1-3 願いと魔法と一抹の不安
「僕の恋人を、探して欲しいんだ」
そんなアルさんの言葉の後、一瞬静寂が訪れた。
…思ったよりも深刻そうな悩みなのかなと思い、すぐに言葉をかけれなかった僕は、こう続けた。
「恋人、ですか。探して欲しいというのは…行方不明みたいな感じですか?」
「あぁ…いや、そうじゃなくてね。実は、彼女と二人で暮らしていたんだけど…2日位前に家の用事とかで一度家に帰ったんだよ。あまりこういうことするのは恋人でも良くないんだろうけど、遅いから少し心配でね。道中何かあったのかなと…」
そう言って、アルさんは少し寂しそうに笑っていた。
「なんだ、お前はその恋人の実家とかは知らねえのか?」
「ここから遠いところにあるとは聞いたんだけど…詳しくは聞いてないんだ。こんなことで衛兵などに頼めないから、魔法使いなら探索魔法とかを使えるかもって思ってね」
「探索魔法は確かに使えますけど…」
「ダメでもいいんだよ、実家とかで泊まってるだけかもしれないしね。で、お願いできないかな…?」
「…わかりました。やるだけやってみます」
「そうか!ありがとう!」
「じゃあ、少し待ってください。ネル、やるよ」
「へいへい」
ネルは気だるげに返事をした。
そして僕は、胸の前でネルを__いや、黒杖を構えると、普段隠蔽をしていた魔力を解放して集中する。解放すると、僕の周りに薄く青いオーラのようなものが出る。
魔法を使うところを実際に見るのは初めてだったんだろう。アルさんの息を呑む音が小さく聞こえる。
そして、僕は魔法を行使した。
「サーチ」
サーチは近くにあるものなどに残る痕跡や魔力痕を元に、それに合う人物を探せる魔法だ。探索できる範囲に制限があり、僕の場合は僕を中心におよそ50kmくらいまでの範囲を探せる。
普段は無詠唱の僕だけど、今回はわかりやすいように声に出す。それと同時に、僕の頭の中に、この家に残る痕跡や魔力痕に合う人物のの居場所が流れ込んでくる。
ただその中に、アルさんの恋人らしきの反応はない。…というより、この家にその痕跡が見当たらない。
(この家に残る痕跡が薄かったのかな、これ以上はわからない…)
そう思った僕は魔法を使うのをやめる。段々と魔力を落ち着け、再び魔力隠蔽の状態にする。
「すいません、見つかりませんでした。この家に残る痕跡などが消えてるみたいで…よほどでなければ消えないと思うんですけど…」
「そっか…いや、仕方ないから謝らなくてもいいよ。頼みを聞いてくれてありがとう。気長に待つとするよ」
そう言ったアルさんは、それでもやっぱり少し寂しそうだった。
「力になれなくて悪いな、恋人、無事に帰ってくるといいけどな」
ネルの言葉を聞き、微笑んでアルさんは席を立つ。
「さて、僕は今のうちに客室やご飯の用意をしてくるね。寛いで待っててよ」
そう言い、彼は離れ部屋の用意などをし始めた。だけど、僕はさっきのことについて考えていた。
(普通2日くらいなら痕跡が残ってるはずなんだけど…まさか、いや…)
僕は少しの違和感を覚えつつも、そのことについては言わなかった。視線のあてもなく、ただ窓の外を眺める。
そして、夜は深くなっていった。少しの不安を織り交ぜながら…
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