悪徳領主になるまでの物語
アラエル・オズワルドは悪徳領主と呼ばれている。
今日はオズワルド領内で一定の権利を与えられる貴族となってすでに先代から数え80年近いゲイル・ガストンを適当な理由で呼びつけ詰問していた。
対面する形で座った2人。その間には木製のテーブルが間を取り持つ。
ここはアラエルの私室兼執務室である。広さで言えば20畳ほどある広めの部屋の中には適度な価格の調度品やアラエルがよく使う仕事道具などが数多く置かれているが雑に置かれている様子はなくきちんと整理されている。
「なぁ、ゲイル。お前、裏じゃ誘拐にも手ぇ染めてるってな風の噂で聞いた」
ゲイルはここに自治領の資産状況の報告に来たと思い込んでいたが今、その全てが嘘でゲイルがここに呼ばれた理由は自分が明かした犯行が明るみに晒されたことを意味した。だがまだいくらでも言い逃れ出来ると甘い考えを持っているゲイルは知らないふりをした。
「な、なんのことだ? オズワルド。俺が誘拐? はぁ? 少し意味がわからんな」
「この期に及んでしらを切る気か、別に証拠はない。ただ聞いた話しただけだ」
証拠がないとアラエルが言ったおかげでまだバレていないと思ったゲイルは脂汗を吐き、落ち着くようにふーと臭い息を吐いて、馴れ馴れしくアラエルの肩を叩いた。
「な、なんだよ驚かすなよオズワルド、心臓に悪いぞ。私も結構な歳だ一回ドンっと行ったら死ぬかもしれん」
ゲイルは少しばかり安堵のため息をつき視線を上げた。
しかしまだ安堵するには早い。
上げた視線でアラエルを見るとため息をついていた。
「……証拠はない。証拠はないのだかな……俺、見たんだよね」
「…………っ」
ゴクリと喉が鳴るのがわかった。
『いったいどこを見られた!? あれか、いやあそこには誰もいなかった。なら大丈夫だ。堂々としろ、証拠なんてないんだ黙ってれば言い』
ゲイルは自分にそう言い聞かせ、心を落ち着かせゆっくりと視線をアラエルの目に向ける。腐った目だがその目は未だ重油のような煌めきが宿っている。
「さぁ? どこだったかな、真っ暗でよく見えなかったからよく思い出せんな、確か西地区だったような。『ガイズ』の連中と太った、そう! ゲイル、今お前が着ているような服を着ていたな、子供かな? 小柄な子供か? 子供かどうかはわからなかったが確か5人ぐらい。ほとんどが女の子で、裏世界で言えば上玉って奴だな。あぁ、勘違いしないでくれ、証拠がないのだよ、だから捕まえることはできんな、たとえ目の前に居ようともな。ゲイル」
アラエルは誘拐事件の犯人を見たと犯人を前にして言い切った。ここでゲイルの心に一つの疑問が上がる。
『見たならなんで捕まえない。』
アラエルがわざとそんな言い方をしているのは間違いないだか理由がわからない。
「お、俺はしらねぇぞ!」
「それで結構。別に知ってる知ってないの話じゃない。まぁなそこにいたガイズな奴は全員捕まえて子供達は全員保護して家族と共に我が城で休んでもらってる。」
『なっ! あいつらが捕まった!? まずいまずいまずいッ。あのヤクザ共が捕まってる? 早く始末するべきだった』
「でさ、別にさっきから言ってるが証拠もない、目撃者もいない、子供達に話を聞いたら背後から目を布で覆われて手足縛られて馬車に積み込まれたって言ってるしな、まぁ変な暴行は受けてないって言ってるし、証拠はないんだ。でもさ、さっきから言ってるけど俺見たんだよ、どうするゲイル、取り潰しか、俺の犬になって働くか、選択の余地はあげよう、これでも自分で選んでくれた方が納得する者も多いだろうな」
アラエルは1、2、3、と指で秒数を数えた、ゲイルに何秒その残されているのかわからないが限りなくゼロに近いと言うことだけはゲイルにもわかることだろう。その証拠に首筋には脂汗がギトギト鈍色を光らせて流れ出している。顔面が紅潮し歯軋りの音がカタカタ絶え間なく聞こえ始め、目がバキッっと開かれた。
「……ッ!アラエルッ」
掴みかかろうとしたゲイルの肩を左手で押し除け、その左腕をぷらぷらと揺らした。
「おっと、逆恨みはやめてくれよ。今ここで俺が『取り潰しだ』って一言言えばお前の家族皆、打首かもな、事情を知らない奥さんにまぁ小さい子供達、なんで自分が縛られてるのかわからないうちに恐怖さえ感じることなく………スパッと、いく運命かもしれん、全てはお前の行動ひとつで決まる」
アラエルは自分の首筋に指を2本、ぱんっと音を立てるように置いた。
「スパッと、バイバイする事になるさ。ついでに言うとお前の両親達もタダじゃすまないだろうな命までは取らないと思うが……かなりの罰はあるだろうな、それに親戚筋も多少痛みを伴うことになるかもしれない。どうする。お前1人の選択が全てを決める。逃げられたら困るからな今ここで決めてくれ、俺に一生の忠誠を誓うか家族を道連れにして地獄に向かうか。長年貴族やってきたお前だ。簡単に結論出るだろ」
ゲイルの脳内に走馬灯がチラつく。
まだ若い頃にもらった美しい奥さん
結婚して5年ほどして待ちに待った長男ガイヤ
その2年後に生まれた長女シュリシー
視界が真っ暗に変わり明転すると石造りの道に目ない光が消えた3人の生首が転がり
『あッッ!ガイヤ……シュリシー、ミサァア!……』
見たこともない男が家族の首を落とす。
助けたくても助けれない。首と手を固定され両足の膝下を切り落とされ動けない。
3人を殺した男は『次はお前の番だ』とギリギリ聞こえるやうに呟く。
「さぁ、どうする?」
グランドが耳元で何かを囁いたが今のゲイルの耳にはまったく届かない。
『やッ! やめてくれ! 金! 金なら好きなだけくれてやる! だから……い、いねちだけば』
ゲイルはその顔を鼻水と涙でベタベタに汚し嘆願するがその男にそんな決定権があるわけもない。
『すべては雇い主が決めることだ。俺にその決定権はない』
『あァァアッーーー! や ッ』
やめてくれ。最後にそう一言叫ぶ前にゲイルの首は落とされたが、残された胴体側の声帯から『……けてくれ』と聞こえ首のなくなった胴体は勝手に動き始める、太りまくった汚い手がすでにそこにはない首を探して前に動く、脚がつられて前に動こうともがく。
胴体の切り口。切れた血管から血が溢れ出し喉へ流れ込み、咽せるように喉から血が噴き出るがすぐにその勢いは弱くなり次第に血が溢れなくな先ほどで動き回っていた手脚も力を失くしだらんっと床にへばり付く。
「…………ッ! ちゅ、忠誠を誓います」
「あれれ? 俺、別にお前が犯人って言ったつもりはないけどね」
立ち上がったアラエルはゲイルの肩をトントンと適度な強さで叩き、その場を後にした。アラエルの職務室からはゲイルの叫び声と泣き叫び、何かが壊れたような鈍い音甲高い音、がその日1日漏れ聞こえてきた。
「やりすぎでは旦那様」
部屋を出たアラエルは盗み聞きしていたニナージャと出くわす。
「別に事実だろ。無駄に血が流れるのは好きじゃない。血が流れないようにするなら多少の痛みは仕方ないだろ。無関係な子供まで処刑するのは俺だってやだ。だが法律じゃ連座制だ。何もしらねぇガキどもが何故死なないとなんねぇ?」
「私に言われても困ります。当事者ではありませんし、身内でもなく無関係です」
ニナージャは無関係を貫く。何かあったら旦那様に脅されたと言えば済むし、肉体関係を強要されたとでも言えばメイドに手を出した悪徳領主としてアラエルはその名前を歴史に刻むことになり、ニナージャは被害者として処罰されることもない。双方共にこのことを分かり切ってこの奇妙な共犯関係を演じている。
「だな。話した相手が間違っていた」
「私であればいつでも話し相手になりますが?」
「上からいくつ?」
「死ね」
ニナージャは雇い主の靴を思っ切り踏みつけるが何故がその口は潰れない。
「う〜辛辣。ほらな話してくれないだろ。それにこんなことに備えて、鉄芯入りのに変えておいて正解だった」
ゲイルが暴れ回るもしくは刃物を取り出した時の為にアラエルは特注の安全靴を履いていたようだ……ニナージャはこのクソやろうと目線だけで語った。
「奥様に話しますよ」
「それはやめてくれ」
「チッ。まぁカードですので」
「降参だ。ゲイルのやつはあのまま放置でいいだろ、俺は食堂にでも向かうとするか。今日の飯は何かな」
「断末魔を聴きながら食べる飯ですか……。私たちが汗水垂らして働いてるのをいいことに旦那様は悠々とお食事ですか……悪徳領主」
食堂に向かうと足伸ばした足を止め、振り返ると今にも何だしそうな悲痛な表情をしたニナージャがいた。
ここで泣かれてはすぐに妻の耳に入り、大惨事になることがわかっているアラエルは厄介ごとに巻き込まれた、とその態度で表す。
「お前までか、ニナージャ、俺は貴族連中には嫌わられてるが領民人気はかなりあるぞ」
「ご自由にどうぞ、貴族だろうと領民だろうと私は知りません。度がすぎるようであれば奥様から制裁があるでしょう。それに奥様からも言われてます、もし旦那様に性的関係を強要されたら潰せと、」
「え? それってつまりもう筒抜けってこと?」
「さぁ? なんの話か?」
「俺まだ子供が欲しい」
「ではそう言う変な口は叩かないように。あぁ、1つ、伝え忘れておりました。奥様からの伝言です『あなたの代わりの種ならいるわ』との事です」
世界線、話の流れ、全く決めてません。一応題名通りまで話は進めますがその中身は一切決めてません。
さて、どう物語が動くか私も知りません