#08
#08
「神田チャーン」
「はーい!」
仲のいい女の社員さんに捕まって、彼氏の話を根掘り葉掘り聞かれる。私のことを気に入ってくれていた新卒の男性はちょっと残念そうだった。
塾長に呼ばれた忘年会は地元では有名な居酒屋さんで、学生にはちょっと行きづらいところだったから、入れてラッキーだった。
「神田ちゃんが付き合ったって聞いたときは、和泉くんかと思ったけどね」
「まさか」
『それ、私も思ってた』と先輩社員さんも食いつく。咲穂の言ってたことは、社員さんにも広まっていたのか。
「仲良いだけでそれ以上でもそれ以下でもないですよ」
「とか言ってー!本当は好きだったとか無いの?」
「だって、あいつ彼女いますもん」
「え、そうなの?」
意外と知られてなかった和泉の彼女の存在。
「ほら見てください。左手。あれ、彼女とのペアリングなんです。」
「あ、本当だ。そんなイメージ、あんまりないけどね」
「びっくりしちゃいますよね」
「神田、今俺のこと馬鹿にしただろ」
いつのまにか空いていた私の隣に和泉が座る。
「そんなことないよ?」
「ペアウォッチ付けちゃうようなお前に言われたくないけどね」
『これお揃いなの?』って私の左手を取る社員さん。
「余計なこと言わなくていいのに」
「それはお前もだろ」
「ペアリング買ったときに見せびらかして来たの誰ですかー」
「見せびらかしてねぇし」
ふんとお酒を口に含むと黙ってしまう。
「彼女どんな子?」
「秘密です」
「神田ちゃんよりも可愛い?」
「ちょっとそれ聞くのは私が悲しくなるんでやめましょ」
近くにいた新卒の社員さんが『馴れ初めは!?』と詮索に入ったから私も乗っておくことにした。
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