その裏では
その後パーティ会場に戻った俺は父上に叱られ、脂身貴族共が吐く悪臭を吸わされながら顔合わせをさせられた。
脂身貴族共から青二歳やら小童などなどひどい言い回しで殺して解決しないほどの侮辱を受けた。
『この、悪臭が』
何回もあいつらの汚い口を2度と開かないようにしたいと思った。
脂身貴族の伴侶達からも気持ち悪い視線と値踏みするような視線、舐め回すような寒気がするような視線をずっと感じていた。
「どうした、アラエル顔色が悪いぞ」
「父上すみません、空気に酔ったようです」
父上がこんなこと言ってくるのこと自体珍しい。
「そうか、軟弱者が……」
父う……いやあいつはそう言って、俺を払いのけるようにして無駄に豪華に飾りつけられた壇上へ向かった。
「皆様すみません! 本日の主役アラエルはこの盛大なパーティに酔ってしまわれたようで、ここで退出する運びとなりました。再度成人を迎えたアラエルに大きな拍手を!」
あいつがそう汚い口で叫ぶと貴族どもの閑散とした拍手がちらほら聞こえてきた。
その全てが本心からの拍手ではないことは明白である。
普通、貴族であれば嫌でも拍手すると思うが。
あいつはそれだけ言うと壇上から降り、一目散に俺のところにその太った腹を揺らしながら歩いてくる。
「無礼のないように帰れ」
「感謝します」
下げたくもない頭を下げ、言いたくもない感謝を述べ、やりたくもない周りへの感謝を忘れず俺はこの場を去ろうとしたがテ…
『ふん、逃げたな』
『そのようですな、ジャイ殿』
『しかしまだ小童。仕方ないのでは』
『小童だろうと変わらん、半日も持たない貴族などすぐに貪り食ってやる』
影口がちらほら耳に入った。
明るく、暖かい……暗く、冷たい絨毯を歩いていると先ほど見たばかりの光景が目に入る。
俺は知らぬ間にパーティの受付まで戻ってきたようだ。そこにはまだ仕事中だが休憩しているセバスが立っていた。
セバスは俺の足音が聞こえたのか顔をこちらに向けた。
「アラエル様どうしてこちらへ?」
「セバス……少し休みたい」
近寄ってきたセバスにそう一言告げると、セバスは何も言わずに、だだ一言だけつぶやいた。
「ではお部屋に向かいましょう」
特に理由を聞くことなくセバスは俺の脇を速度を合わせ、歩いてくる。こう言う時はこのセバスの対応がものすごくありがたい、何か言葉をかけられたら今の俺じゃ耐えきれないと思う。
音が響くことがない、カーペットの床を歩いていてもセバスがずっと横を歩いてきてくれてる事がよくわかる。
こんな暗い廊下初めて見た。こんな寒い廊下は初めてだ。でも何故か暖かい。
「セバスは何にも聞かないの?」
「何をですか? 私は中で何が起きたのか知りません。なので聞くこともありません。」
セバスはそれだけを言うと、俺に向けた視線を上げ前を向いた。
「…………」
「ではここからは私の独り言だと思って全て聞き流してください。
貴族というのは全てとは言いませんが。皆腐っています。
しかし腐ってなく領民から愛されている貴族領主も沢山います。西のワイズマン領の領主メイズ殿や海沿いの閑静な街の領主グレイなどは私の前古い友人であいつはよく街中に出歩いて屋台で買い食いしていると噂になってます。
北のブラウン領ですと貴族家といようと子供達を学院に入れ同世代の友達とよく遊んでいるとあのくそ野郎いつもいつも我が娘は可愛いと会うたびに自慢してきてうるさいですね
とまぁ、このように子供の自主性を重んじている方も沢山います。まだ少数派なのは間違いありませんが。しかし世界のどこかにはアラエル様と同じような志を持ってるい者はたくさんいます。アラエル様はまだ世界を知らない。だからこの腐った世界が世界だと思い込む。もっと世界を見てみましょうアラエル様。世界は広いです、その分腐った奴らも多くなることでしょうしかし、アラエル様が信用できる信頼される、人は必ず居ます。」
「なんでセバスは色んなこと知ってんの?」
そう問いかけるとセバスはバツが悪そうに顔を背けた無音が続いた。がセバスは言いにくそうに口を開いた。
「……………私は若い頃から仕事など放り出して一人旅をしていたので意外と交友関係は広いんです。」
何か、隠しているような気はするが、何故か俺はセバスの答えに納得ができた。
無駄に長い廊下、無駄に高そうな壺、無駄に明るい魔光石
無駄に毛足の長い絨毯その全てが無駄と思えるほどに高価なものである。
この全てが領民から巻き上げた税金で賄わらていると想像しただけで吐き気がする。
つい先日も、新たに個人識別表などと言う、領民管理のために1人一枚番号入りのカードが渡され、オズワルド領を出入りする場合はそれを提出しないと領民は領外に出ることも入ることも不可能になった。
識別表には魔法刻印で領民には一切の説明はないが税金搾取用に全ての個人情報が入っていると噂になっている。実際、城にある税金管理用の機械でその全てがわかるとセバスが言っていた。
あいつは識別表を使い領民からさらに税金を巻き上げようと画策している。
南のナダム王国が攻め込んでくると言う噂を自ら流し、防衛費名目で税金を上げ始めている。
ナダム王国とオズワルド領があるグラフィット王国はこの500年友好関係を築きつい先日も我が国の王様グルースターがナダム王国へ遊びに行ったと言うのに、わざとあいつは触れなかった。
「あっ!シシリー」
「嫌です。休憩時間です」
セバスの声につられて顔を上げると、薄い金色のロングヘアのメイド服姿の女性がふらりと歩いてきた。
シシリーと呼ばれた女性にセバスが声をかけたが逃げられそうになっていた。
「何も言ってない」
「きゃ! 触られた!」
シシリーは一切触られてないが、身体を守ろうとしゃがみ込む。
「うわー」
「アラエル様まで!? はぁ、シシリー、アラエル様の部屋に紅茶とお菓子適当に持ってきてくれ」
立ち上がったシシリーはにっこりと笑うとその笑顔と裏腹に酷い発言をした。
「ゴムも入ります?」
「それはいらない。」
「なーんだつまんないの若い子捕まえて、うふふ、言葉が過ぎましたね」
「持ってきてくれ」
「かしこまりました執事長」
「そんな役職ない」
「え? 初耳です」
「メイド長はあるが執事長などない」
きっばりと言い放つ。
「それでなんでアラエル様がこちらに? 今頃豚共と共食いでもしている頃では?」
「豚とはなんであれでも貴族だシシリー。口を慎め、あんなハイエナ私も嫌いだがな、だか誰かに聞かれたらどうすんだ?」
「誰か? そんな屑いたらアラエル様がどうにかしてくれますよね」
シシリーはメイド服から溢れるほどの胸を両腕で抱え、守ろうとする。
「あははっあはははっ! ありがとう。みんなのことは俺が守る!」
俺がそう口を滑らせた瞬間シシリーの顔がポンッと擬音が出るほどに赤く染まった。
「っ! 落ちちゃった」
顔を真っ赤に染めたシシリーとは対照的にセバスは苦っ苦しい視線を向けた。高齢者には若い感情はきつかったようだ。
「ハァ、またストレスが増える。何かあればアラエル様を頼りましょう。シシリーさっきの件は取り消しだメイド部隊と暇な奴は全員集めて、我々パーティでも開こう、」
「その主賓は?」
「もちろんアラエル様の成人祝いだ。」
やれやれと言った表情でシシリーに指示を出したゼバスは全てを忘れきったように次の仕事に視線を向けた。
「アラエル様、我々のパーティに参加してくれますか?」
「俺が嫌だなんて言うと、思うか?」
「「いいえ」」
そう言ってくれるとわかり切っていた、ゼバスはにっこりと笑いこの場をシシリーに任せてアラエルを連れ歩き出す。
「シシリーあとは頼む、会場は中庭にでもしよう、私はアラエル様と先に向かってる」
「プレゼントは?」
自分で出した質問だかこの瞬間シシリーは悪い想像を浮かべた。
「あっ! 一点もの石を贈るとしましょう」
「そこら辺の石ではないかシシリー、なんでも一点ものとつければ良いと言うわけではないぞ」
ゼバスが20の男にそこら辺の石は流石に可哀想だろうと言ったニュアンスで叱るがシシリーはそんなこと気にも留めずに反論した。
「一点ものには変わりありません、これと同じものは二度と見つかることはないでしょう」
「だろうな。」
思わず口に出ているが本人、言葉として発しているとは思ってない。
「アラエル様申し訳ありません。メイドがこんなクズで、至急取り替えます」
「クズとは失礼な、それに取り替える? 私は一点ものですよ」
「申し訳ありません」
「大丈夫」
「本当に申し訳ありません」
「執事も変えたら?」
何気ない、シシリーの一言がセバスの心に突き刺さった。