#10
#10
細い小道を歩いているとお兄さんたちのキャッチが押し寄せてくる。キッパリと断りながら前を歩く和泉の後ろを私はくっついて歩いた。
しばらく歩くと居酒屋街を抜けて、街灯が照らす一本道になる。さっきの喧騒とは違い、静かな夜の道。風が木の葉を揺らすように吹く。コンビニも無く、あるのは丸い月と二つの影だけ。
「最近どーですか」
「何が」
「かのじょと」
先に押し黙る空気に耐えられなくなったのは私の方だった。道に転がった石を不意に蹴ってしまい、コロコロを転がしてしまう。
「まぁ…」
「意外と長続きしてんね」
「ゆーてそれはお前もじゃん」
「なぜかねぇ」
今までろくに長続きしたことない私からすると、修斗と付き合っていることは奇跡にも違い。
「…なぁ」
「ん?」
隣を歩いていたはずの和泉が、急に目の前に立ちはだかる。ぶつかりそうになった私は、前につんのめった。文句を言おうと顔を上げだら、思ったよりも近くに顔があって、怯む。急に合った目に熱を帯びた光見たような気がした。
目をそらすように俯くと、少しかがんで覗き込む和泉。とっさのことで何も抵抗できないまま、ふにっと唇同士が触れる。
「!?」
「…ちゅーしたくなった」
あまりにも一瞬のことで、回らない頭で今のは私のぶっ飛んだ妄想じゃないのかと勘違いしそうになった。
「酔ってんの?」
「たぶん」
震える声で聞くと、ふって余裕そうに笑う。私ばっかりが動転して馬鹿みたいだ。
「路チューとかする人なんだ」
精一杯の考え付いた皮肉は
「今のがハジメテ」
さらに気が動転するような返事で返される。
「…意味わかんない」
「、こっち、」
手を引かれ、本来なら駅に向かうはずの通りを横道にそれた。
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