぎ後半に差し掛かろうとすると何故か昔が懐かしく思えてくる。


 歳のせいなのか、流れた時間が長すぎるのか……

 どっちも同じだな。


 アラエルは昔を懐かしむように呟き、情緒不安定なのかフッと微笑んだ。


 シシリーの奴、あのあとほんとに石持ってくるとは思わなかったな。今でもそこに置いてあるが……あの石はほんと何処の石なのか? 別に道端に落ちてた石と言われても全く驚かないな、もしかしたら本当にな、考えるだけ無駄か。


 シシリーに直接聞いても『秘密です』と唇に手を当ててしらばっくれるし、可愛いから許しちゃうけどシシリーじゃなきゃ殴ってるが。俺はレディに絶対に手を出すことはしない。


「そんな疲れた顔してると本当に疲れますよ」


 昔の古い記憶をふと思い出していると、背中側から声を掛けられた。振り向かなくてもこの声の主か誰なのかわかる。

 だが、振り向かないと彼女は怒り出すだから俺はゆっくりと振り向いた。


 もう既に夜が深まり、化粧を落とした彼女だが化粧をしてなくても、美しい。日中は面倒だからと一つにまとめている髪をストレス発散と言った感じに解放した、黒髪ストレートは月明かりに照らされた艶がさらに深まる。


『そんな疲れた顔、してたか? 自分の顔は見えねぇからわからないや』


「もう夜も遅いですし、おやすみになってはいかがですか?」


「そういえば結局あの石、何の石なんだ?」

「あの石とは?」


 藪から棒に変な事を聞かれたと言うような表情で俺のことを見てきた。シシリー、忘れないでくれ。


「そこに飾ってある例の石だ」

「これですか? うん、記憶にありませんね、」


 アラエルが指を指した先には丁寧に飾られた灰色と黒が複雑に混ざり合った石が置かれていた。その()を凝視した彼女はこれは何? と言った感じで首を傾げ少し考えるように右手の人差し指の関節を上唇にそっと添えた。月明かりに照らされた彼女の顔は魔女のように恐ろしかった。もし仮にだが、彼女が今『私は魔女』ですと言っても信用できるほどに全身に悪寒と鳥肌が立つのを感じた。


 やばい。


「誰からの貢物ですか? 私に隠れて他のメイドに手、出していると聞きましたが?」

「ブュッッ!!」

 紅茶に手をつけ始めたアラエルが深〜い赤色の液体を吹き出す。


「グュ、ゴボッゲホッテ……」

「あらまぁ、汚いですよ

「ごほんっ。ど、どこでそんな話を?」


「あら。その動揺の仕方。心当たりがあるので?」

「ないが」


 シシリーはアラエルが吐き出しシャツに溢れた紅茶を拭きながらことの顛末を話し出す。


「それは置いといて、後でお話がありますので、ニナージャが昼間、私のところに来て号泣してましたよ、私が何かあったの? と聞いても『旦那様が……』としか言いませんでした。ニナージャのメイド服のスカートの裏に血が付いてました。」


 シシリーはそこで言葉を切ると、視線をあげアラエルの瞳孔をはっきりと見つめる。白く今にでも折れそうなほど細い指はギュッとタオルを握る。


「貴方、ニナージャに何したのですか?」


 冷たい、いや極寒のブリザードの中裸で踊っているような冷たさを全身に感じたアラエルはできる限りの釈明をするが……


「え、冤罪だ! 俺は何もしてない、信じてくれ!」

「信じてくれと喚く人の証言を信用する女がいると思いますか?」


 うん。そうだろう。こう言う時、女の勘はよく当たる。

 アラエルがニナージャに何をしたのか、

 あと3ヶ月もすればニナージャは対する全ての悪行が明るみに出ると思われる。

 その時アラエルは責任を取れるのだろうか? 

 第3王子または姫が産まれる可能性がある。

 アラエルはその事を知りながらニナージャに手を出したのである。

 もしかしたら、もうすでに金を積んでニナージャを飛ばした可能性すらほんの僅かであるがあるかもしれない。


 が、シシリーの目が笑い、それにつられたように口元に笑みを浮かべた。


「まぁ、後半は嘘ですけど」

「な、何だよ、驚かせるなよ……心臓が………えっ? ニナージャが泣いて来た?」


 心臓がビクリと跳ね上がる。


「はい。目元を腫らして私のところへ駆け込んできました」

「俺は何もしてない」


 そう。アラエルは何もしてない。て決して手は出していない。

 アラエルは記憶を探る。


「ニナージャはそうとは思っていなかったようですが?」

「………」


 アラエルには一切心当たりがない。

 今朝、ニナージャに会ったがニナージャがシシリーに泣きつくような悪行はしていない。

 昨夜も1人で……寝室で寝ていた。………………つ!


「まぁ全て嘘ですよ」

「え?」


「ニナージャが私のところに来たのは事実です。1日に一回貴方の不審な行動を報告してもらってますので。それ以外は私の作り話です。試すような真似してごめんなさい」


 シシリーはコツンと自分のこめかみを突いた。

 てへぺろと擬音が聞こえたような気がしたがこれまでの緊張状態から解放され精神が不安定なアラエルは顔の左半分に怒りマーク浮かび上がり、今にも額を離れて飛び上がりそうだ。右半分にもギロッという効果音が聞こえる笑みを浮かべている。つまるところ、どう反応していいのかわからないようだ。


「シシリー、やめてくれ、俺ももう歳だ一回何かあったら死ぬかもしれん」

「あらそれもいいのでは。私がオズワルド領を支配できますものね」


 シシリーの心の闇が覗く。

 もししシシリーがオズワルド領を支配したら……想像は容易い。


「シシリー、シシリー、シシリー、お前はここを乗っ取る気か?」

「そう聞こえませんでした?」


 アラエルは何も悪いことは言ってません〜と開き直っているシシリーの態度に溜息が止まらなくなり、ついには何もない白い天井を見上げる。


「首、折れますよ」

「誰のせいだと思ってる」

「うーん? ニナージャですか?」


 あっけらかんと言い放つシシリーの目には世界征服の野望が浮かぶ?


「お前だよ! シシリー。お前のせいだよ」

「もとはと言えば旦那様がシシリーの初めてを奪い取ろうとしたのが原因では? 貴方にはもう、わ・た・し がついてるのに他の女に詰め寄って 種、ばら撒いたのが元凶では?」


 若い頃にはそう言った心当たりがないわけではないが、シシリーと結婚した後は誓ってそんなことはない。

 ただでさえ、子供たちは可愛いしシシリーのツンデレも心を打つし、計算され尽くした仕草には恐怖を感じることはあるが、このアラエル、一回愛した女性は絶対に悲しませない。


 それがアラエル・オズワルド と言う男である。

 だが時にその男らしさは仇となる。


「露骨に記憶を変えるな。そんなことはしてない。……なあ? それつっこんでいいところか?」


「どっちにですか?胸ですか?舌ですか?それとも……」


 ーーーそれとも、わたし?


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