大晦日
「ねえねえ皆、今日は何の日でしょうか?」
オウギさんが唐突にクイズのようなものを出す。
「大晦日ですね。」
「よく知っているわねミナミちゃん!」
「「大晦日・・・?」」
私とナオコちゃんはちんぷんかんぷん。
「大晦日っていうのは年の最終日ということで、来年がいい年になるように宴会を開く日なんですって!」
「一年の無事を感謝する日ですね。」
「なんか凄いな!」
「異世界の文化なの!実はそれをやってみたくて・・・」
「すごく楽しみです・・・!」
「そうと決まれば早速食材調達だな!」
するとドアをノックする音が聞こえた。
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔するわ。」
「今日は大晦日だから皆も宴会すると思って買いすぎちゃったおやつをお裾分けに来たの!」
カンナちゃんは袋からあふれ出そうなお菓子を差し出した。
「こんなに良いの!?」
「うん!」
「ホナミー!あいつら誘ってみないか?私もミナミも大歓迎だぞ!」
ナオコちゃんからの提案に私は全力で同意した。
「私も誘いたいと思ってたの!」
勿論アヤちゃんもカンナちゃんもその会話を聞いていたようで・・・
「え、良いの!?」
「お言葉に甘えさせてもらうわ!」
二人とも快く承諾してくれた。
「そういえば”ハツヒノデ”って知ってる?」
「ハツヒノデ?」
「明日の朝に見られる太陽の事なんだって!これも異世界の文化!」
「異世界って面白いなー!」
「良かったら皆でハツヒノデを見ようよ!」
「私も見たいです!」
「ハツヒノデを見るには一晩中ずっと起きてなきゃいけないんだってー!」
「一晩中!?」
「私も聞いた時は驚いたわ!」
「何だか怖いです・・・」
「大丈夫ですよホナミ。私がついてます。」
「えへへ、ありがとうミナミちゃん・・・」
そこで皆でハツヒノデを見るための"作戦"をたてた。
まず、夕方まで寝る。
起きたら夜まで空腹に耐える。
夜になったらご飯を食べる。
そしてお風呂に入る。
全員がお風呂に入り終わったらおやつを食べつつボードゲームで遊ぶ。(ボードゲームは夕方にカンナが持ってくる予定。)
「「「「「「おやすみなさい!」」」」」」
夕方まで寝た。最初の方はあまり寝つけなかったが、オウギさんが子守歌を歌ってくれたおかげで皆ぐっすり。最初に起きたのは誰だかわからないけれど、私が4番目に起きた事は分かった。
夜になり、最後まで寝ていたアヤちゃんを起こし、ご飯作りの準備をする。(という名の買い出し)
カンナちゃんはゲームを取りに行っているので、私とアヤちゃん、オウギさんとナオコちゃんとミナミさんの二手に分かれて村の食べ物を買う。けれども、太っ腹な村長代理のおかげで全品無料となっているので買うといっていいのか分からない感じになっている。
アヤちゃんと二人っきりで話したのは初めてかな。アヤちゃんはとても瘦せていて不安になってくる。エルフというより妖精のようなかわいらしい顔立ちがその儚さを引き立てているからちょっと近寄りがたい。
「何ぼさっとしているの?すぐ行きましょ!」
「ひゃい!」
それから道中、沈黙が続いた。気まずくなっていると
「!?」
顔と地面が近づく感覚を覚える。痛・・・くない!?
「大丈夫?私が一緒に居て良かったわね!感謝しなさい?」
アヤちゃんが転びそうになった私を抱くように受け止めてくれていた。
「ありがとう!」
「わっ私は当然のことをしただけよ!?」
そう言ったアヤちゃんの顔は心なしか赤くなっていた。照れちゃったのかな?
「そういえばこの村の店ってあんたたちにとっては全品無料よね。だったら宴会用にお洒落な服でも買っていかない?」
「わあ!それすっごく良い!」
「それほどでもあるわ!」
褒めるとアヤちゃんは凄く得意げな顔をした。意外と顔に出る子なんだなあ・・・
お菓子屋に着き、おいしそうなお菓子を片っ端から持って行った。
服屋に着いた。
「わあ・・・!」
「ほら、選ぶわよ!」
「はい!!」
「でも服のサイズとか分かるの・・・?」
「こういうのは目分量で良いのよ。」
アヤちゃんが服を選んでくれた。自分のを試着してみたけれど、自分でもとても似合っていると思えた。着方次第では普段使いもできそうで・・・アヤちゃん流石だなと思った。
「凄い・・・選んでくれてありがとう!私じゃ全然わからなかった・・・」
「大げさよ。私にかかればこのくらい余裕だわ!それにあなたたちって割と何でも似合うから・・・ああ!このことは忘れて!!」
「ええっ!?」
二人で仲良く話しながら帰った。
宿に到着するのは私達が一番遅かったようで、皆もうご飯の用意をすませていた。
「ふふふ・・・実は私達、衣装も買ったのよ!着てみなさい!」
皆とても似合っていた。
「すげー・・・」
「凄いわ!」
「凄い・・・ですね・・・」
「流石アヤちゃんだね!」
アヤちゃんは得意げな顔をした。
そして皆でご飯を食べた。ご飯は主にカンナちゃんが調理してくれたらしく、とても美味しかった。
食べ終わった順にお風呂に入り、最後の一人が出てきたらババ抜きを始めた。
「あー!!また負けたー!!」
「あはは、アヤちゃん分かりやすすぎだよー!」
「あんたは顔に出なさすぎなの!!」
「えー?いつもニコニコしてるだけだよー?」
「カンナって時々何考えてるか分からないよな・・・」
「そうねぇ、敵に回したくないタイプだわ。多分。」
「ではもう一戦、やりますか?」
「やる!」
「よし、今度は一抜けです。」
「ミナミちゃん強いよー・・・」
「なあなあ!次は七並べにしようぜ!」
「賛成!次こそは勝ってやるわ!!」
「ぬぅ・・・パス・・・」
「えへへ、一抜け~!」
「またカンナちゃん勝ったの!?」
「運は良い方なんだー!」
「何だか恐ろしくも感じるわね・・・」
こんな調子で暫くボードゲームで遊んだ。
「しりとりしたいです!」
「良いわね!」
「りんご!」
「ゴミ共が!」
「ガラスの様に!」
「煮込まれて!」
「・・・って!!何変な文章作ってるのよ!」
「夜のテンションだよー!」
「夜って恐ろしいですね・・・」
「眠くなってきたぞ・・・」
「存分に遊べば目も覚めるわ!」
「悪い夢でも見たらどうですか?」
「菓子でも食べたらどうかな?」
「なんかよく見るとちゃんとしりとりになってません!?・・・あ・・・」
今までしりとりで会話していたのに”ん”が付いちゃったから負けた・・・
「ホナミ!脱落したわね!!」
「一生の不覚です・・・」
「ふぁ・・・」
「大変だわ!ナオコちゃんが寝ちゃう!!」
「ナオコちゃん起きてー!!」
「すぅ・・・」
ナオコちゃんが脱落した。時刻は夜の11時。
「あぁ!ナオコちゃんの寝顔可愛い・・・!」
オウギさんが寝ているナオコちゃんに抱き着いた!?そしてそのままぐっすり・・・二人とも気持ちよさそうだから起こさないでおこう。
二人をベッドの上に運んだ。
「さて・・・これで分かったことがあるわ。それは・・・”はしゃぎすぎは禁物”という事よ!!」
「アヤちゃんも凄いはしゃいでたから危険かも!」
「そうですね。この中では一番危険かもしれません。用心して。」
「え・・・えぇ・・・」
「さて、何をしましょう。」
「皆が知っているボードゲームは一通りやったつもりですし・・・」
「人数も減ったもんね・・・」
「そうだ!ワードウルフとかどうかしら!」
「わーど・・・うるふ・・・?」
見たところワードウルフのルールを知らないのは私だけらしい。皆うなずいて賛成していた。ルールはカンナちゃんが簡潔に説明してくれたので何となくわかってきた。GMはミナミちゃんがやってくれるらしい。私に伝わった言葉は ”剣士”だった。
「近接職だよねー!」
「そうね。攻守万能な印象だわ。」
「物理攻撃ですよね!」
「割と人口が多いんじゃないかなー?」
「確かに、少なくはないわね。でもいう程多いかしら・・・?」
「冒険者にも政府にもいますよね!」
「うん!決まったよ!」
「えっ!もう!?」
「もう少し話し合いませんか?」
「うん!いいよ!」
話し合いは続いた。
「それでは、違うテーマを言っていると思われる人を指さしてください。」
投票が一番多かったのはアヤちゃん。
伝わったテーマは 私とカンナちゃんが”剣士”で、アヤちゃんが”騎士”だった。
「「やったー!」」
「くやしーっ!!」
暫くワードウルフをした。もうすっかり寒くなってきた。時刻は深夜1時。
「楽しいけれど何だか飽きてくるわね・・・。」
「そうだね・・・。眠い・・・」
「眠気覚ましに外に出てモンスター討伐・・・は、宴会らしさがなくなるから却下・・・」
「んー・・・悩むわね・・・zzz・・・」
アヤちゃんが脱落した。残り三人。
「残り三人、何とかしてハツヒノデを拝もう!」
「「はい!!」」
なぜか今まで存在を忘れていたまじかるバナナを必死でやり、眠りそうになった人にはミナミちゃんお手製即席ハリセンで叩きあった。痛い・・・そしてミナミさんが今にも寝てしまいそうなカンナちゃんをたたいた・・・けれども、勢いあまって気絶させてしまった。
カンナちゃんが脱落した。時刻は早朝5時。本当にこれまでよく頑張ったと思う。
「ホナミ・・・窓の外を見て下さい。」
「うん・・・。」
窓の外を見てみると、空は真っ黒じゃなくて段々青に染まっていっていた。
「すごい・・・」
「ええ。私達、頑張りましたね。ですがこれからですよ。」
「まだハツヒノデは見えていないもんね!」
それからミナミさんと二人でゆっくり話し、笑いあった。それ以降はよく覚えていない。
ハツヒノデが見られたのかすらもよく覚えていない。いつの間にかミナミさんの膝の上に頭があるようで、視界も少しぼやけている。
ある程度視界が晴れたら膝枕をしてくれているミナミさんの幸せそうな寝顔が見える。
・・・まだ寝ていよう。おやすみ。