兵舎の雑用係 1
抱えられるだけの荷物と、身分証明書を持って、住み慣れた家を出る。
家の前には隊長さんがいた。
「あ」
「あれ……おはよう。デイヴィッド」
「おはよう。隊長さん」
「今日は、朝から出てこれたね」
「見てたの?」
彼に頭を撫でられると、荷物を取り上げられた。
「あ」
「ステータス・カードはあるね。うん。へぇ……スキルもあるのか」
隊長さんはニコリと笑う。
「うちにおいで、デイヴィッド。孤児院よりもいい生活ができるし、安全だし、いいことづくめだよ」
「うち?」
「兵舎の雑用係でもやってみようか。大丈夫さ。計算と騎乗ができるなら、いろいろ仕事があるよ」
「雑用係……」
「兵士見習いはもーちょっと大きくなってからかなぁ」
隊長さんに軽々と抱き上げられて、視界が高くなる。
「せめて、片手で抱き上げられなくなるまでは雑用だけだよ。三食昼寝付き! 決まりだ!」
「それはちょっと」
「大きくなるのが最優先だ!」
兵士なら、そうかも?
朝市を通り過ぎ、神殿が見えてくる。
「デイヴィッド?」
「侍祭様に、聖騎士様。おはようございます」
「おはようございます。朝ごはんは食べましたか?」
昨日、聖騎士様に渡されたパンはまだ荷物袋に入っている。
「食べられるようなら、食べなさいね」
侍祭様にピーナッツを手渡される。
「そんなんじゃダメだろ」
聖騎士様に口をこじ開けられ、3つ、5つと放り込まれると、口を押えられる。
「詰め込みすぎでは?」
「これぐらいいけるだろ」
「まだ子供なんですよ!」
もごもごと押さえられた口の中でかみ砕き、飲み込む。
「よぅし、いい子だ」
「水も飲みましょうね」
水袋を手渡される。
「ありがとうございます」
口に含んだ水は甘やかで、舌触りがいい。
「実は聖水なんです」
「なんてこと!」
穏やかに見ていた隊長さんが叫ぶ。
「次来た時にでも返してください。約束ですよ、デイヴィッド!」
「それではな!」
二人は颯爽と駆けていった。呆然と見ていると、隊長さんが笑い出す。
「さ、行こうか」
兵舎の事務局で布を渡される。
「ちょっと体を拭いておいで。聖水を使うといい」
「聖水を?」
「とってもすごいんだ」
すごいとは?
「いいから、いいから」
奥まったところで布に聖水を滲ませ、体を拭く。
「おおぉ」
肌の色が変わるほど汚れが落ち、滑らかになる。確かにすごい。
顔と頭も拭う。頭が軽くなる。何だこれ。
「うわぁ。汚れも落ちてる」
まさか布も綺麗になるとは思わなかった。湿らせた布の臭いすらしない。
「……」
歯も磨いておいた。
隊長さんのところに戻ると、ポカリと口を開いて凝視される。
「これはまた、すごいな」
「すごいですね」
「うわぁ……何だこれ」
グルリと周囲を周り、まじまじと見られる。
「掃除を頼むつもりだったが、やめておこう」
業務内容が変わった。
「スキルもあったし、事務仕事でも覚えてもらうか」