#03
#03
「雪乃」
集合が13時に大学院の正門前。今から行くと連絡が入ったのは2分前だった。13時1分、リュックに白いニットと黒いスキニーパンツと言った無難な装いで現れた。右手には私とお揃いの腕時計。
「待った?」
「待った」
「寒かったな、ごめんね」
行こうかと手を出され、その手を取る。冷たいと笑いながら指を絡めた。
日向 修斗は今年から大学院に進学し、化学の分野で研究している。
知り合った当初から何も変わらず、明るくて人当たりが良くて、女の私が言うのも変だけど、可愛い愛されるタイプだ。
「寒いしカフェでも行こうか」
「そうだね」
買い物をしたくて、一駅電車に乗る。修斗はまだ私の手が冷たいことに気がついたようだった。
「修斗は研究サボって平気なの?」
「土日にやるから大丈夫
俺が雪乃と遊ぶの断って研究やってほしかった?」
「そう言うわけじゃないけど」
「だったら、雪乃に会えるから今日は遊んでいいの」
全く腑に落ちないけど、本人がいいって言ってるから仕方ない。
私は天邪鬼だから、ダメって言われると研究の邪魔したくなるけど、基本的にはあまり負担になりたくないし、私の優先順位は低くても構わない。
けれど、修斗は会えるなら会いたいと言うし、後で苦労するとわかってても時間を作ってくれる。愛されていると言えばそうかもしれないけど、心配な部分でもあった。
駅を出て、近くにあった手頃なカフェに入る。2人でいるときお財布は出すが、大丈夫と言われることも多い。そういうときは、支払ってる隣で気持ち、小銭を修斗の財布に忍ばせる。
「お砂糖は?」
「いる、」
修斗の手にはホットのカフェラテとブラックコーヒー。お店の窓際のソファ席が空いていたので、私たちは並んで腰を下ろした。
ひとしきりぶらぶらし、途中で見つけたイタリアンのお店に入る。チーズにこだわっているというシーザーサラダは、確かに他には無いほど、濃厚なチーズとシャキシャキしたサラダがマッチしていた。
「おいしい!」
「入って正解だったね」
まだサラダなのに、この盛り上がりよう。子供みたいにくるくる変わる表情に目が離せなくなったのはいつからだろう。
「パスタも楽しみだね」
「絶対美味しいじゃん〜
雪乃のも一口食べたい」
やがて運ばれてきたパスタも、やっぱり美味しくて語彙力が低下しながらも、おいしいおいしいとフォールを動かす。
あっという間に食べ終わると時間は21時を指していた。
「この後どうする?」
駅までの道を手を繋いで、ぷらぷらさせながら歩く。
「うーん」
「帰る?それとも、…まだ一緒がいい?」
「…まだ帰りたくない」
俺も、と笑った修斗は、ぎゅっと繋ぐ手を強め、空を見上げた。
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