世界観も否定する!
「というかおかしいだろ。なろうの世界だろこれ。そうでなきゃ、転生するなら普通に親から生まれてこさせてくれよ。何で前世の記憶を持ったまま、原っぱにポツンとレベル1で投げっぱなしジャーマンされなきゃいけないんだよ」
ハゲ神は、その質問待ってましたとばかりに鼻息を荒くした。
「作者の思い付きだ!」
メタやめろ。それやっちゃったらお終いだよ。最初から始まってもねえけど。始まっていないと思いたいだけだけど。
「まぁ、もっと言うなら、悪ノリ?」
疑問形ヤメロ。何なの? ツッコミ待ちなの? ツッコんだら満足すんの? 俺のレベルも上がってWin-Winなの?
「そうだ、Win-Winだ。わたしのボケも遺憾なく発揮でき、きみがツッコむことできみの承認欲求も満たされる。良いことだらけだろう」
「俺の存在意義をツッコミすることみたいに言うな」
「えっ」
「えっ」
俺はあのハゲ頭でプロレスラードッジボール大会をしたい衝動を必死に抑えた。
「それでだ。突然生きる世界が変わったのだから、きみも混乱するだろうと、ある程度の知識をきみに授けたいと思ってな。わたしが、神が、この神様が、おんみずから満を持して鳴り物入りでやってきた、というわけだよ」
ようやくこのハゲ神がこの場にいる意味を見出せそうな発言をしやがった。一ページ使っちまってるじゃねーかこのハゲ。
「それで、見たところこの辺りは平和そうだが、どういう世界なんだ? モンスターが跳梁跋扈しているのか? 魔王と勇者がいるのか? スキルがあったりするのか? ガラスもないような文明水準の低い世界だったりするのか?」
「えっ何それ、よくそんなこと考えつくね!? 駄目だよ、上を見たらきりがないけど、下を見てもキリがないもんだよ?」
どうして俺が諭されてんだよ。なんだこのモヤモヤ感。
「大丈夫。この世界は生活水準はノルウェー並みだから心配しないで!」
ハゲ神がにかっとウインクしながらぐっと親指を突き出した。
ノルウェーとか、2018年、住みやすい国ナンバーワンじゃねーか。
「ちょっとだけ税金は高いけど、殆ど国民に平等に還元されるから誰も文句言わないよ。教育、医療、福祉はぜんぶ無料! インフラも整っている! 治安も良いから夜に女の子や子どもがひとりで出歩いても大丈夫! 地下資源が豊富だから当面の財政も心配なし! 王様は世襲制だけど政治に口出し無用! 大統領は国民投票! 重要な役職の大臣はその道のプロからの厳正な推薦と会議で決まり、会議は中継され、忖度一切ないクリーンな政治を国民と一緒に目指しているよ!」
どんな理想郷だよそれ。不満も不平もないじゃねーか。
「まぁね。町を出れば自然がいっぱいだし、気候も良い。人々はみんなおっとりにこにこ、助け合ってつつましく暮らしているよ」
むず痒くなるような平和な国らしい。ホント俺、何で転生して来たんだよ。この世界はそっとしておいてやるべきなんじゃねえの?
「いやだから、転生生活を楽しんで……」
「本当の意味でのスローライフを送れってか」
俺はため息をついた。確かにレベル2でも問題ねえや。何のレベルかは知らんけど。
「だいたいなんで、魔王もいないのにレベルとか」
「魔王いるよ? ただ今はちょっと、サンゴの海を埋め立て反対って座り込みに遠出しているから、魔王城を空けてるけど。あの人、魔王城の敷地内に入るのにバカ高い交通料取ってるし、金持ちからは非常識なぼったくり詐欺しているけどね、そのお金、身寄りのない子どもを預かる施設に寄付したりしてるから」
それもう魔王じゃなくて義賊じゃねーか。
「だったら勇者は」
「勇者? えーっと、再来年くらいに生まれてくる予定が未定」
俺はこのハゲ頭で二度と神々しく光を反射できないように、形をいびつに変形してやりたい衝動を必死に抑えた。
「で? この国って?」
「ウロナ国」
「逆なろう、つまりアンチなろうってか」
「バカヤメロチガウ。ワタシソンナコトイッテナイ。ソレは、アレだ。ほら、何でも逆から読むとそれっぽく格好いい」
「いくつになって厨二病拗らせてんの?」
「やめてホント。なろうサイト様には大変お世話になっておりますので。ホント素敵なサイト様ですわたし大好き。○ズキ○ーペさんより大好き」
今度は露骨に媚びを売り始めた。一貫性がなさすぎだろ。
「二葉亭四迷」
「ちょっと、やめて。暗にくたばってしまえなんて言わないで」
「いや、暗にじゃなくて、割と直接的に言っている」
「余計悪いではないか! 良い子はマネしない! 悪い子も極力マネしない! 天下の二葉亭四迷先生を罵るとは何たる暴挙!」
「俺が罵ってるのはオメーだよ!」
パンパカパーン、レベル3になりました。
どちくせう!
※参考文献:佐藤亮一編(2002)『都道府県別全国方言小辞典』三省堂.