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悪徳領主になるまでの物語  作者: 雄太
悪徳領主、街へ入る。
13/29

やっておしまい!

 

 アラエルの手にはそこの屋台で買わせた、胡椒を振りかけただけのただの焼き串が握られていた。その全てがセバスに買わせた物である。


 アラエルはその串焼きに視線を感じた。


「一本食うか?」


 口に串を入れたまま、手に持っていた残りの串をセバスに差し出した。セバスは転んで喉に突き刺せばいいのにと思ったが口にはしなかった。


「私の金ですけど」


 そう、何度も言うが、これはセバスの財布から出たお金で買った物である。決してアラエルが金を出したわけではない。

 それをいかにも自分の金で買った雰囲気を醸し出し、親切心を薄ら見せて、一本食うかなど言ってはいけない。


「けーひだろ」

「領民の税金ですが」


 アラエルは領民の税金をまるで自分が稼いだ金だと言うように言い放った。これには流石のセバスの頭が痛いのか、はぁ、と深くため息をつき、額を抑えた。

 汗水垂らして働いた領民の貴重な税金がこのように使われていいのか? 答えは否である。


「だからそれを経費って読むんだよ、税金って書いて経費、わかる? この意味」


 わからない。セバスの顔面に普段は見えない文字が浮き上がる。

 経費って書いて税金と読む、領主としてあるまじき発言をしたアラエルをセバスは優しく諭す。


「わからないって言いたそうな顔だな……」

「いいえ、税金は税金です。ふりがなを振ろうと税金です。経費というのはたとえばアラエル様を拘束するため縄を買ったら経費として落とせますが、アラエル様の食事は経費ではありません。自腹です」

「俺を縛れる縄なんてねぇ、その縄は買えるんだな、その方が驚きだ。結局言葉遊びってやつだろ。だってさ、その金、税金だろ、なら経費じゃん、そもそもの話さ、領民から巻き上げた税金を領民の店で使ってるんだから循環だろ、金の循環。だから俺は永遠か金が使えるってわけ、どうだ名案だろセバス」


 言っていることはあながち間違いではないのだが言っている人間が間違っている。これがアラエルの発言でなければ拍手でもしていたのだが、これを言ったのは誰かというと……アラエルである。絶対何か隠している。


「巻き上げてはいません」

「払わない選択肢ないんだから巻き上げるって事と変わりねぇ」


 事実上それ以外の選択肢がなければ同じだと主張するアラエル。やはり言っていることは間違ってないが言っている人間が間違っている。


「では。税金を払わない領民には出ていってもらいますか?」


 立ち止まったセバスは優しくアラエルに問いかける。


「……そりゃそうだろうな。払わないってことは俺たちが命かけて守る理由もない」

「なので領民は税金を払います」

「だから、それを巻き上げるって言うんだ。払う以外の選択肢がねぇんだからよ」


 黙ってしまったセバスにアラエルはなんと問いかけようと考え、セバスの肩に手を当てた。


「…………」

「別にセバスが悪いって話じゃない、領民を守る為には金がいるって言うのも事実だし、兵士を揃える、宿舎を建て、城壁を作る。そこには詰所も設置しないといけない。維持費はどうしてもかかる。」


 この国で言うならば、兵士を1人採用するならばだか。

 最低限の賃金として約500万ルピア払うことが法律で決められている。(補足 この国の平均年収が300万ルピアである。)

 ついでに怪我の際の見舞金やら(訓練中は除く)

 死亡した際に遺族に支払われる手当(訓練中は除く)

 なるべく払いたくないがどうーしても払わないといけない時がある。(実戦中は除く)なお遺族がいない場合も除く。


 雇った兵士たちに支給する防具や武器のメンテナンス費、宿舎での食費、訓練用の広大な土地、ただ単に兵士1人雇うだけでも色々と維持費がのしかかってくるわけである。概算であるが兵士1人雇うのにその倍の800万ルピアかかると言われている。


 金がかかるからと言って、ケチっていい話ではない。


 アラエルとしては人員を育てるためにかかる金はいくらでも出すと言うこの世界では稀な思想の持ち主である。


 アラエル曰く『衣食住揃え、雇用を保障すれば、自ずと兵士たちは強くなる』との事。


 だか一つ間違えてはいけないのは、上記を守れたからといって、長時間の訓練、無駄な上下関係、無駄な会議をしていい理由にはならない。


 長時間の訓練をして翌日も疲れが残っている中訓練をしても集中力の低下を招き、自殺者を増やすだけである。


 無駄な上下関係などもってのほかである。

 ただ単に頭ごなしに喚き散らしても部下たちはついてこない。そうなればまた退職者が増えるのは目に見えている。

 災厄の場合背後から撃たれる事もある。

 一昔前は実際に死者が出た事もあった。


 無駄な会議をし過ぎると本当に必要なことまでスルーしてしまう可能性がある。そうなれば会議で各部隊の意思疎通自体が図れなくなり、兵士たちに混乱を招く恐れがある。


 だからこそアラエルはいつもはちゃらんぽらんな態度でいるがこう言う時だけはシャキッとしている。


「結局経費では落とせません」


 アラエルは良い話〜でセバスの論点を変えようと画策したが最初から疑われているためかアラエルの思惑は看破された。


「けーーひ」

「やばい薬ですか?」

「うんそう。お前も使うか? 一回この快感に手、染めたら2度と離せねぇぞ、やってみるか? 甘〜い蜜の味がさらに甘くなるぞー、あははあはははあははは!」

「結構です」


 アラエルの悪魔の囁きをキッパリ断ったセバスであった。



「はぁ、残念まぁいいや、さぁ! 城下視察の続きでもしようや、セバス。」


 アラエルはそう言った瞬間走り出した。咄嗟に手を伸ばしたセバスだがその手は僅かに届かなかった。


「………またですか」


 続く足音が聞こえなかった。アラエルは半回転ジャンプして、転んだ。「イテテ」盛大に転んだアラエルは汚れたケツを叩たきながら起き上がった。


「置いてくぞー!」

「どの口が言うのやら……」


 やれやれと首を振ったセバスは先を歩くアラエルを追いかけて行った。




「悪徳領主が転んでる!」


 2歩3歩進むと背後から子供の笑い声が聞こえるアラエルたちは無意識に振り返った。そこにはガキが2人頭の後ろで手を組み立っていた。


「誰だ?」

「悪徳領主」


 少年Aが突然、意味のわからない言葉を口走る。アラエル首をかしげる「誰こいつ」と呟いた。


「だからお前たち誰だ?」

「悪徳領主!」


 今度は少年Bが同じような事を言った。悪徳領主?身に覚えがねぇな、誰かと間違えてるんじゃねぇか?


「だからお前たち誰なんだ? 会った記憶がねぇ」

「悪徳領主」


 少年Aが再度悪徳領主と言う謎の言葉を口にしたがやはりアラエルには心当たりがない。

 そもそもこんなガキ記憶にない。


「なぁ、正解教えてくれよ、俺たち今忙しいんだよ。かん……じゃなくてな、城下視察で来てるんだよ、なぁセバス」

「……名目上はそうなっております」


 助け舟を求められたセバスは不自然な間が空いたのち、高低のない声で淡々と答えた。


『『税金泥棒!』』

 少年A Bが声を合わせるようにアラエルを罵倒するがこの程度の罵倒アラエル中では罵倒にすら入らない。蚊に刺されたぐらいの痛みはあるかもしれないが。


「おいそれ違うぞ」

「やーい! 悔しかった追っかけてこい! 悪徳領主!」


 ガキども2人はアラエルにケツを向け、自分で自分のケツを叩きわざと追いつけるようにゆっくり走って行った。

 アラエルは走り去って行ったガキどもの方に手を伸ばし、セバスに意味深な視線を送る。


「やっておしまい! セバス」

「………」

「やっておしまい! セバスッ!」


 再度、馬鹿な指示をしたアラエルだが、セバスの反応はない。それどころか先ほどまで背後にいたはずのセバスの気配を感じず、振り返るとそこにセバスの影はなかった。

 左右を見ながらセバス探す


「おーい、セバス?」


 セバスは先ほどアラエルに全部食われた焼き串を買い食いしていた。


「セバス、どこ行くんだ、やっておしまい」

「私の仕事でありません」


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