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この最期の夜に

作者: 鼎ロア


「やあ、ロアくん」


首に縄をかけた僕にその声は届く。

誰がどう見ても自殺と言える瞬間で穏やかな声を発してくる。


僕は誰だ誰だと思い、縄に手をかけ前を見やすいように引っ張る。

後に見えた姿は黒いモコモコの服を着て白い玉の付いた黒い帽子を被ったおじさんだった。


「お、気づいたかな?」


そいつはその顎に生やした白くて長い髭を伸ばすように触りながら穏やかに話しかけてくる。

「誰だ、お前。なんの用?勝手に人ん家入り込んで」

僕は威嚇の目を向ける。


「ふぉっふぉふぉ、なーに、今日はクリスマスだ。私は君にプレゼントを用意しただけだよ」

「プレゼント?」

そう言われて気がつく。

そいつの着ているもの、被っているものはクリスマスで特有の「サンタ」と一致しているのだ。

だけど、黒という色から少し恐怖を感じてしまう。


「そうか、もうクリスマスになって……しまったのか……」

そうだ。僕はこの日本中が祝うクリスマス前に死のうとした。

23:45辺りから準備をしていたほどだ。

だがこいつが来たということはもう、00:00を回っているのだろう。


チッ、しくじった。

「で、そのプレゼントってやつはなんなんだよ」

僕は少し腹を立て威嚇の目をいっそう強める。


「こらこら、ロアくん、今から出すからそう焦らないんだよ」

僕に言うとそいつは手に持っていた小さな白い袋を漁る。


「と、あったあった。これだよ、私が君にあげるプレゼントは」

袋から取り出された物体を僕に見せつける。

それは、蒼く光る物体だった。


「これは、なんだよ」

「これはねえ……君だけに用意した3つ願いを叶えてくれる道具さ」

願いを、叶える?

どう考えても非現実的だ。

願いなんて、叶うはずがない。


「じゃあ試しにやって見せよう。

目の前の子に私と同じ服を着せて」


そう言うと、まるで魔法のように僕の周りにキラキラとした星が舞う。

それは僕を包み込んで、一瞬にして消えた。

消えたあとに自分の体を見てみると、僕が着ていた服が地面に置かれ、そのモコモコとした黒い服を着ていた。

本当に一瞬の出来事だった。


「君にこれを渡すために私が来たのだよ」

「どうして……僕はこんな服持ってなかった。これが本当だとしてどうしてお前が僕にそれを渡すんだ」


「君の家族に頼まれたからだよ」

「!?」


家族、聞き慣れた言葉だ。

最も僕が好きな、言葉。

「君に渡してくれと、母親、父親に頼まれたんだ。ちょうど20分も前にね」

「そんな、そんなこと、ありえない。僕は、父さんと母さんにそんなことをされるような人間じゃない」


リビングを見る。

赤黒い液体が床を這っているのがよーく見える。

血溜まりだ。

「僕が、二人を殺したのに、絶対憎んでるはずなのに……」


「そうだよ。君はクズだ。自分の家族を殺して自殺をしようなんてことをする、クズ。だけど、君の家族は情に深かったようだね」


そう言いそいつは蒼く光る物を僕によりいっそう近づける。

「私は頼まれて来た身だ。これを渡したら早急に帰るよ」

そのまま蒼い光は僕に近づき、胸をすり抜けるように入る。


「私がさっき証明のために使っちゃったからリミットは残り二回だよ、二回。大事に使いなよ。…………君の家族が残した最期のクリスマスプレゼントなんだから」


僕は半泣きしながらもそいつが消えていくのを見る。

やがて完全に消え去るのを見たあと、本当に夢じゃないことに再度わかる。

胸に手を当て、記憶を掘り返す。


この世界で生きることが辛くなって、死のうとして、でも、一人で死ぬのは怖いから一番大好きな家族と死のうとした。

でも、殺したあとから気づいたんだ。

悲しそうな二人の顔を見たんだ。

取り返しのつきようのないことをしたんだ。

そう、わかっていた。


「もう、わかんないよ。父さん!母さん!僕はどうすればいいの?なんで僕をこの世界に留まらせようとするの!?意味わかんないよ。僕は殺したのに、幸せそうな二人を殺したのに!どうして、なんだよ……」


いつのまにか、あのサンタの存在なんかどうでも良くなっていて、家族という光を壊したことによる後悔が胸を締め付けていた。


このまま死ぬってわけにもいかない。

そんなことをしてしまったら僕はとうとう家族から憎まれるから。

でも、このリミットを使い切らないと僕はきっと生き地獄だ。

長ーい長ーい苦しみが待っているだけ。


そんなとき、鈴の音が聞こえた。

クリスマスになるような派手な音が夜の静けさに紛れ音を鳴らしている。

真夜中の12時だと言うのに誰が鳴らしているんだろうか。

そこで、思い出す。


そういえば、公園でツリーが立ってたよな。


と。

なぜそんなことを思い出したのかは不明だ。

なぜか冬服を着て、外に出る支度をして、お腹に穴を空けた二人を担いで持っていく。

僕はそのまま引き寄せられるかのように公園まで持っていく。



公園まで着き、見渡すと前夜祭であるクリスマスイヴの夜の祭りらしさは今も残っていて周りに家がないからなのかまだすこしだけ明るい。

なのにパッと見た感じでは他に人はいない。


公園の中央を見ると大きなクリスマスツリーが立っている。

装飾によって輝いた光が近づくほど眩しく思えてくる。

そしてツリーの目の前まで来て、父さんの遺体と母さんの遺体を地面につける。


「ごめんなさい」


僕はそう言い、また二人を持ち上げる。

そして近くにあったお店の裏に周り雪と土を2穴分掘る。

左に父さん、右に母さんと分けて埋める。

そして、僕は家族からもらったプレゼントを使う。


「二つの穴を墓にしてください」


そう、つぶやく。

するとまたもキラキラと光る星が舞う。

そしてみるみるうちに僕の目の前には家族二人の墓ができていた。


「おやすみなさい、父さん、母さん」


落ち着いた声で僕はそう言う。

そしてそのお墓とお墓の間に僕は寝転がる。

雪のザクザクとした音が入り込みながらキンキンに冷えたアイスのように冷たい物が耳や背中に当たり痛みが走る。

それはだんだんと和らいで行き、やがて麻痺して行った。


時間を確認する。

今は00:33。

ピッタリの時間だ。

そろそろだな。と思い、最後の願いを言う。


「死にたい」


と。

僕はまたキラキラと光る星を見る。

それはやはり何度見ても綺麗だった。

そして星は僕を包み込む。

一瞬の内に僕の体は動かなくなり感覚がなくなった。


ああ、これが、「死」か。


そう直感的に思った。

だんだんと意識が遠くなる。

まるで眠る前のようで、それでいて少しだけ僕を恐怖させていた。

そして待っているといつのまにかに降り出していた雪が僕の鼻に当たる。


首吊りよりかは断然こっちの方がマシだったね。


僕は薄れ行く意識を最期まで保つ。


そこに、サンタは現れた。

顎に生やした白く長い髭を触っている。


「ふむ、人間とは、やっぱりわからないものだな。だけど、少しは勉強になったな」


薄気味悪い笑顔を少し浮かべ僕を見下ろしている。


「最後に残された願いをせめて美しく死にたいと思う人間を見るのは初めてだ。少し、感動しちゃったよ。

それじゃあ、もう時間だしね。家族三人でやすらかに、おやすみなさい」


そう言い残しサンタはまた消えた。

クリスマスという年に一回の祝いの日に、僕は芸術を残すよ。

僕はギリギリ残っていた最後の力を振り絞り、口を開ける。




「メリークリスマス」




Thank you for reading!


メリークリスマス!

2021年12月24日21時辺りから急遽作りました!

僕はこれが書けたので今年のクリスマスは思い残すことなんてありません(T^T)


なんでこういう話になったんでしょうね(笑)

ちなみに、あのサンタはブラックサンタという設定でした。

ブラックサンタ、人間が悪いことをしていたら現れる、って言う感じですよね。

今回の主人公も親を殺して自分も死ぬなんて言う無責任なことをしましたからね。本当はブラックサンタのあれなんでしょうけどあの世の家族からの贈り物を届けに行ったわけですね。

少し裏設定を付け足すとしたら、「00:33」のとこですね。

なんか本当はサンタに関係させようとして数字で表せないかなーとか考えてたんですけど時間おかしくなるので「サンタ」の「サ」で「33」にしました(笑)はい。

いやー長かったですよ。

結構考えたんですよ?3回くらい読み直して誤字だとか確認しましたもん。

はい、まあ頑張りました!

なんか00:00ピッタリにクリスマスの短編投稿っていいですよね。


てことで、皆さんもクリスマス楽しく過ごしてね!


メリークリスマス!

メリークルシミマス!

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