#11
#11
駅とは反対方向に進む。初めは手首を捉えられていた手が、いつのまにか指を絡めていた。
適当に選んだホテルに入り、なされるがままに部屋に入る。扉を閉めた瞬間に、唇を奪われた。背の高い和泉とキスするには、少し上を見なくてはいけなくて、隙を見て休もうとすると、グイと顎を掬われる。キスだって、そんなに可愛いものではなくなってきたから、息が苦しい。
こんな全てがどうでもよくなってしまうようなキス、いつも彼女にしてるのかって考えたら、余計に苦しくなった。
「なんでキス…」
「したくなったから」
和泉の右手の薬指にはペアリングが、私の左手にはペアウォッチがそれぞれ輝いていて、
ここで、
どうして?
って聞いたらいけないような気がして
私のこと、好きなの?
って興ざめするような質問なんか言えなくて、かろうじて出た言葉が
「私も酔ってるから」
なんて言い訳みたい。
「うん、…知ってる」
私の言葉だけで何が言いたいのかわかったみたいでそれ以上の追求はなかった。
お互い無言で事が進んでいく。
普段あんなに見慣れた指先が、まるで知らない人みたいに私の肌を撫でる。初めてじゃないのに初めてみたいに反応してしまう自分が恥ずかしくて、ぎゅっと唇を噛み締めた。
だって、全然知らない顔してる。
あんな欲情した顔、見たことない。
私がそんな顔にさせてるんだって思ったら、ちょっとした優越感。
どうしたら、もっとそんな顔見せてくれる?
シャツのボタンに手をかけたら
「余裕あんね」
目を伏せて笑ってた。