成人パーティ
この話は約20年ほど前の過去の話です
『この度は、我が息子アラエルの成人祝いのパーティに参加いただきまして、誠に感謝の念が絶えません。まぁ、邪魔者はこのぐらいで、今日は息子のためのパーティですのでな、』
父 グランド・オズワルドが贔屓にしている貴族に向けて俺の成人パーティを開いていた。俺的にはこんな腐った目して金と権力を第一に愛してる、こんな腐った目をした奴らなんか嫌いだ。
いつか……いや、今日だな、俺もその腐った目の奴ら仲間入りってわけた。
どんなにこんな奴らと弛むのが嫌だろうと今日を過ぎれば成人として認められるそうなれば今までよりもさらにこいつらの悪の所業を見る羽目になる。今まででさえ貴族の権力立場を利用した犯罪をこの目で見てきた。幼馴染のエリーも奪わられた。彼女は見たのはもう7年前の事だ。突然サラバード家の二男と結婚が決まったとエリーの口から語られた。
まだ13歳なのに、すべて悟って、諦めた目で、俺の隣からいなくなった。
今日まで、あのクソどもの悪行を我慢したのはこの日のためだ。今日を過ぎれば俺も貴族として独り立ちすることになる。まぁ、俺の結婚が決まるまでは実家住まいだが……だがこれで俺は自由に動ける。
今までは家族の息子という1段階下だったが、明日からは貴族、あいつらと同じく悪の権力を使える。
父さんには悪いが勝手にエリーの実家にも書状を送っておいた。ちゃんと届いてるならエリーも来ていると思う。
「ゼバス、今少し時間あるか?」
「アラエル様? どうしてこちらへ?」
受付で貴族たちの応対をしているゼバスの手が開いたのを見計らって話しかけると、ここにあるはずがない俺を見て目を見開く。今の一言だけで俺が何をしに来たのかわかったのかもしれない。
「少し気になってね」
「なんでしょうか?」
たとえその理由がわかってようと自分の方からは言えない。ゼバスにしかわからない矜持みたいなものかもしれないが俺にはわからない。なんでこうもみんな生きにくいやり方を貫くんだろう……
「サラバード家って来てる?」
「サラバード家ですか? 招待状リストには載っていたので送りましたが……少し待ってください」
俺の質問にゼバスは『やはりですか』という表情を見せ、それを隠すようにテーブル上に置いてある、招待状リストを指でなぞりながらサラバードの名前を探す。
「まだいらしゃってませんな。サラバード家……欠席の連絡がありましたな」
「欠席?」
「はい、そうです。奥様が妊娠してそろそろ出産予定日と言っておられました。力になれなくて申し訳ありません」
ゼバスはこのことを隠しておくつもりだったのかもしれないが俺が咎めるような視線を送ると渋々その重い口を開き、教えてくれた。
「エリーが妊娠?」
「アラエル様……私も過去は知っています。小さき頃に結婚の約束をしたと、しかし貴族に生まれた以上避けては通らない道です。幼き頃の結婚の約束など簡単に無かったことにできます。望んだ相手だろうと望まぬ相手だろうと、旦那様が決めたのであれば、子供はそれに従う他ありません。それが貴族に生まれたものの行末であり、貴族が負わなければならない決まりです。」
「ゼバスはそれでいいと思うの?」
ゼバスが答えてくれるはずもない。わかってる、わかってるでも……ゼバス以外に誰に聞けば良いんだよ……
「……私個人の意見としては反対です。」
俺の勝手な思い込みに反してゼバス言い切った。
答えてくれるはずがないと思っていた俺は落としていた視線を上げる。ゼバスは俺が視線を上げたのを見て続きを話しだす。
「好きな人と結婚する。庶民……いえ、国民、私はそもそも貴族という名称が嫌いなんですよね、初代は貴族の名前に相応しい人でも、二代三代重ねていくと遺伝子の劣化を起こす。まぁそんな話は置いといて、アラエル様が出来ることは、エリー様の妊娠を祝うことだけです。」
だが答えは残酷である。
ゼバスなら慰めてくれるだろうと心のどこかでそんな甘い認識があった。ゼバスなら俺の心もわかってくれる……いや、わかってるから俺に対してこんなきつい言い方をしたんだ。ここでゼバスが甘い言葉をかけてくれても俺はそれを真っ当に受け取らない。ゼバスはわかっているだから厳しい言葉を俺に投げかけてる。
「ゼバス……」
「あぁ、勘違いしないでください。全員がそのような屑だとは思いません。アラエル様は良い人です、人の痛みがわかるお方です。しかし残念ながら貴族連中には基本的なことすらわかんない勘違い野郎は大勢います。アラエル様今日はなんの式典でしたっけ?」
ゼバスは俺の両肩を触り面と向かって問いかけてきた。
俺にはゼバスの本心までは読み通はないが、その言葉に偽りがないことだけはわかる。
「俺の成人祝い」
俺がぽつりと溢れるように答えるとゼバスはその通りといった感じにニコッと笑った。
「その通りです。今日を持ってアラエル様も貴族の仲間入りです。ならその権力、アラエル様のために使いましょう。エリー様が今どのような様子なのか私は知りません。がしかしこの次の世代のために貴族という悪魔を変えてみるのはいかがでしょうか?」
次の世代? 俺にはゼバスの言っていることが全くわからない。
ゼバスは嘘なんか言ってない。でも、どうすれば……いい?
「次の世代?」
「ええ、アラエル様もいつか結婚し子供を持つでしょう。その子に望まぬ相手と結婚させますか?」
「させない!」
全力で受付のテーブルをこの手のひらで殴った。
「俺はそんなこと絶対にさせないッ!」
机は壊れはしなかったが招待状リストの脇に置かれた羽ペンが倒れた。しかしゼバスはそんな事気にも留めずに語気を強める。
「その通りです! 今は変えられないのかもしれません、しかし次の世代、アラエル様の選択がこの世界を変える可能性を秘めてます。」
「次……の世代?」
「何故貴族が悪き習慣に飲まれたのかご存知ですか?」
俺がそんなこと知るはずもないとわかっているのにゼバスは問いかける。
「今までは普通の人だった。それが貴族になると周囲の人々かオズワルド様と呼ばれることになる、今まではオズワルドやアラエルや坊ちゃん、うん、これは違いますねまぁ、とこのように呼び捨てだったのが急に様や殿と呼ばれ浮かれるのです。そのせいで勘違いをするのです。自分が偉くなった自分が強くなった。ただ貴族だから金を吸い尽くそうと近寄ってきているだけなのに、人が物が金が全てが自分に吸い寄せられていると勘違いをするのです。その全ては吸い寄せられてるのではなく、ただ単に通過して裏で利益を貪る者たちは吸い寄せられているだけです。
私が何を言いたいのかわかりますか?……」
俺がわからないと首を振るとゼバスは目の色をかけることなく俺が思ってもないどんだ馬鹿な理由を話し出す。
「私にだってわかりません。ただ単に私の経験談です。私が今日この日まで自分の目で見てきたことを言ったまでです。これをどう解釈するのか、アラエル様のご自由に、」
「あまり、お戻りが遅いようですと旦那様が怒りますよ」
「そうだな、ゼバス。ありがとう」
「いえ、少しでもお力になれらば、と思ったまだのことです。アラエル様。絶対に勘違いしてはいけません。周りが、私を含め全ての人がアラエル様とお呼びになるでしょう、しかしそのほとんどの人が嫌々、こんな邪魔者いなくなれば良い、金儲けができる思って近寄ってくるハイエナです、目を眼を養ってください。悪魔を見抜ける眼を」
「わかったゼバス」
とぼどぼと歩いていくアラエルをゼバスは寂しそうに見送った。
『アラエル様……そう簡単には現状を変えることは出来ないでしょう。しかしいつか、必ず光の当たり方は変わります。上から降り注ぐものは足元から迫り上がってくるかもしれません。たとえ変えようと努力しても無意味に終わるかもしれません。しかし一歩、その小さき一歩は今ではなく未来を変える動力源と必ず、なるでしょう……かく言う私もこの世界の歯車として次の時代を見ることなく旅立つでしょう』
グランド・オズワルドの父 ゼバス改めてグリエルは見えなくなるほど先を歩くアラエルに向け聞こえてないとわかりながらも言葉を送った。
『私は過去の政局で領主を譲った身。私が出来ることはこの程度の事しか無いのかもしれぬ。……しれぬ、か私も妙に執事業務に慣れてしまったようだ。威厳も何も私には不要だ、私の今の仕事は次世代にこの街をつなぐこと、あの愚息の思い通りにはさせぬ』