1 困惑
・・痛い・・。
ほんの少し、ジクジクと痛む・・。
肩口から千切れ飛んだ右腕の付け根が痛む。
傷口からはマナが流れ出し続けている。早く塞がないと・・。
右腕があったハズの場所から目を離し、前を見る。
・・・死屍累々。
辺り一面に、死体が横たわっている。
致命傷を負って失血死した者、胸を撃ち抜かれて大き過ぎる風穴が開いている者、上半身と下半身がさようなら してしまった者、バラバラに飛び散ってしまった者、焼け焦げて炭化している者、ドロドロに溶けて骨を晒している者・・様々だ。様々な死に様の死体が転がっている。
死体なのは変わらないのだが、辺り一面の死体に共通した特徴がある。
皆、1人残らず・・頭が、無い。
首から上が無くなっている。
無くしたのは私だけど、何故『頭を残しては いけない』と思ったのか理由が思い出せない。
「・・・安らかに眠ってくださいね・・」
無感情な声が、死者への安寧の祈りの言葉を紡ぐ。
こいつらが私にしようとした事を思えば、悼んでやる義理は無いのだが、まぁ・・一応だ、一応。
さて・・・アレで良いか・・。
転がっている死体の中に・・右腕の長さと太さが、私の左腕と近そうな死体があったから もらう事にした。
出来れば、千切れ飛んだ腕を付けたいのだけど・・どういう訳か、何処にも見当たらない。
だから、仕方無かった。仕方無く、死体の腕を もらう事にしたのだ。
・・・ぅん。うまく切り離せた。
「・・・ぅあ・・」
・・・やっぱダメだったかー・・。
『近い』とは いっても、男の腕だ。太さとか 丸っきり違っていた。
何でコレを『近い』と思ったのか・・。
でも無い物は無いのだ。贅沢は言っていられない。
仕方なく、切り取った右腕を右肩があった辺りに押し付けてみた。
・・・。
感覚で分かる。
押し付けた肩口から、腕の中に何かが侵食していく。
どのくらい押し付けていたのか、左手を離しても右腕は落ちなかった。
何とか繋がった様だ。
・・・ょし。
腕が馴染むまでに、何か出来るハズだ。
顔を上げて、改めて周りを見回してみた。
ハッキリと覚えていないけど、周りに散らばる死体を死体にしたのは私だ。
それは間違い無い。
でも、ハッキリと言える事がある。
「・・貴方達が悪いんですよ?私に乱暴しようとするから・・」
まぁ、そもそも・・だ。
『今の私』を乱暴できるのか、その時点から分からないけど。
・・・。
綺麗だとは思う。
見下ろした身体は・・大き過ぎず小さ過ぎず程よい大きさの乳房、弛んでいるようには見えない腰周り、多分小尻に見える お尻。
うん・・生前の私よりスタイルが良いと思う。
強いて生前でいえば、高校生くらいの頃・・水泳部に在籍してた頃に近いスタイルだと思う。
何か色合いが変な事を無視すれば、綺麗だとは思う。
・・・高校生?何だっけ、それ・・?
・・・。
何か、身体に違和感がある。
改めて身体を見下ろせば、肌色だったかと思えば半透明に、半透明になったかと思えば白濁色に、色合いが変わっている。
どういう事なんだろう。
私の身体は一体どうなってしまったんだろう・・?
・・・・。
気になるが、ひとまず・・其れは其れ、だ。
周りは全部死体とはいえ、流石に全裸は恥ずかしい。
それは思い出せた。
きっと、大切な事だと思う。
■
死体を漁りに漁って、比較的無事な衣類を剥ぎ取ってみた。
うん、全裸よりはマシだと思う。
でも、下着が欲しい。
周りの死体は全部『男』だから、女物なんて望めようも無かった。
身に付けたブカブカの男物の服の下は、ノーパンにノーブラだ。
それに、死体からの『血とか』でビチャビチャヌルヌルして肌に貼り付く。
・・・気持ち悪い。ものすごく、気持ち悪い。
一緒に剥ぎ取った荷物は そこそこの量ある。
多分、金品も少なからず有るとは思う・・ぅーん・・有って欲しいなぁ・・。
その金品でマシな服を手に入れたい。
・・・。
荷物を持つ『右腕』は そこそこ馴染んできたと思う。
余った皮がだいぶ弛んでるけど、時間が経つにつれて無くなってきている。
しばらくすれば きっと、右腕も左腕と変わらない見た目になるだろう。
何故かは分からないけど、「死体の腕を替わりにしよう」と思った時と同じで、何となく「大丈夫だ」と思えるのだ。
・・本能的なモノなのだろうか。
「・・ん」
・・・この感覚は・・
「気付きましたか、私」
『・・・何なの』
ええ。私も知りたいです。何なんでしょう・・。
今、『私』が置かれている状況が知りたいです。
きっと、「私」なら何か分かるのでは ないでしょうか。